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<資料>中国版「債務の株式化」は急場しのぎの危険なゲーム

2016-07-18 01:24:23 | 中国・中国共産党・経済・民度・香港

中国版「債務の株式化」は急場しのぎの危険なゲーム


李克強首相は、第12期全国人民代表大会第4回会議閉幕後の3月16日の記者会見で、

市場化による債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ、DES)を通じて、企業のレバレッジ(負債比率)を低下させることができる、と

初めて提起した。

 1週間後の3月24日、ボアオ・アジアフォーラム2016年年次総会の開幕式でも、李首相は再び、市場化の手法で債務株式化を推進

し、企業の負債比率を引き下げることが可能だと表明した。

 そして4月4日、多くのメディアが次のように報じた。

最初の債務株式化の規模はおよそ1兆元に確定し、3年以内に達成する。国家開発銀行、中国銀行、工商銀行、招商銀行等が債務

株式化のテスト銀行となる。

 

 中国で債務株式化が実施されるのは、これが初めてではない。

例えば1999年に国有企業は経営が苦しくなり、信達、華融、長城と東方の資産管理会 社が設立され、国営企業に融資した国有銀行

の1.4兆元の不良債務のうち、4000億元を株式化した。

さらに今年3月8日にも、江蘇熔盛重工有限公司が中 国銀行に対して27.5億元の株式を発行し、同額の債務を帳消しにした。しか

し、ここまでの規模での債務株式化はまだ執行されていなかった。

 その意味では17年ぶりに、中国は再び債務株式化時代を迎えようとしている。

しかし、17年前とは違って今回は、関連政策に対する社会的な論議が格段に激しい。

 短期的に見れば、債務株式化は債務を負っている企業にとっても、債権者である銀行にとってもメリットはあるだろう。

 まず巨額の債務を抹消された企業は、破産に至らず、周囲への連鎖的な債務ショックも引き起こさずに済む。

また債権者も窮地から脱却できる。債権者の銀行は不良貸付をバランスシートから抹消し、

利益に影響を与えないようにできるからだ。

 そのため1兆元の債務の株式化は、A株市場で次のようなメッセージとして受け止められている。

「国は企業の融資返済の困難性と銀行の焦げ付きを座視できなくなり、市場救済、信頼性回復の意図を明確にした」。これが4月5日

のA株の大幅高騰の理由である。

 しかし、本当にみんなが大喜びできる局面なのだろうか? 経済学者や証券会社の分析では、この政策は深刻な「毒酒を飲んで渇き

を癒す」に等しい急場しのぎの色彩が濃い、という見方が大勢だ。

 

短期的には蜜の味
長期的には毒の味

 債務株式化は、短期的には一部企業の流動性危機を緩和し、銀行の利益への影響を低下させるため、特に企業の破産・倒産件数

の増加や、銀行への金融引き締め、高失業率、社会不安などの一連の問題がもたらす政治的な圧力の回避には役立つだろう。

 しかし、経済の視点から言えば、銀行借款は債権であり、普通株は株主権であり、両者の性格は全く異なる。また異なった収益期

待、収益形式、リスク と流動性を備えている。

銀行は借款を提供し、期日に応じて利子と元金を回収し、事前に契約した収益率と期日内の流動性を入手する。

一方、株式投資には高い リスクと不確定性が備わっており、投資家の収益率、収益を得られるまでの時間は予測困難だ。

 銀行は株式投資会社ではない。本来、固定的な収益を希望している銀行からすれば、債権を株式に転換することは本来的な投資目

的、期待に全く合致し ないし、なにより銀行は十分な株式投資、管理能力も持ち合わせていない。

不良債権の抹消は銀行経営層の短期的な業績向上には有利だろうが、

結局のところ、 債務株式化は短期的な帳簿上のゲームに過ぎない。

 そもそも銀行経営が直面している主要なリスクの一つは短期借入、長期貸出がもたらす満期ミスマッチのリスクである。

それに対し、融資を株式に転換 するというのは、返済期限の再延長(無期限延長もあり得る)を意味し、

銀行の資金回収が遅れ、銀行の流動性リスクが大幅に増大し、自己資本率が引き下げら れたことになる。

もし真の民間銀行であれば、債務株式化には何のメリット

もない。

 

