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<新型コロナウイルス>新型肺炎が感染拡大、やはり隠蔽していた中国政府。 春節で民族大移動、懸念される「スーパースプレッダー」の出現。 福島 香織

2020-01-24 14:38:43 | 医療・疾病・疫病・パンデミック・新型コロナウイルス

新型肺炎が感染拡大、やはり隠蔽していた中国政府。

春節で民族大移動、懸念される「スーパースプレッダー」の出現

2020.1.23(木) JBpress   福島 香織:ジャーナリスト

マスクをする人々。2020年1月22日、上海駅で撮影(写真:ロイター/アフロ)

 

 1月25日の春節を挟むおよそ40日間、中国では延べ約30億人が国内のみならず世界中を

大移動する。人呼んで民族大移動。従来なら各国は威勢よく金を落としてくれる中国人

旅行客を大歓迎するのだが、今年はできれば来てほしくない、特に湖北省武漢からは、

と思っていることだろう。

 

 理由はもちろん、例の武漢発の新型コロナウイルス。世界保健機関(WHO)が

呼ぶところの2019年新型コロナウイルス(2019-nCoV)、通称“武漢肺炎”だ。

 

 往時の広東省発のSARS(重症急性呼吸器症候群)に比べれば中国当局の初期対応は

かなり良い、という声も聞かれれるが、本当にそうだろうか。よくよく調べてみると、

多くの人たちが想像するより手ごわいウイルスかもしれない。

 

公表されなかった最初の患者

 昨年(2019年)12月8日、武漢で原因不明の肺炎患者が最初に報告された。

このときは公表されなかったが、12月30日、内部報告の公文書「原因不明の肺炎

救援工作をよくすることに関する緊急通知」がネットに流出したことで、武漢で

原因不明の肺炎が広がっていることが国内で噂になった。この段階では、感染源地と

される華南海鮮城(市場)はまだ閉鎖されておらず、多くの人たちが年末の買い物に

訪れていた。長江日報の記者は問題の市場を訪れ、「市場の秩序は保たれ、多くの

人が買い物をしている」と報じて、噂を否定した。

 

 だがその翌日、中国メディア・第一財経が、ネット流出した文書が本物であること、

12月8日に最初の患者の報告が行われていること、感染者が市内の華南海鮮市場の

出店者であることなどを報じた。この報道によって“武漢肺炎”の発生が広く知られる

ことになった。

 

 華南海鮮市場が正式に封鎖されたのは年明けの1月1日である。このときすでに

感染者は27人に広がり、うち重篤症状は7人にのぼっていた。

一方、ネットで武漢肺炎の噂について情報を流したネットユーザー8人が、「肺炎に

ついて事実でない情報を流した」として警察に身柄拘束されていた。

 

 最初の例の発症から、市場の消毒など本格的な感染防止対策に入るまでおよそ

3週間かかっている。政府の対策は決して早いとはいえないが、原因不明の感染症が

発生したことを隠蔽したまま春節を迎えた2002~2003年のSARSよりはよっぽど

ましだと人々は思った。SARSで懲りているだろうから、さすがの政府ももう隠蔽は

しまい、と。だが、その後、あれよあれよという間に感染者は増え続け、タイや

日本にも感染者が出た。

 

武漢市当局が否定していた「人から人への感染」

 ネットでは、匿名の微博アカウントによって、武漢同済医院には廊下にまで肺炎患者が

寝かされている、といった怪情報が1月16日に流れ、ネットユーザーたちを震撼させた。

 

 このアカウントによれば、自分の父親が肺炎症状を訴えて新華医院で受診後、

ウイルス性肺炎と診断されて同済医院に転送された。だが、同済医院は廊下も病室も

肺炎患者だらけで、収容できないので自宅療養してくれと言われて返されたという。

父親は家に戻ると肺炎症状から呼吸困難に陥り、武漢肺炎の隔離病院に指定されている

金銀潭医院に救急車で搬送された。その後、母親と自分にも同様の肺炎症状が

あらわれた。金銀潭医院に連絡しても、外来診療科がないので対応できないと断られ、

心細くなって仕方なく微博に書き込んだ、という。

このアカウントは間もなく削除され、多くのネットユーザーたちは「やはり情報隠蔽が

あるのではないか」と疑心暗鬼になっていた。

 

