アマゾンを欺く出店業者、その手口とは
売上増のために詐欺的行為に走る業者。アマゾンは対策を取っているが、手口は進化している
ここはバングラデシュ北部。数十人の若い男たちが毎日、小さな部屋になだれ込むように入っていく。各部屋には
それぞれ30台のコンピューターが置かれている。彼らの仕事は、アマゾンをだますことだ。
事情に詳しい関係者によると、男たちはコンピューターでアマゾン・ドット・コムのサイトを開き、検索ワードを
打ち込んでは販売促進を依頼された商品のリンクをクリックする。これを繰り返すと、アマゾンのアルゴリズムは
これを人気商品と認識し始め、検索結果で上位に表示されるようになる。ランキングが上位であればあるほど、
商品が売れる確率は高くなる。
アマゾンのシステムはおよそ5億種類の商品を自動でランク付けして検索結果に反映させている。同システムの
裏をかくために詐欺的手法が活用されていることが、こうした手法に関わるコンサルタントや企業への
インタビューのほか、これらの企業から話を持ち掛けられたという出店業者の話で明らかになった。
アマゾンの4-6月期決算は売上高が前年同期比39%増と大きく伸びており、出店業者の詐欺的手法の影響は
及んでいない。しかし、世界最大級の電子商取引市場であり、米国のオンライン小売売上高の約半分を占める
アマゾンの健全性が、詐欺的手法によって損なわれる恐れがある。
同社の広報担当者は、システムを悪用しようとする業者は「当社サイト上の活動のほんの一部にすぎない」と指摘。
機械学習など最先端のツールを利用して対策を進めていると述べた。また、常習犯に対しては民事、刑事の両方で
処分を求めるとも述べた。
アルゴリズム欺くのが地下経済に
クリック行為を売る業者「クリックファーム」やボットと戦っているのは、アマゾンだけではない。
ツイッターは最近、不審な活動が認められたアカウントの削除を開始した。
フェイスブック は偽ページを識別しやすくする新機能を導入。アルファベット傘下グーグルなどの
広告プラットフォームでも詐欺が疑われる通信は増加している。
アマゾンでは偽レビューが何年も前から問題になっており、同社も対策を進めてきた。しかし出店業者側は一段と
工夫を凝らすようになっており、アマゾンのアルゴリズムを欺くという一つの地下経済が生まれている。
実例はアマゾンのサイトで見ることができる。先週、毛穴パックを検索したところ、1000を超える商品が出てきた。
検索で上位に表示された「アマゾンズ・チョイス(おすすめ)」表示がある商品には数百のレビューが投稿されていて、
星の数は平均で4.3だった。
ところが、レビューのうち最初の4つこそパックに関するものだったが、残りはほとんどが充電器のレビューだった。
この手法に詳しい出店業者やコンサルタントによると、新規出店とされる業者が好意的なレビューが寄せられた
古い出品情報を盗用し、アマゾンのアルゴリズムをだますために商品の画像と説明を変更したようだ。
業者には連絡がつかなかった。
アマゾンのアルゴリズムは好意的なレビューや価格など、さまざまな要素を検討した上で商品に
「アマゾンズ・チョイス」のラベルを与えている。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が上記の商品について
問い合わせると、アマゾンは商品と関係のないレビューを削除。「アマゾンズ・チョイス」のラベルも消えていた。
アマゾンの元調査員でコンサルタントのクリス・マッケイブ氏は「悪用の報告は急激に増加している」と話す。
こうした「サービス」を提供する企業は「さらに大胆になっている」という。
データ追跡会社のマーケットプレイス・パルスによると、アマゾンのマーケットプレイスで販売される商品数は
この5年で2倍の5億5000万超に増加したとみられ、競争は激化している。
アマゾンは検索順位で商品を上位に表示させるための一部手法を認めている。出店業者はアマゾンが認めた
レビュアーから少人数を無作為に選び、料金を支払って商品のレビューを書いてもらうこともできる。
ただ業者によると、こうした対策には費用がかかる上、うまくいくとは限らない。
関係筋によると、中国の業者など一部の業者は他に救いを求めている。WSJが閲覧した一部のサイトでは、
1カ月に30ドルから180ドルほどの料金を支払えば、レビュアーにインセンティブとして現金や割引を提供して
