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話題の漫画の実写化。皆さまはもうご覧になりましたか? 映画『キングダム』の名セリフに学ぶ 。「こいつは俺がこえなきゃならねぇ壁なんだ!!」

2019-06-16 15:24:00 | マスコミ

映画『キングダム』の名セリフに学ぶ

「こいつは俺がこえなきゃならねぇ壁なんだ!!」
 
2019.6.15(土)  栗澤 順一(さわや書店)
 
 

 何かと話題の映画『空母いぶき』(原作:かわぐちかいじ著、小学館)を見てきました。敵国が

侵攻しようとした際の日本の取るべきシミュレーションとして、また極限状態に置かれた組織内の

人間ドラマとしてはよくできていたと思います。


 ただし仮想敵国を原作にはない架空の国に設定したのは致命的なミスでしょう。小さな島が

いくつか集まって作った連邦が、なぜあそこまでの軍事力を有しているのか。普通に考えれば、

背後に糸を引いている大国の存在があり、さらにその大国をけん制している大国があり、単純に、

敵国連邦VS日本の図式にはならないはずです。


 そのため戦争が起きるかもしれずに混乱する日本社会の描き方も、どうしても中身の薄いものに

なっていました。原作のリアルな設定との差に物足りなさを感じたまま、映画館を後にしたのです。


 その点、同じ実写化でも『キングダム』(原作:原泰久著、集英社)は違いました。

 紀元前の春秋戦国時代を舞台に、後の始皇帝となる秦王・政と、後に大将軍になる少年・信が、

中華統一を夢見て活躍する物語。今回の実写化は正直期待せずに映画館へ足を運びましたが、

いい意味で予想は裏切られました。


 成功した一番の要因は、脚本に原作者が加わっていた点でしょう。そのお蔭で、エピソードを

欲張らずに初期の内乱に絞ったストーリー展開、主要なキャラクターたちもマンガとのギャップを

感じず、無理なく見ることができました。原作の世界観がまったく壊されず、さらに実写化により

視覚の深みも加わったまれにみる作品になっていたのです。


 続編を期待してしまう実写化作品と巡り合うのは、何年ぶりでしょうか。

 

名セリフで溢れているマンガの世界

その興奮とともに、思わず手に取ってしまったのが、『キングダム 最強のチームと自分をつくる』

(伊藤羊一著)でした。


「あきらめたらそこで試合終了ですよ?」(スラムダンクの安西先生)に代表されるように

名セリフで溢れているマンガの世界。もちろん、キングダムも例外ではなく、拾い上げればキリが

ありません。


 本書には、コミックの40巻までに掲載されたなかから名セリフが集められています。

しかもそこには、ベストセラーになった『1分間で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけ

シンプルに伝える技術』(SBクリエイティブ)を上梓し、非常に言葉を大切にしている著者ならではの

視点が加わっているのです。


 例えば「こいつは俺がこえなきゃならねぇ壁なんだ!!」という信のセリフを通し、壁を乗り越える

必要性を説いているように、ビジネスの現場で役立つメッセージが込められています。本書を読んで

気持ちだけでも天下の大将軍になってみてはいかがでしょうか。


 そんな映画『キングダム』の興行収入が、公開から24日間で40億円を突破しました。

それをうらやましく眺めている私たち出版・書店業界ですが、久々に期待できる明るいニュースも

届いています。


新海誠、宮崎駿の新作が

 7月に公開される予定の新海誠監督の新作『天気の子』。それにあわせて原作が文庫化されます。

『君の名は。』の大ブームのときのように、映画の興行収入の伸びに比例して、ロングセラーになる

ことが期待できるのです。


 さらに、引退を撤回した巨匠・宮崎駿監督も新作に取り掛かっていると報じられ、しかもその

タイトルが『君たちはどう生きるか』というではありませんか。内容は吉野源三郎原作とは違った

冒険活劇になりそうですが、同タイトルのマガジンハウス刊の漫画版が、再度注目を浴びることでしょう。

 

