ナイキの方針転換、アマゾンに急接近する事情
ブランド力へのこだわりも市場の変化には勝てず
2017 年 6 月 30 日 15:54 JST THE WALL STREET JOURNAL
米スポーツ用品大手ナイキは何年にもわたり、ネット通販大手アマゾン・ドット・コムへの抵抗勢力として際だつ存在だった。
スニーカーやアスリートのウエアを巨大電子商取引サイトで売ることを拒否し、自社製品の「クールさ」に絶大な自信を持っていた。
助けは必要ないと考え、それを望みもしなかった。
最近になってナイキはこの方針を転換した。決断の背景にあるのはブランド企業とアマゾンの力関係の劇的な変化だ。
大手消費者向けブランドは過去数十年、どの小売業者にどんな価格で自社製品を卸すかを慎重に管理してきた。
アマゾンもブランドのやり方には口出ししてこなかった。
しかしこのところ、アマゾンの通販サイトでサードパーティーと呼ばれる再販業者が爆発的に増加。ナイキや仏シャネル、アウトドア用
品の米ノースフェイス、化粧品の米アーバンディケイといったブランドの正規品が、ブランドが販売を認めていないのに数多く出回るよう
になった。結果として、価格や流通に関するブランド側の支配力は弱まっている。
ナイキは直接にも正式な卸売業者を通じてもアマゾンに製品を販売していない。モルガン スタンレー の調査によると、
それでも「ナイキ」はアマゾンで最も多く購入されているアパレルブランドだ。「ナイキ」製品をアマゾンで検索すると、直近の表示結果は
およそ7万3000点だった。
アマゾンでよく購入されるアパレルブランド
再販業者は通常、合法的に安く仕入れた商品をサイトで販売しており、ブランド側がそれを食い止める方法は事実上ほとんどない。
「もぐらたたきゲームのような状況だ」。この問題で企業と協力する弁護士のロバート・ペイン氏はこう話す。
ナイキが最近アマゾンと結んだ合意は一つの戦略を示している。勢いづくサードパーティーを押し返すため、アマゾンを正規の流通
ルートに加えるのだ。事情を知る関係者によると、ナイキは製品の一部をアマゾンのサイトで直接販売し、その見返りにアマゾンが偽造
品の取り締まり強化や無許可販売の制限を実施することで合意した。
アマゾンは今月、販売業者に対し、7月13日以降はスニーカーやウエアを含む一部のナイキ製品の販売を認めないと通告した。
ナイキ、アマゾン両社はコメントを控えた。
無視できない存在
小売市場におけるアマゾンの支配力は、もはや最有力ブランドも無視できないほどだ。ただ、企業の側に立つ弁護士やコンサルタン
トによると、各ブランドが入念に構築してきた独自のイメージに、アマゾンの通販サイトはふさわしくないと見下す企業もある。
それでも降伏せざるを得ない理由の一つは、ブランドが掌握してきた流通ネットワークの崩壊だ。ショッピングモールは苦戦を強いら
れ、スポーツオーソリティのような伝統的なスポーツ用具販売チェーンでも店舗閉鎖が相次ぐ。
メーカーは流通を掌握することで製品の定価販売を守ってきただけでなく、「市場で過剰な在庫を抱えるリスクの多くを排除してきた」
(ビーンスターク・ベンチャーズのケン・セイフ氏)。これに対し、アマゾンは多くの場合、サードパーティーに広範な裁量を認めている。
可能な限り幅広い品ぞろえを低価格で提供することに主眼を置くからだ。
その結果、消費者は最初にアマゾンで商品をチェックするようになった。ジョージア州アトランタ在住のジュリー・ワイヤットさん(32)は
最近ナイキのスニーカーが欲しくなり、迷わずアマゾンで検索した。サイズや色などの条件を絞り、グレーとピンクの配色のランニング
シューズを見つけ、1足50ドルで購入した。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/42/24/27313fe13c4a58ca421f337f17e72100.jpg)
ブランドで異なる対応
ナイキは近年、ブランド名を冠する約1000の直営店やアプリ、公式サイトを通じた販売拡大を重視してきた。
1999年に直販サイト「ナイキ・ドット・コム」を開設した当時、アマゾンは全く眼中になかった。主にCDやDVD、書籍を販売する創業5
年の新興企業は脅威ではなかった。
だがアマゾンは2008年までに、テレビやおむつ、自社開発の電子書籍リーダー「キンドル」などありとあらゆる商品を手がける企業に
成長していた。次の照準をアパレルに定め、主力メーカーへの働きかけを始めた。
外部業者の売上高はアマゾンの直販を上回る
スポーツ用品大手 アンダーアーマー やゴルフ用品のテーラーメードなど、他のスポーツブランドはアマゾンの急成長に便乗するのが
得策だと考えた。アンダーアーマーは当初サードパーティーとして販売したが、のちにアマゾンと直販契約を結んだ。同社のケビン・プラ
ンク最高経営責任者(CEO)はインタビューで「偉大なパートナー」だと語った。
一方、ナイキの経営陣は尻込みした。アマゾン元幹部によると、同社が運営するのは一流ブランドや商品の扱い方を知らない押し売
りサイトだと言われたという。
アマゾンの幹部はナイキ本社があるオレゴン州ビーバートンに毎年足を運んだが、ナイキはかたくなに譲らなかった。ブランド戦略を
守り、直営店と直販サイト、既存のパートナーに販路を限定する方針は明確だった。
転機を迎えた市場
市場の風向きが変わったのは2014年頃だ。ファッション性の高いスポーツウエアを日常着にする「アスレジャー」ブームが起き、
ナイキの牙城が脅かされ始めた。競合するアディダスやアンダーアーマー、プーマが著名人の熱心な支持を受け、女優が立ち上げた
「ファブレティックス」のような新しいフィットネスウエア・ブランドも登場した。
一方、アマゾンのサイト上でサードパーティーが販売する商品は増加の一途をたどった。最近ではこうした業者の合計売上高がアマ
ゾン自身の売上高を超えたとアナリストはみており、業者の数は200万を超えているという。アマゾンはサードパーティーの売上額を公
表していないが、商品の約半数が外部の業者によるものだと認めている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/77/95/b1be63bec79a97e7188604d8d1eeb478.jpg)
ナイキにとって最大の卸売業者の一つだったスポーツオーソリティは昨年、経営破綻した。その直後、あふれんばかりのナイキ製品
がアマゾンに流入した。同業 ディックス・スポーティング・グッズ のエドワード・スタックCEOは、市場に出回った在庫商品は4億ドル(約
447億円)相当だと推定する。
ニュージャージー州の販売業者、サム・コーエン氏は80~90%値引きされるのを待ち、ナイキのシューズやパーカー、スポーツブラ
やゴルフ用品など約20万ドル相当のスポーツ用品を仕入れた。スポーツオーソリティのおかげで数カ月以内に約100万ドルの収益を
上げたという。
「アマゾンはモノを売るナンバーワン、ナイキはブランドでナンバーワンだ」とコーエン氏は話す。「彼らが協力し合わないからこそ、自
分にチャンスが生まれる」
7月13日の前夜、コーエン氏はアマゾンから電子メールでおびただしい数の自動メッセージを受け取った。ナイキの特定の製品を販
売禁止にするまで30日間の猶予期間を設けるという通知だった。
「ナイキとアマゾンがいよいよ手を結ぶ嫌な予感がする」と同氏は言った。