一定数の好意的なレビューを確保すると約束している。これはアマゾンの規則に反する行為だ。同業他社の情報を
提供するというサイトもある。
進化を続けるだましの手口
事情を知る複数の人物によると、中国で勤務するアマゾンの一部社員を業者が買収している実態も明らかになった。
出品業者のアカウントに関する極秘の統計や検索最適化の方法といった内部情報を引き出すためだ。
業者がアマゾンの従業員に金を渡しているとの疑惑について、アマゾンの広報担当者は「データの機密保護は
最優先課題であり、データの安全性を保護するため厳格な規則と手順を定めている」と述べた。
「(買収の)訴えについては現在、徹底的な調査を行っている」という。
何千というアマゾンのアカウントを操るクリックファームも増えている。
例えば中国では、素性を隠した企業がアカウントをレンタルまたは販売している。出店業者はそのアカウントを
使って商品を購入したり、好意的なレビューを投稿したりすることができるのだ。アマゾンをだまして商品の
ランキングを上げるため、出店業者は米国内の仲間に本物のトラッキング番号がついた空箱を発送する。
その後、空箱を受け取った仲間が好意的なレビューを投稿する。
中国の業者の話では、ある企業が最近、売上増を支援すると言って接触してきた。その企業は偽の購入を促したり、
偽のレビューを作成したりするのに、米国で8000の顧客アカウントを利用できると話したという。
WSJが確認した資料によると、別の企業は1万を超えるアカウント、現地のIPアドレス、100%本物の購買行動、
リスクゼロを売りにしている。アカウントは商品のレビューの投稿に利用することができ、商品購入には
本物のクレジットカードが使われるという。
レビュー1件当たりの料金は平均で5.42ドル(約600円)。同業他社の平均1.29ドルを上回っているのは、
各種の対策を講じているからだという。資料によると、この企業は一つのアカウントから投稿するレビューの上限を
1カ月当たり8件と決めていて、レビューはアカウントが購入した商品の15-20%にとどめている。
本物のアマゾンの顧客のように振る舞うためだ。
アマゾンの広報担当者は、数億件のレビューのうち、偽物のレビューは先月の段階で1%未満であることを
突き止めたと話した。また、これまでに偽物のレビューを理由に1000人超に対して訴訟を起こしたとしている。
アマゾンの元社員や出店業者によると、アマゾンは疑わしい出品やレビュー、出店業者を頻繁に削除している。
ランキングを上げるためにショッピングリストに商品を加えるなどの手口の発見にも努めている。
また事情に詳しいある人物によると、アマゾンはフェイスブックと連携し、偽のレビューを広める
フェイスブック上のグループの削除も行っている。
しかし業者やコンサルタントによると、アマゾンのシステムを欺く手口は進化を続けている。
出店業者らによると、アマゾンが2016年10月に「インセンティブ付きレビュー」の取り締まりに動くと、
偽のレビューが広がった。インセンティブ付きレビューとは、業者がレビューを集めるのに商品をサンプルとして
配ったり大幅に値引きしたりすることだ。
事情に詳しい複数の関係者によると、アマゾンが偽のレビューを取り締まるようになると、一部の出店業者は
同業他社の出品にいかにも偽物らしい5つ星のレビューを投稿するようになった。そうすればアマゾンの詐欺検出
アルゴリズムが作動し、同業他社が停止に追い込まれるからだ。商品を買って安全に関する苦情を投稿するという
方法を取る業者もいる。安全についての苦情があれば通常は出品が即座に停止され、アマゾンが調査に乗り出す。
中国・深センに拠点を置くコンサルタントのハワード・タイ氏は、不当に停止に追い込まれた出品業者は
アマゾンに調査を依頼するが、調査には数週間かかり、その間に売り上げを逃すことになる。
一部の消費者は、こうした現状に気付き始めている。アリゾナ州に住む写真家のジェニファー・ボーエンさんは
偽物らしいレビューも含め、星5つのレビューを参考にアイクリームなどの商品を購入したが、効果がなかった。
今は星2つから星4つのレビューだけを参考にしている。
「私が欲しいのは人間が書いた、本物の正直な評価。好意的すぎないレビューの中にそうした評価があるように思う」