「世界銀行が農民を弾圧する企業を支援」ホンジュラスの農園で起きている凄惨な所有権闘争
2012年8月21日、テグシガルパの最高裁判所近くで抗議する人々を退去させるときに、負傷した農民を拘束する機動隊員。機動隊員は、催涙ガスを発砲し、農民を排除しようとした。農民はバリケードを張り、タイヤを燃やして、主要となる大通りを封鎖した。ホンジュラス北部のバホ・アグアンの農民に対し武装を禁止する法令が発布されたが、農民たちは最高裁判所で憲法違反であるとの訴えを起こした。JORGE CABRERA / REUTERS
ホンジュラスの農民とその家族が、世界銀行を訴えている。世界銀行が暴力的なパームオイル会社「ディナント・コーポ
レーション」(ディナント社)を支援し、会社は事業に反対する農民を暗殺したという。
ワシントンD.C.の連邦裁判所に3月7日提出された訴状によると、世界銀行のグループ機関「国際金融公社」(IFC)
は、ディナント社に資金を貸し付け、「殺人を犯す企業と分かっていながら、融資することで利益を得ていた」という。ディ
ナント社は、ホンジュラス北部の農地を暴力的に支配しようとしていた。
国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が3月8日、訴訟について報道した。ICIJは以前、ハフィントンポストUS版と連
携し、ホンジュラス北部のコロン県バホ・アグアンで起きた農地所有権をめぐる抗争でIFCが果たした役割について調査
報道したことがある。
バホ・アグアンでは、土地の所有権について法律が改正され、それが基となり、貧困層の農民と土地を買い上げる実業
家との間で争いが起きた。
ディナント社に抗議した地元農民は、その口を封じられた。訴状によると、農民の権利団体に所属する2人の農民が、
「民兵の暗殺部隊」に銃撃され致命傷を負ったという。
また訴状によると、別の残虐行為もあったとみられている。ディナント社の農園警備隊が、洪水から避難するために国
有地に逃げ込んだ女性と子供に発砲した。訴状によると、この発砲で2人が負傷したという。
2012年、教会でディナント社を批判した牧師が姿を消した。その4日後に、牧師は死体となって発見された。頭部に致
命的な傷を負っていた。2015年、ICIJが聞き取り調査した捜査官の証言によると、バホ・アグアンで土地使用をめぐる
問題に関連して133件の殺人があったという。
2014年のガーディアンの報道によると、住民たちは、ディナント社の農園警備隊によって立ち退きを余儀なくされたか、
または、誘拐されたという。
世界銀行を訴えている原告の7人は、ディナント社の農園警備隊に殺害されたとみられる犠牲者の親族だ。
IFCと、ホンジュラスで最も裕福で権力のある人物が所有していたディナント社は、金銭的な結びつきが深い。ICIJによ
ると、ディナント社は、2009年にICFから直接1500万ドル(約16億円)を受け取った。また2011年には、ホンジュラス
最大の富豪の1人がICFから7000万ドル(約76億円)を受け取ったという。
訴訟では、IFCがディナント社の弾圧を知っていたか、または、知るべきだったと争っている。
世界銀行の独自調査によると、IFCにはディナント社との直接取引でいくつか倫理的な問題があったという。世界銀行
は、バホ・アグアンの暴力を減らすようにディナント社に働きかけたと主張している。ディナント社の農園にいる警備隊の
武装を解除し、農民と会社の不和を解消するために調停の手続きをとった。
IFCの職員は、今回の訴訟についてICIJの取材に応じていない。
ディナント社は不正を否定し、ホンジュラスの広大な農園を保有しているが、それは合法的に獲得したものだと主張して
いる。
「ディナント社が非難されていることを遺憾に思う。8000人を超える社員と、その家族、株主、コミュニティは、会社と一
丸となって働いている。一連の件は明らかに嘘だと理解してほしい」と、ロジャー・ピネダ代表はICIJの取材に答えた。
一方でデュナント社の社員も暴力の犠牲となっている。人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは2011年、4人のディナン
ト社の警備隊4人と1人の農場労働者が、農園を乗っ取ろうとして農民たちに殺害されたという。
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中米の難民危機 紛争並みの治安悪化から逃れて