 そんな宮崎駿監督率いるスタジオジブリの黎明期を描いたノンフィクションが、

『もう一つの「バルス」―宮崎駿と『天空の城ラピュタ』の時代―』(木原浩勝著)。


 宮崎監督と一緒に仕事をすることを目標に、アニメーション制作の世界へ飛び込んだ著者。

紆余曲折を経て、創設されたスタジオジブリに参加することができましたが、

処女作『天空の城ラピュタ』の成否に早くも会社の存亡がかかり、襲いかかるプレッシャーとの

闘いが始まります。


 まだ若手ながらも臆せずに仕事に取り組む著者と、温かい眼差しで見守る宮崎監督との

積み重ねられる微笑ましいエピソード。さらに名セリフの「バルス」にあったもう一つのアイデアや、

消えたフラップター製作者の写真といった制作上の秘話の数々。この二つがうまく絡み合い、

読み応えのある一冊になっています。

 新作公開の際には、本書を『君たちはどう生きるか』の隣に並べて展開することにしましょう。

 

王道を突き進む著者の筆力

 ところでご存知の方が多いと思いますが、「バルス」とはラピュタ語で「閉じよ」の意味で、

それが崩壊・破壊と捉えられるようになりました。その「バルス」が唱えられる映画が、

スタジオジブリの発展を可能にしたのですから、面白いものです。

 

 それに対して「バルス」の嵐が吹き抜ける私たち出版・書店業界では、シャッターを閉じる

会社や店が後を絶ちません。

最後に紹介する『イシマル書房編集部』(平岡陽明著)も、そんな青色吐息の出版社が舞台です。

果たして、彼らは立ち直ることができたのでしょうか。


 主人公の満島絢子は、インターンとして神保町の小さな出版社に採用されます。胸を躍らせながら

仕事に励む絢子でしたが、当のイシマル書房が親会社からの支援の打ち切りを言い渡され、存続の

危機に瀕していました。


 前述のスタジオジブリにおける『天空の城ラピュタ』さながら、会社の命運をかけた作品を出すべく、

奔走する絢子たち。やがてその熱意に押されて、秘密を抱える作家や、カムバックしてきた名編集者、

元ヤンキーの営業マン、全国の書店員たちが立ち上がりますが・・・。


 傾いた組織を立て直し、うまい具合に着地する王道のストーリー展開は、珍しいものではなく、

常日頃、書店の店頭を賑わせています。そこでミステリー要素を加えたり、大どんでん返しを

仕込んだりと、ちょっとしたアクセントを入れ、その物語ならではの特長を出したくなるもの。


 しかし本書はあえてそのような変化球を織り交ぜることをしません。あくまでも脇道に逸れずに

王道を突き進む著者の筆力に惹きこまれ、すっかりイシマル書房のファンになってしまうことでしょう。


 肩肘張らずに手に取ることができ、しかもすっきりとした読後感が残るこの物語、某局の日曜日

夜8時からのドラマ化を希望します。

 

 実写化といえば、今月(6月)から公開される『ザ・ファブル』(原作:南勝久著、講談社)も

楽しみのひとつ。ファブルと呼ばれる伝説の殺し屋が、とある事情でその正体を隠し、一般人として

暮らすことで引き起こされるドタバタ劇を描いています。


 ストーリーの展開上、『空母いぶき』や『キングダム』のように大掛かりなセットやCGを

必要としないと思われますので、実写化には向いているはずです。また、シリアスなシーンも

ありながら、コメディ要素も含んでいますので、キャスティングによっては幅広い層の観客に

受け入れるのではないでしょうか。


 何より原作であるコミックの既刊が、今のところ18巻であることに魅力を感じます。

その巻数であれば、映画を見た後に書店の店頭に足を運び、コミック全巻を大人買いして

いただけるのでは? 映画館に電卓を持ち込まないように気を付けなければいけませんね(汗)。


栗澤 順一(さわや書店)のプロフィール

「東北にさわや書店あり」と全国の読書マニア、出版業界人、書店業界人にその名を知られる岩手県・盛岡の老舗書店チェーン「さわや書店」の書店員。さわや書店 外商部兼商品管理部 部長。


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