 債務株式化以降も、不良資産は依然として銀行の手元に残る。それを「融資」とは呼ばず「株式」と呼ぶだけのことに変わっただけの

ことだ。もし融資 先の企業の経営が好転しない──極端なケースではさらに悪化し破産する(債務株式化に追い込まれた企業にはその

公算が大きい)──と、銀行の手元の株券は 紙くずになってしまう。銀行というのは仮に融資先企業の破産・清算を選択した場合でも、

回収できるのがほんの小額の資金であったとしても資産を換金させる ように望むものである。対して、債務を株式化するというのは、

破産したらまったくの御破算となるということで、多くの場合、銀行はそれを望まないだろう。

 いずれにしても、一旦、債務株式化した企業には、なにがあっても復活してもらわなければならず、仮に破綻すれば、これらの「不良

投資」による損失 が暴露され、銀行のシステムそのものが巨大なリスクに見舞われる。銀行システムの安定が中国経済にとって大変

重要であることは明白だ。大量の債務株式化株 は中国経済にとって、巨大な地雷が埋め込まれるのと同じである。

今も7割の問題株式を保有する
17年前の不良資産管理会社

 もし債務株式化の対象企業が全て上場企業であれば、銀行は市場で売却するという容易 な撤退方法を持てる。

しかし、中国における上場企業はごく少数であり、上場していない大中型企業が非常に多い。銀行は手元にある株をいかにして処理す

るのか?

 1999年当時、4大国有商業銀行の不良債権を処理するために、4つの資産管理会社(AMC=Asset Management

Companies)が不良債権を引き受け、問題企業への融資を株式に転換したが、AMCはその後も売却することができないまま、今でも

当時の株式を大量 に所有している。4AMCのひとつである中国華融資産管理公司を例にとると、1999年に引き受けた債務株式化企

業は281社に達し、17年も経過した 2015年6月末時点でも、その70%近い196社もの株を所持しているのだ。

 しかも、AMCが売却した僅かな株式については、その売却額は入手したときの額と比べて1~3倍程度というのが一般的だ。

この17年間の中国のイン フレ率を考慮すると、収益の面ではもはや沙汰の外であり、半数以上がまだ処理されずに放置されていると

いうのはなおさら深刻な事態といえる。

1兆元の行き先を決める人が
利益配分の権力を持つ

 さらに、債務株式化の最大のリスクは、巨大なレントシーキング(民間企業が政府などに働きかけて政策などを変更させて利益を得る

行為)の余地を作り出すことである。

 最近、あるメディアが政府関係者の話として、次のように報じた。

債務株式化の対象は、潜在価値のある、一時的に困難に陥っている国営企業を中心と する企業に絞られる。こうした企業は、銀行の

帳簿上、「注目」または「正常」に分類されている融資であり、「不良」融資ではない。従って、今回の債務株式 化で、過剰生産の「ゾン

ビ企業」が対象になることはない──。


 問題は誰が、潜在価値のある、一時的に困難に陥っている企業だと判断し、どこを「ゾンビ企業」と決めるかだ。それは銀行なのか、

それとも監督・管 理機関なのか? 実際、どちらもその判断能力を持ち合わせてはいないだろう。ただその両者の違いといえば、能力

がないからやりたがらない銀行と、能力がな くても「1兆元」というハードな目標を打ち出した監督・管理機関という点であろう。

 「1兆元」という数字が債務株式化のパラドックスを象徴的に表現している。もし不良債権に株式化の価値があれば、銀行が自らそうす

るにしろ、他の 主体が銀行側から購入するにしろ、自ずと市場で株式化を希望する人が現れるはずだ。市場参加者は利益を追い求

め、お金があれば誰しも儲けようとするのに、 なぜ「1兆元」などという融通のきかない目標を掲げたのだろうか?

 

もし不良債権に株式化の価値がなければ、強制的に「1兆元」の目標を達成させることで損なわれるのは、一体、誰の利益か? 

忘れてはならないのは、中国の国民が銀行株を買わなくても、銀行の大株主は国である以上、損をするのは中国国民一人一人である

ということだ。

 債務株式化が、ある人には利益をもたらし、ある人は損失を被る可能性のある取引であるならば、この1兆元の行き先を決める人

が、利益配分の権力を持つようになる。そこに、大きなレントシーキングの余地が生まれるに違いない。

 極端な話をすれば、真剣に企業を作ろうと思っているわけではない輩が、銀行から何らかの方法である程度のお金を借り、その後、

そのお金を移し替え るか、或いは浪費してしまってから、最後に、あっけらかんと銀行に「さあ借金を株式化しようぜ」と伝える。

名目上、企業に負債はなく、銀行にも不良債権は ない。これこそ「濡れ手で粟」の手口ではないのか?

 こうした連中に大なり小なり銀行の政策決定に影響力を行使する権力があれば、このような不道徳な方法で不労所得を得ることもで

きる。損するのは銀行の株主──つまり、中国という国なのであろう

DIAMOND Onlineから(2016年4月28日)