日米中が正恩氏圧殺…安倍首相、訪露で包囲網狙い 邦人を盾にする韓国に強行措置も
2017.04.26 夕刊フジ(執筆:山口敬之)
北朝鮮は25日、「建軍節」(朝鮮人民軍創建記念日)を迎えた。「6回目の核実験」が懸念されるなか、ドナルド・トランプ
大統領率いる米軍はイージス艦や攻撃型原潜で警戒するとともに、世界最強の原子力空母「カール・ビンソン」を急派さ
せている。極度の緊張に金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が「怖じ気づいた」という観測もあるなか、安倍晋
三首相のロシア訪問が注目されている。プーチン大統領を「北朝鮮包囲網」に引き込む狙いだ。日本政府の一部では、
在韓邦人を盾にするような韓国への「渡航自粛勧告」や「退避勧告」も検討され始めた。ジャーナリストの山口敬之氏が
最新情報を明かした。
「北朝鮮が、核開発を完全に放棄する可能性は極めて低い」
日本政府の多くの関係者はこう見ている。
正恩氏の祖父、金日成(キム・イルソン)主席の時代から始まった核開発は、北朝鮮のいわば“国是”だ。そして、核・ミ
サイル開発こそが、長年の悲願である「米朝直接対話」にトランプ氏を引っ張り出し、不可侵条約を結ばせる唯一の手
段だとみているようなのだ。
「建軍節」に合わせた核実験が重大警戒されるなか、空母「カール・ビンソン」を朝鮮半島周辺に送ったトランプ氏は
24日、日米、米中の電話首脳会談を続けて行った。
トランプ氏は、中国の習近平国家主席には、北朝鮮向けの原油パイプラインの供給停止など、さらなる正恩氏への圧
力強化を要請したとみられる。習氏は「国連安全保障理事会の決議に違反する行為(=核実験や弾道ミサイル発射)に
断固として反対する」「関係各国が抑制するよう望む」と語った。
これに先駆けて日米電話首脳会談が行われた。
トランプ氏は2回の直接会談と4回の電話会談ではいつも上機嫌で、際どい軽口でスタートするのが常だった。この日も
肝胆相照らす親密ぶりは変わらなかったが、その口調はこれまでになく緊張感に満ちていた。
そして、トランプ氏が列挙したのは、米国がテーブルの上に用意している北朝鮮への「すべての選択肢」だったという。
1つ1つの選択肢を詳細に説明したトランプ氏は、「日米の緊密な連携こそが成否を左右する」という立場を示した。トラ
ンプ氏が示した選択肢の中には、もはや「米朝の直接対話や、交渉による解決」は含まれていなかった。
トランプ氏の「深遠な外交戦略」は、安倍首相が27日に予定しているロシア訪問に絡んでも垣間見えた。
ロシアはこれまで、北朝鮮問題では盟友・中国の宥和路線に追従する基本スタンスを貫いてきた。
ところが、中国が北朝鮮への圧力を強めているとみるや、ロシアは19日、極東ウラジオストクと北朝鮮北東部・羅先
(ラソン)間に、5月から定期航路を開設すると発表した。極東開発で必要な北朝鮮労働者の足を確保し、外貨獲得で北
朝鮮に恩を売れる「一石二鳥」の策だ。
安倍首相は当初、北方領土の未来を見据えて、「4島での共同経済活動など経済協力」を進め、「プーチン氏との信頼
関係強化」のために訪露する予定だった。トランプ氏との会談などを受けて、これにロシアの火事場泥棒的な対北朝鮮
戦略に歯止めをかけ、北朝鮮包囲網の抜け穴をふさぐ重要な役割が加わった。
トランプ氏は大統領選中、ロシアにラブコールを送っていた。
ところが、「プーチン氏に弱みを握られているのではないか」という疑惑がメディアに指摘されたうえ、シリア空爆で米露
関係は悪化した。米露首脳と良好な関係を維持している安倍首相が、両国の関係改善に一役買う可能性は十分ある。
朝鮮半島情勢は、世界最強の米軍による「斬首作戦」「限定空爆」という軍事作戦が断行されるか、極めて高い緊張状
態を維持したまま、日米中露が「北朝鮮の核放棄」という共通のゴールに向かって外交のステージに移行するかという、
まさに瀬戸際にある。
そんななか、関係各国が頭を痛めているのが韓国の現状だ。
韓国大統領選(5月9日投開票)では、最大野党「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)前代表と、野党「国民の党」
の安哲秀(アン・チョルス)元共同代表がデッドヒートを繰り広げている。だが、どちらが勝っても北朝鮮に宥和的な政策
を選択する可能性が高く、「核なき朝鮮半島」に向けた国際社会の努力が水泡に帰しかねないのだ。
さらに、日本政府関係者をイラ立たせているのが、4日に急遽(きゅうきょ)帰任させた長嶺安政・駐韓大使に対する韓
国側の扱いだ。
慰安婦像問題を棚上げして長嶺氏を韓国に戻したのは、朝鮮半島有事に備えた「邦人保護」など、ハイレベルでの政
府折衝が主眼だった。
ところが、黄教安(ファン・ギョアン)大統領代行兼首相はいまだに、長嶺大使との面会に応じていない。邦人保護につ
いても、韓国政府は「自衛隊機の受け入れには韓国政府の同意が必要」との立場を表明したたけで、具体的協議に応
じず事実上放置しているのだ。
それどころか、日本外務省が11日、韓国滞在者や渡航予定者に対して注意を促す「スポット情報」を発表したことに、韓
国政府は「観光客や日韓ビジネスの縮小につながりかねない」と不快感を表明した。
朝鮮半島が最悪の緊張状態にあるなか、在韓邦人を盾にして平時の憂さを晴らそうとするような韓国政府のやり方
に、日本政府内では「やっていいことと、悪いことがある」と強い怒りが広がっている。
邦人保護について、韓国政府側に具体的な協力姿勢が見えないのであれば、日本政府は「渡航自粛勧告」や「退避
勧告」など、邦人の韓国脱出を促す強い手段も検討せざるを得なくなる。
関係諸国が、対北朝鮮対応で駆け引きを続けるなか、政治的機能不全に陥った韓国だけが孤立している。
■山口敬之(やまぐち・のりゆき) ジャーナリスト。1966年、東京都生まれ。90年に慶應大学卒業後、TBSに入社。報道局に配属され、ロンドン支局、社会部、政治部、報道特集プロデューサー、ワシントン支局長などを歴任。16年5月に退社し、フリージャーナリストとして活躍。著書に『総理』『暗闘』(ともに幻冬舎)など。