 人から人への感染の可能性は、国外の専門家が指摘し始めていたが、武漢市当局は

「証拠はない」と突っぱね、1月19日にようやく「人から人への感染の可能性を

排除できない」と表現を改めたのだった。

 

 こうした状況に対し、習近平は1月20日になって国務院聯合防止聯合コントロール

メカニズムを招集して、武漢コロナウイルス肺炎感染の拡大防止徹底を指示、

情報隠蔽に対しては厳罰に処す、と発表した。これに合わせて中国メディアも

「感染の隠蔽は千古の罪にあたる」と報道。すると広東、上海、北京で、続々と

感染者確認の情報があがってきた。普通に考えれば、すでに感染の広がりは地方当局

レベルでは確認されていたはずである。だが、それをずっと公表してこなかった。

これを隠蔽と言わずして、何と言おう。

 

SARSよりも封じ込めが厄介?

 1月22日現在の情報をまとめておくと、国務院の同日の記者会見によれば、武漢肺炎の

感染者は湖北、北京、上海、広州、四川、天津、重慶、浙江、河南、山東、雲南、

湖南など国内13の省、市、区で累計440人、うち9人が死亡、疑似感染46人。夜になって

感染者は26の省、区、市で473人(マカオ1人、香港1人含む)、疑似感染182人に

更新された。 死者も湖北省衛生当局は17人に更新。また米国疾病コントロール

予防センター(CDC)は22日、最近中国旅行をして帰国した米国居住者に感染が

確認されたと発表した。これで海外感染者は、タイ4人、韓国1人、日本1人、台湾1人と

合わせて8人になった。

 

 BBCが1月18日に、すでに1700人以上が感染している可能性があると報道しており、

感染者数は今後も増えていくとみられる。2002~2003年春に蔓延したSARSが最終的に

8098人に感染、774人が死亡したことと比べると、感染力はSARS以上といっても

過言ではない。今のところ死亡率がSARSより低いことが救いだが、感染が効果的に

封じ込められなければ変異して毒性が強くなるかもしれない。

 

 ちなみに現時点で1700人以上というのは、英国政府やWHOの感染症対策などの

コンサルティングも行っているロンドン帝国理工学院MRCグローバル感染症分析

センターの専門家が統計学的に予測した数字である。武漢から海外に出る旅行者は

1日平均のべ3301人、武漢国際空港がある地域の人口流動量は1900万人、感染から

発症確認まで平均10日前後、潜伏5~6日、発症後の検査、確認にかかる時間を4~5日、

タイ、日本の発症確認例は発症後3日、および7日で病院隔離が完了、といったデータを

もとに算出したという。

 

 潜伏期間がSARSよりも長いことや、症状が軽く済んで武漢肺炎と気づかないまま

治癒するケースもあることが感染拡大スピードに影響しているのではないか、

とも指摘されている。そうなってくると、実はSARSよりも封じ込めが厄介なウイルスと

いえるだろう。

 

医療従事者の間でも感染

 香港のネットニュースによれば、医療従事者の感染も出ているようだ。

武漢肺炎専門家チーム(代表、鐘南山)のメンバーとして12月31日に武漢の

現場入りした北京大学第一医院主任の王広発医師が1月21日までに感染したことが

確認されている。

 

 専門家チームの代表であり、2003年のSARS発生のときに当局の隠蔽を告発し、

対策の陣頭指揮もとったことで知られる中国主席感染症専門家、鐘南山はこの状況を

受けて、武漢肺炎は「人から人にも感染し、目下、医師、看護師ら医療従事者14人が

感染している」と証言している。

 

 武漢両間医院の1人の脳外科医から14人の医師・看護師への感染も確認されており、

医療従事者の感染者数は1月22日の段階で20人に増えた。院内感染は本来絶対起きては

ならない事態であり、SARSの経験が生かされていなかった、と言える事態だ。

 

 チームメンバーの香港大学微生物学感染症学講座の袁国勇教授は1月20日、武漢肺炎に

ついて、「いま感染第一波、第二波が出現しているが、目の前の第三波が食い止め

られなければ、2003年のSARSの再演となる」と強く警告。

 

