【解説】新型コロナの流出源? 武漢研究所を取り巻く疑惑
2020年4月18日 5:30 発信地:武漢/中国 AFP
中国・武漢で、武漢ウイルス研究所の病原体レベル4(P4)実験室が入る建物(2020年4月17日撮影)
【4月18日 AFP】新型コロナウイルス流行の中心地となった中国・武漢(Wuhan)の
はずれの山沿いに位置する「武漢ウイルス研究所(Wuhan Institute of Virology)」──。
厳重な警備下に置かれたこの施設が新型ウイルスのパンデミック(世界的な大流行)の
発生源だった可能性があるとの疑惑が今、米国で取り沙汰されている。
以下に、同研究所をめぐる主な疑問をまとめた。
■どのような施設なのか?
同研究所は中国典型培養物保蔵センター(CCTCC)の所在地。公式ウェブサイトに
よると、同センターはアジア最大のウイルス保管施設で、1500株以上を保管している。
同研究所では2015年、病原体レベル4(P4)を扱える最高水準の安全性を確保した
実験室が完成し、2018年に稼働を開始。P4は人から人への感染の危険性が高いウイルスを
指し、エボラウイルスなどが含まれる。
P4実験室の建設に当たっては、仏バイオ企業の創業者アラン・メリュー(Alain Merieux)
氏が顧問を務めた。同研究所では病原体レベル3(P3)実験室も2012年に稼働を開始して
いる。
AFP記者が最近、同研究所を訪れたところ、内部に人の動きはみられなかった。
■新型ウイルスはここで発生したのか?
米紙ワシントン・ポスト(Washington Post)とFOXニュース(Fox News)は匿名の
情報筋の話として、新型ウイルスがこの研究所から誤って流出した可能性があると報じた。
ワシントン・ポスト紙が入手した外交公電からは、当局者らが特に重症急性呼吸器
症候群(SARS)に類似したコウモリコロナウイルスの取り扱いをめぐる安全対策の
不備に懸念を示していたことが明らかになった。
FOXニュースは、同施設で研究対象となっていたコウモリ由来のウイルス株に感染した
人物が「0号患者」となり、そこからウイルスが武漢の住民に広まった可能性があると
伝えた。
中国の科学者らは、新型コロナウイルスは武漢の野生動物市場で動物から人へと感染
した可能性が高いとしているが、インターネット上では武漢ウイルス研究所が起源だとの
疑惑をめぐるさまざまな陰謀説が拡散。ついには米政府もこの疑惑に言及し、当局が
ウイルスの出所をめぐり「徹底的な調査」を行っていることをマイク・ポンペオ
(Mike Pompeo)国務長官が表明するに至った。
同研究所は17日、コメントを拒否したものの、今年2月にはうわさを否定する声明を
出していた。また中国外務省の趙立堅(Zhao Lijian)報道官は17日、同研究所から
新型コロナウイルスが流出したとの説を否定した。
■新型ウイルスについて分かっていることは?
科学者らは、新型ウイルスの起源はコウモリだと考えており、そこからセンザンコウを
媒介して人へと感染した可能性があるとみている。センザンコウは絶滅が危惧されて
いるが、中国国内ではそのうろこが伝統薬の材料として違法に取引されている。
だが今年1月、英医学誌ランセット(Lancet)に発表された中国科学者チームの
論文では、最初の感染者と、初期に感染が確認された41人のうちの13人が、ウイルス
発生源とされる武漢の野生動物市場とはつながりがなかったことが明らかにされた。
中国を代表するコウモリコロナウイルス研究者の一人で、武漢ウイルス研究所P4
実験室の副所長でもある石正麗(Shi Zhengli)氏は、新型コロナウイルスがコウモリ
由来であることを初めて示した論文を出した研究チームの一員だ。
米科学雑誌サイエンティフィック・アメリカン(Scientific American)のインタビュー
に応じた石氏は、新型コロナウイルスのゲノム配列は自身の研究所がこれまでに収集・
研究したコウモリコロナウイルスのいずれとも一致しなかったと述べた。
英ロンドン大学キングスカレッジ(King's College London)のバイオセキュリティー
研究者、フィリッパ・レンツォス(Filippa Lentzos)氏はAFPに対し、新型ウイルスが
武漢の研究所から流出したとする説には今のところ証拠がないとする一方、
野生動物市場が発生源だとする説にも「確固たる証拠はない」と指摘。
「私にとって、パンデミックの起源は依然として未解決の疑問だ」と語った。
中国・武漢にある武漢ウイルス研究所の病原体レベル4(P4)実験室を視察した当時の仏首相、ベルナール・カズヌーブ氏(中央、2017年2月23日撮影)
中国・武漢にある武漢ウイルス研究所の病原体レベル4(P4)実験室で作業を行う職員(2017年2月23日撮影)。