- 2016年10月19日 国際事務局発表ニュース アムネスティ国際ニュース
エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスの中米3カ国は、激増する犯罪と殺人に対策を講じていないために、
数万人が国外に脱出している。
アムネスティは、難民問題が深刻化するこれらの国を調査し、いずれの国も市民をさまざまな暴力から保護する対策を
怠り、さらにメキシコや米国に逃れようとして送還された市民に対する保護策も取っていないことを明らかにした。
3カ国ではいずれも殺人が激増し、市民は虫けらのように扱われ、ギャング集団ばかりか警察からも、いつ襲われてもお
かしくない状況にある。何百万もの人が苦境に陥っているが、この問題は世界でほとんど知られていない。
メキシコと米国などは庇護を希望する人たちを守るという責任を果たしてこなかった。しかし、この危機の根本は、エル
サルバドル、グアテマラ、ホンジュラスにある。自国の責務を認識し、彼らが母国を逃げ出さなければならないほどの状
況に真摯に向き合わなければならない。
かつてない暴力の横行
エルサルバドルでは、激化するギャング同士の縄張り争いの中で、殺人犯罪件数がこの3年間でうなぎ上りとなってい
る。グアテマラとホンジュラスも、世界ワーストクラスである。
昨年のエルサルバドルでの殺人件数は人口10万人中108件超で、国連は紛争国を除いては最も危険な国であるとし
た。
ホンジュラスの殺人件数は10万人中63.75件、グアテマラは同34.99件であった。
いずれの国でも最大の被害者は若者で、昨年度の30才以下の犠牲者数は全犠牲者数の半数以上である。
エルサルバドルの教育大臣によると、2015年にギャングに脅しを受けて学校に行かなくなった生徒は39,000人で、
2014年13,000人の3倍にのぼる。教職員組合は、その実数は10万以上だとみている。
10代の若者が、警察からギャングの一員だと見なされていじめや暴力を受けるというケースまである。ある16才の若者
は、5月に警官に拘束されて以来、身を隠している。拷問を受け「ギャングの銃撃戦に加わって、見張り役をやっていた
な」と自白を強要された。警察は、深刻な犯罪に立ち向かっている姿を何が何でも誇示しようとしているようだったとい
う。
保護されない
社会がかつてなく暴力化する中で、メキシコや米国などに逃れ難民として庇護を求める件数は、急増の一途をたどって
いる。この地域ではかつて各国で内戦があり、多くが母国を逃れたが、それ以来の難民危機である。
国連高等難民弁務官事務所によると、3カ国の難民庇護申請件数は、この5年間で最多を記録し、特に周辺国と米国で
多かった。
一方、メキシコや米国などによる送還件数も増えている。申請者の多くが、他国で庇護が得られなければ、恐ろしい暴力
と命の危険にさらされる状況にあることが明白であるにもかかわらず、だ。メキシコから送還された3カ国の難民総数
は、2010年から2015年までで180%近い増加を示している。
送還されて殺される
ホンジュラスのサウルさんは、その犠牲となった一人だ。2015年11月に国を逃れ難民申請をしていたが、認められず
に今年7月にメキシコから送還された。そのわずか3週間後に殺されてしまった。
5人の子を持つサウルさんは、ギャングが巣食うバス業界で運転手をしていた。国を離れたのは、ギャングの抗争に巻
き込まれてわが子2人が重傷を負ってしまうという事件があったためだ。訴えを受けた地元警察は事件の捜査をせず、
保護もしなかった。
アムネスティは3カ国に対し、米国らが治安対策にと拠出した7億5000万ドルの使途を照会したが、いずれも説明はな
かった。
3カ国はそれぞれ、送還された市民の公的な受け入れ施設を設立していた。帰路の道中に何らかの人権侵害を受けた
かどうか、入国官が聞くことになっているが、そもそも自国を離れる原因となった暴力や保護が必要かどうかは、ほとん
ど聞いてこない。
求められるのは、異常事態の解消に向け、今受けている国際的な支援を活用して地域全体で効果的に取り組むことで
ある。
恐ろしいまでに暴力が広がっている事態に対し、首脳陣が断固とした対応をとらなければ、かつての暗黒の時代に戻り
かねない。暴力から市民が逃げ出していることを否定するのではなく、社会の根っこにある問題の解決にこそ力を注ぐ
べきだ。