パンデミックが世界を襲ったとき、文明再建の場所として最適な島国は?
Study: The Places on Earth You Could Survive a Deadly Global Pandemic
2019年10月7日(月)18時15分 Newsweek ハナ・オズボーン
地上の国境では感染者を防ぎきれないが、海に囲まれていれば助かるかもしれない Paul Campbell/iStock.
<いつでも起こりうる感染症の世界的な大流行。人類存亡の危機に、あなたはどの島で命をつなげばいい?>
世界規模の感染症大流行(パンデミック)により人類が滅亡の危機にさらされた場合、
避難先──つまり病気から逃れるだけでなく文明再建のスタート地点として最も適しているのは
オーストラリアとニュージーランドだとする論文を、オタゴ大学(ニュージーランド)などの
研究チームが発表した。
「バイオテクノロジー分野での数々の発見により、遺伝子組み換え病原体によるパンデミックが
われわれ人類の生存を脅かす可能性が出てきた」と、オタゴ大学のニック・ウィルソン教授は
声明で述べた。「地上の国境は感染者に簡単に超えられてしまうが、海という天然の防壁に
囲まれて自給自足もでき、技術者も多い島国なら、災害後、地球上にまた人間を増やしていく
拠点になれるかも知れない」
ウィルソンと研究チームのマット・ボイドは、世界規模のパンデミックが発生した場合の、
人類の再出発地としてのポテンシャルを評価するシステムを開発。世界各地の海に囲まれた
国々について、アクセスの良さや、自給自足に必要な資源の存在などについて検討した。
リスク・アナリシス誌で発表された彼らの論文を読めば、海に囲まれた国々の中で「破滅的な
パンデミック(もしくはそれ以外の人類の存続に関わる脅威)に際して長期的な人類の生き残りを
確実にするための避難所」として役立つ可能性が高いのはどの国かを示している。
世界的パンデミックの脅威はリアル
世界規模のパンデミックの危険はリアルなものだ。つい先ごろ、世界健康危機モニタリング委員会
(GPMB)は、大規模な感染症の流行に世界は耐えられないと、準備不足を警告したばかり。
GPMBは世界保健機関(WHO)と世界銀行によって設立された独立機関だ。
「人類は常に病気を経験してきたが、(政治・経済などの)不安定な状況や極端な気候といった
世界のさまざまなトレンドの組み合わせの結果、リスクは以前より高まっている」と、GPMBの
報告書は指摘している。
「病気は混乱に乗じてはびこる。過去数十年に伝染病の流行は増えており、世界規模の健康上の
緊急事態が起きる危険性は大きい。『過去は序章に過ぎない』という言葉通りなら、拡大が早く
致死性の高い呼吸器病原体によるパンデミック(5000〜8000万人を死に至らしめ、世界経済の
5%近くを帳消しにするようなもの)の脅威はきわめて現実的だ」
「世界を巻き込むパンデミックが起きれば、広範な混乱や不安が生じ、壊滅的な事態になるかも
知れない」と報告書は述べている。
過去に起きたパンデミックでは数千万人もの人類が命を落とした。中世に起きた腺ペストの流行では、
当時の欧州の人口の半数以上が死亡したとされる。ちょうど100年前のスペイン風邪の流行では、
5億人が感染し5000万人が死亡したとみられる。
外国旅行が当たり前の現代では、新たな感染症は容易に世界に広がりうると専門家は言う。
渡航制限には流行の発生を遅らせる効果はあっても阻止することはできないという研究結果もある。
では、世界規模のパンデミックが起きたらどこに逃げればいいだろうか。ボイドとウィルソンは
9つの「復興関連分野」について、陸上の国境線を持たず、25万人以上の人口を擁する世界20カ国を
調べた。
その結果、最も避難先として優れているのはオーストラリアだった。「エネルギーと食料が過剰な
ほど豊富」な点が評価された。オーストラリアでは、エネルギーの生産量は住民の生存に必要な
量の482%に達する。また、食料生産に至っては必要量の10倍近かった。「どちらを取っても
オーストラリアは世界一だ」とボイドらは言う。
僅差で2〜3位となったのがニュージーランドとアイスランドだ。上位3カ国はマルタや日本を含む
4位以下の国々を大きく引き離している。
世界の海に囲まれた国々を獲得ポイント順に並べると以下の通りとなった。
1.オーストラリア
2.ニュージーランド
3.アイスランド
4.マルタ共和国
5.日本
6.カボベルデ
7.バハマ
8.トリニダード・トバゴ
9.バルバドス
10.マダガスカル
11.キューバ
12.モーリシャス
13.フィジー
14.モルディブ
15.スリランカ
16.コモロ
17.ソロモン諸島
18.ジャマイカ
19.フィリピン
20.バヌアツ
ボイドによれば、現代の技術をもってすれば、人類は数百万の人々を死に至らしめかねない病気を
誤って野に放ってしまう可能性がある。「最悪のシナリオは、複数の遺伝子組み換え病原体が
いくつも1度に外に出てしまうことだ」と彼は言う。
「私たちの研究からは、一部の島国は、壊滅的な厄災を経ても技術が生き残る特質を備えている
ことが明らかになった」
「保険をかけるようなものだ」とウィルソンは言う。「使う必要のある事態にならないことを
祈りつつも、災害対策は事前にやっておく必要がある」