中国の海運大手、目指すは「海のシルクロード」支配
2017 年 4 月 10 日 18:04 JST THE WALL STREET JOURNAL
海運業界が不況から抜け出し、中国政府がグローバル化の推進を声高に訴える中、同国国有の海運会社が中国製品の荷動きを円
滑にするために、世界各地の港湾に巨額の資金を投じている。
こうした動きは中国遠洋海運集団(チャイナCOSCOシッピング・グループ)や招商局国際といった中国の海運大手に金銭的利益をも
たらしているが、同国の当局者によると、その目的は世界で最も交通量が多い貿易経路の1つを支配することだ。アジアからスエズ運
河経由で欧州に至る航路沿いの港湾を支配下に置けば、中国の船舶は優先権が得られる。
いわゆる「海のシルクロード」構想は中国の習近平国家主席が考案したもので、陸と海で中国と欧州を結ぶ4兆ドル規模の「一帯一
路」構想の一部だ。米国のドナルド・トランプ大統領が貿易協定の再交渉を目指している一方で、習氏はグローバル化の擁護者になっ
ている。
国家開発銀行の顧問を務めるギリシャの海運コンサルティング会社XRTCのジョージ・シラダキス氏は、中国の戦略は「巨額の資金
に支えられている。欧米勢が経費削減を進める中、中国勢は海上貿易を牛耳ろうと躍起になっている」と述べた。
国家開発銀行は1月、COSCOの海運関連の権益拡大に向けて260億ドルの信用枠を提供した。COSCOは港湾運営で世界6位、
コンテナ輸送で同4位。コンテナ船部門は昨年、14億ドルの赤字を計上した。
中国政府は5月中旬、アジアや欧州、アフリカの首脳20人を集めて「一帯一路」に関する国際首脳会議を開催する。招待客にはロシ
アのウラジミール・プーチン大統領や英国のテリーザ・メイ首相も含まれている。
ある欧米系の港湾運営会社の幹部は「民間の運営会社が立てる投資計画の期間は最長12カ月間だ。中国企業は、われわれが株
主や世論を意識して進出できない、独裁政権が統治しているアフリカやアジアの国でもっと長期的な計画を立てて、契約を結ぶことが
できる」と話した。
海運各社は、長年採算水準を下回っているコンテナ運賃が回復する前に優位に立とうと港湾を買いあさっている。
最近の業界再編の波で海運会社の数が減少し、各社はアライアンスを組んで船舶を共有したり、共同運航したりしている。これを受
けて、主要航路を運航する船舶は大型になる一方、数は減るため、港湾運営会社は船舶を呼び込もうと競い合っている。
中遠海運港口 の張為・総経理は「当社は大手との付き合い方を学ばざるを得なかった。大手は当社が生き残る道を狭めるが、もし
彼らをとどめることができれば、効率を高め、より安定した収入をもたらしてくれるだろう」と述べた。
同社の競合企業でデンマークの海運・石油大手 APモラー・マースク 傘下のAPMターミナルズは2010年以降、計79億ドルを投じて
港湾施設を買収している。世界2位のコンテナ輸送会社メディタレニアン・シッピングは1月、経営破綻した韓進海運から米カリフォルニ
ア州ロングビーチ最大のコンテナターミナルの権益54%を取得した。
中国とベルギーの大学で教鞭をとるテオ・ノッテブーム教授(港湾経済学)の調査によると、COSCO、招商局国際、中国海外港口の
3社は10年以降、世界の主要コンテナ港50カ所のうち21カ所の権益を計40億ドル余りで取得した。これ以外に中国は自国の海岸線
沿いの港に推定400億ドルをつぎ込んでいるという。
COSCOは、米シアトル、イタリアのバド、ギリシャのピレウスのターミナルに出資している。昨年、ピレウス港の権益51%を3億ドルで
取得し、さらに15%を3億ドルで取得することで合意している。今年3月には、ピレウス港は昨年のコンテナ取扱量が14.4%増加する
など最も好調な港湾の1つだったことを明らかにした。
中国海外港口は13年からパキスタンのグワダル港を運営しており、積み換えターミナルや浮体式ガス設備など約10億ドル規模のプ
ロジェクトを受注している。
ノッテブーム教授は「グワダル港やピレウス港などは、中国の船舶の貨物を最初に処理するため重要だ。港湾の支配権を握ってい
れば、他の海運会社の取引量をコントロールすることができる」と述べた。
招商局国際は12年にスエズ運河南部に位置するジブチの紅海港の権益23.5%を1億8500万ドルで取得した。この港には中国初
の海外の海軍基地が設置される予定だ。同社はスリランカにも進出しており、13年にコロンボでコンテナターミナルを開業した。