 第一波とは感染源地とみられる華南海鮮市場関係者の発症に限定されていた時期、

第二派とは市場周辺地域から武漢市への感染の広がり、そして第三派は感染源地とは

まったく関係のないところで感染が広がる状況を指す。すでに第三波が始まりかけて

いるわけで、これを食い止めなければ、どっと感染が拡大する危険がある。

武漢から遠く離れた深圳の発症が報告されたのは1月3日。それが19日まで確認されて

いなかったのは、単に技術的な問題ではなく、やはり情報が隠蔽されていたから、

といえる。

 

 ちなみに今回の新型コロナウイルスの宿主は、鐘南山によれば、タケネズミが

疑われている。ネズミ年に、ネズミから始まる疫病が中国で起きるなんて、そんな

語呂合わせは面白くもなんともない。タケネズミは中国の四川や広東、広西チワン族

自治区でも養殖され1匹100元前後で売られている。だとすると発生源が武漢の

市場だけにとどまらない可能性も考慮せねばならない

 

隠蔽体質の役人と機能不全のメディア

 SARSが発生した2002年暮れから2003年春、私は北京特派員で、防護スーツを着て

病院内の取材に行った。あの頃の情報隠蔽、目に見えないウイルス感染の取材は、

余震の続く震災現場の取材やフィリピンのテロ組織アブ・サヤフ支配地域の

潜入取材とはちょっと異質の恐怖感があった。情報がない、敵が目に見えないと

いうのはかくも不安なのかと思い知った経験だった。

 

 あのとき、未知の感染症の恐ろしさを中国当局もメディアもいやというほど経験した

はずだというのに、15年も経てば忘れるのだろうか。

 

 習近平政権になってから、反腐敗キャンペーンによって習近平に従順でない官僚、

公務員への粛正が加速していることから、ここ数年、官僚、公務員がネガティブな

情報に「気づかないフリ」をするサボタージュの傾向が顕著だといわれている。

今回の感染症情報も、習近平は「隠蔽したら厳罰に処す」と、懲罰をちらつかせて

情報を上げさせているが、結局のところ懲罰や命令がなければ、彼らは自主的には

動かないということかもしれない。

 

 こうした官僚体質や、政治家の保身、権力闘争による隠蔽を暴き、公民の知る

権利を守るのはメディアの役割だが、中国のメディアそのものが、党の宣伝機関で

あることを第一任務に負わされている官僚機構だ。このため、党にとってマイナス

かもしれない情報を探ったり公表したりすることはできない。

しかも習近平政権になってメディア統制は各段に厳しくなっている。

結局、官僚システムの問題に加えてメディアの機能不全が、中国のリスクの本質だと

いえる。

 

 そういうわけで、習近平政権がすぐさまとるべき行動は、情報隠蔽を禁止する

大号令だけではなく、メディアに対する締め付けを緩め、政権を批判しネガティブな

情報を発信する言論人、知識人への弾圧をすぐさまやめることだと思う。

 

懸念される「スーパースプレッダー」の出現

 さて、日本の自由なメディア業界のなかでも自由の極致にあるフリーランスの

身として、ここで言いたいことを言わせてもらうとしたら、武漢肺炎は春節大移動の

中で「スーパースプレッダー」(感染拡大に拍車をかける人物)を生むかもしれない。

つまり、ものすごく感染力と毒性をもつように変異したウイルスの感染者である。

 

 日本政府、自治体は、そのことを念頭に徹底的な水際での防止対策を講じてほしいが、

ここで重要なのは、一人ひとりの自覚的な行動である。今の時期、中国に旅行に行くな、

とは言わないが、行くならば、うがい手洗い、マスク、できるだけ人込みに行かない、

感染症かも、と思ったら速やかな医療機関の受診、陰性の確認取れるまでの他人との

接触に留意、などは絶対である。

 

 中国内の人たちには、少しでも体調不良を感じたり、タケネズミなど野生動物に

接触した経験があるなど、感染の可能性に少しでも心あたりがあるなら、いっそ移動、

旅行を取りやめる決断力をもってほしい。春節は毎年くるのだから、今年の春節ぐらい

自宅でまったり過ごしたらどうだろう。野生動物由来の未知のウイルスの恐ろしさを

甘く見ないことだ。

 

 “必乱”の年の2019年から続く災いを持ち越さずに2020年を迎えられるかは、

この春節大移動で、武漢肺炎の感染拡大が阻止できるかにかかっている。

 


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