日本、北制裁履行できず 国連決議、法整備に遅れ リスト外規制品押収に壁
2017.4.12 07:22 産経新聞
核・ミサイル開発を進める北朝鮮に対する国際圧力が強まる中、日本政府が、国連安全保障理事会による対北朝鮮制
裁決議をまともに履行できていないことが11日、分かった。対北朝鮮制裁関連法が、次々に採択される国連決議に追
いついていないからだ。日本は制裁決議の旗振り役を務めてきただけに、現状のまま放置すれば「日本の対応は国連
決議違反だ」と国際的な批判を浴びかねない。
国連安保理は、北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射を受け、北朝鮮への「ヒト・モノ・カネ」の流れを絶つことを目指
し、平成18(2006)年以降、6つの制裁決議を採択した。その度に規制品リストを明記し、加盟国に検査・押収を義務
づけた。
25(2013)年以降は、北朝鮮が市販の電子部品や機械部品などを核・ミサイル開発に転用している実態を踏まえ、リ
ストに入っていなくても加盟国が「非合法目的」と判断すれば「いかなる品目」であっても、輸出入はもとより移転も阻止す
るよう対象を拡大した。昨年の決議では、これらの移転阻止を加盟国に義務づけた。にもかかわらず、日本では、リスト
に入っていない品目を独自判断で押収できる仕組みは整っていない。制裁対象である規制品の検査・押収を可能にす
る貨物検査特別措置法(平成22年施行)の大幅改正が必要となるからだ。
対北朝鮮緊迫 制裁不履行 「不作為」国際的批判も 煩雑作業、運用追いつかず
2017.4.12 07:54 産経新聞
北朝鮮の核・ミサイルの脅威にさらされる日本は対北朝鮮制裁の旗振り役を務めてきた。にもかかわらず、国連安全保
障理事会の制裁決議をまともに履行していなかったことは、国際社会に「不作為だ」と批判されても仕方あるまい。(石
鍋圭)
自民党拉致問題対策本部は10日、「拉致被害者全員の帰国実現のための提言」を発表した。
「汎用(はんよう)的な民生品等が核開発・ミサイル関係機器に転用されている実態に鑑み、貨物検査特別措置法のリ
ストに記載された品目以外についても押収できるよう所要の措置を講じる」
提言では、安保理決議による資産凍結対象者の拡大や、北朝鮮と取引する第三国の金融機関や企業を対象に、資
産凍結を含む二次的制裁の実施なども求めた。裏を返せば、自民党は対北制裁に多くの穴があることを認識していた
わけだ。
日本政府も何もやらなかったわけではない。国連安保理決議採択のたびに、貨物検査特措法に関する政令・省令を改
正し、規制品リストに反映してきた。
だが、昨年3月採択の決議2270号は対応に向け、意見公募を終えただけ。11月採択の2321号は手つかずのまま
だ。外務省は「優先して取り組んでいるが、作業量が多い。決議を解釈して運用面に落とし込む難しさもある」と釈明す
るが、他国は既存の法律を準用して非合法物資を押収しており、国際社会でこの言い訳は通用しない。
一方、税関を所管する財務省は「いままで押収できなかったものはない」と説明するが、疑わしい。対北制裁の専門家は
「他国は押収能力のない国に情報提供しない。情報不足の上、分析努力も怠っているのではないか」と指摘する。
日本が第三国に輸出した製品がトンネル会社を経て北朝鮮に流れるケースも後を絶たない。国連決議を完全履行す
るには抜本的な法整備が必要となる。
それが進まないのは、制裁対象品を第三国の貨物で発見・押収すれば、外交トラブルに発展する可能性が大きいから
ではないか。
また、日本に寄港した貨物船を片っ端から検査し、「北朝鮮の核・ミサイル開発と関連がある」という疑いがあるだけで
物品を押収できるようにするには強力な法律が必要となる。テロ等準備罪さえ猛反発している野党が法案審議に簡単
に応じるとは思えない。政府・与党には、法整備に膨大な審議時間を費やす覚悟が必要となる。
安倍晋三首相は6日、トランプ米大統領との電話会談で「中国の北朝鮮に対する制裁措置は不十分だ」という認識で
一致した。それならば「まず隗(かい)より始めよ」。対北制裁に実効力を持たせるため、今こそ省庁の垣根を越えた抜
本的な法整備が必要ではないか。