モンサント、除草剤の擁護に科学者動員
裁判で公開の電子メールで明らかに
およそ2年にわたる裁判では、原告はモンサントの除草剤「ラウンドアップ」(一般名はグリホサート)によってがんを発症したと主張、
同社に対して損害賠償を求めている。
原告側の法律事務所は今週、グリホサートに関係するモンサント社員の数百ページにおよぶ電子メールと社内文書を公表した。
グリホサートは発がん性の可能性が指摘され、注視されている。
公表された電子メールからは、モンサントがこの除草剤を擁護するために科学者を動員し、自社の研究結果と食い違う研究に対抗し
ようとしていたことが分かる。米環境保護庁(EPA)と欧州化学品庁(ECHA)はグリホサートががんを引き起こす可能性は低いとの見解
を示している。
企業が自社の製品やサービスに有利な科学的知識を宣伝する昔ながらの慣習について、米ダートマス大学タック経営大学院教授で
企業広報を専門とするポール・アルジェンティ氏は今でも「非常に一般的」と話す。アルジェンティ氏はモンサントのために研究や
コンサルティングの仕事を行ったことはない。
テクノロジー開発会社からウォール街のトレーダー、業界のトップ企業までさまざまな企業が自分たちのビジネスに有利な研究に
資金を提供している。
アルジェンティ氏は「優れた学者は自分が承諾した内容に絶対的な確信がなければ自分の名前を危険にさらすことはない」が、
「残念ながら現実には、企業が研究に資金を出したとたんに、信頼性の問題が浮上する」と話す。
公表されたモンサントの文書は約20年近くにおよぶもので、カリフォルニア州の連邦裁判所で行われている裁判の過程で
公表された。原告は農場などへの散布中にラウンドアップに触れてがんになったと主張しているほか、モンサントが研究や科学的な
議論をゆがめて同除草剤に発がん性の可能性があることを隠したとしている。
グリホサートは世界で最も広く使用されている除草剤で、雑草を取り除く目的で芝生や公園、トウモロコシ畑に散布されている。
一部の消費者団体や環境団体は以前からグリホサートの安全性に疑問を呈していた。
モンサントは原告側の主張に反論、グリホサートとがんとのいかなる関連性も否定している。同社の戦略担当バイスプレジデント、
スコット・パートリッジ氏はインタビューに応じ、科学に基づくというよりむしろ「隠された意図」に動機づけられた攻撃には反論する
義務があると語った。「これは自分たちのためだけではない。われわれの顧客である農家や国民、消費者から電話をもらっている」。
原告側の法律事務所バウム・ヘドルンド・アリステイ・アンド・ゴールドマンの共同経営者、ブレント・ワイズナー氏はモンサントの文書
について、「同社がEPAの役人と共謀したか非常に親しい関係にあったことをかなり明確に示している」と指摘した。
さらにモンサントが「資料を代筆し、その資料に権威があるかのように引用した」ことが分かると述べた。
原告はモンサントから不法死亡に対する懲罰的損害賠償を求めている。
グリホサートの安全性をめぐる議論が激しくなったのは2015年。きっかけは世界保健機関(WHO)傘下の国際がん研究機関
(IARC)が、がんを引き起こす可能性がある物質に分類したことだった。
モンサントはコンサルタント会社と契約し、IARCの研究結果を再検討するための専門家委員会を開いた。
専門家委員会はのちに、IARCが一部のデータを見落とし、研究について誤った解釈をしていたとの見解を示した。
これに対し、IARCは同機関の調査は入手可能な最善のデータに基づく厳格なものだったと主張した。
原告側の法律事務所が公表した内部の電子メールによると、モンサントの科学者ウィリアム・ヘイデンス氏が2015年11月に
専門家委員会の文書を編集することや、過去にモンサントに勤務していた2人の委員会メンバーの名前を文書の執筆陣に
掲載しないことを提案した。
オーフス大学(デンマーク)の疫学教授、ジョン・アクアベラ氏はヘイデンス氏に電子メールで「われわれはそうした行為をゴーストライ
ティングと呼ぶ。倫理にもおとる」と伝え、反対した。
ヘイデンス氏はその後の電子メールで「大きな誤解」に対して謝罪し、2人の委員会メンバーの名前は委員会の最終的な報告書に
掲載された。
モンサントのパートリッジ氏は「執筆陣から要請されたのは、情報提供と正確性の確認、必要に応じた編集であり、科学的知識や
執筆陣の意見に見解を述べることではなかった」と説明した。
アクアベラ教授はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)への電子メールで、問題は解決しており、ヘイデンス氏は最終報告書のうち
アクアベラ氏が担当した部分の誤植を指摘しただけだと述べた。
公開された文書には、EPAの担当者とモンサントが2015年6月に、米保健福祉省の部門がグリホサートの安全性について調査する
可能性について行ったやりとりも含まれている。
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世界保健機関(WHO)の専門組織、国際がん研究機関(IARC)は20日、米農業バイオ技術大手モンサントなどが販売する
除草剤「グリホサート」ががんを誘発する可能性があると警告した。
IARCの研究者らはこの研究結果を英国の科学誌で発表した。問題とされたのはモンサントが「ラウンドアップ」のブランド名で
販売している除草剤で、今後、その安全性についての議論が活発化しそうだ。
消費者や環境保護団体は以前から農業用除草剤の使用に伴う健康被害を警告してきた。一方、農薬メーカーは、他の強い化学製
品よりも自社製品の方が安全性と環境面で優れていると宣伝してきた。モンサントや農業化学品業者らはIARCの報告に対し、除草剤
の安全性は数十年にわたる研究が証明していると反論した。
米環境保護庁(EPA)によると、グリホサートは米国で最も使われている除草剤。トウモロコシやダイズなど遺伝子組み換え穀物の
登場とともに、過去20年間にわたり農家による使用量が増加してきた。遺伝子組み換え穀物はこの化学薬品に耐えることができる。
米農務省によると、除草剤に耐性を持つバイオ穀物が生育されている米国のダイズ畑は全体の94%、トウモロコシ畑は89%に
達している。