【社説】国防政策でつまずく韓国新政権
ミサイル防衛で中国の圧力に屈する文大統領
ミサイル防衛で中国の圧力に屈する文大統領
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が先週、米国の地上配備型ミサイル迎撃システム「THAAD(サード)」の追加配
備を中断すると決定したことは、新大統領が北朝鮮の脅威や米国、中国、日本との関係に今後どう向き合うかを示すシ
グナルだ。中道左派の歴代大統領と同様、文氏は地域の大国間でバランスを図る役割を果たし、北朝鮮が交渉に応じ
るよう説得を試みることを目指す。しかし、この愚直さが韓国の安全保障を危険に陥れている。
北朝鮮による攻撃を防ぐTHAADの能力が問題なのではない。コストも問題ではない。米政府が10億ドル(約1100億
円)の勘定を支払う予定だからだ。唯一物議を醸しているのはレーダーで領空内をのぞき込まれる可能性に中国が強く
反発していることだ。中国政府はTHAADを強制的に放棄させようとして韓国に非公式の経済制裁を科している。
文大統領は中国の圧力に屈し、新しい発射台の配備を政府の環境影響評価が終わるまで最長2年間遅らせることに
した。鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長は米国に対し、韓国政府がTHAAD配備に関する米韓合意を守るつもりだ
と伝えて安心させようとした。
しかし、大統領側近が先週、THAAD配備の必要性は「緊急ではない」と匿名でメディアに語ったことで、鄭氏の約束は
台無しになり、多くの国民の間に不信感が広がった。北朝鮮は毎週のようにミサイル発射実験を繰り返し、終末論的な
脅威を与えているからだ。
韓国紙の中央日報は「われわれはこの発言に全くあぜんとした」と掲載。英字紙コリア・ヘラルドは「ここ数カ月で北朝
鮮のミサイル実験の頻度が増したことを考えると、システムの全面配備は急を要する。ミサイル迎撃能力は韓国にとっ
て死活問題だ」との見解を示した。
文大統領は5月下旬に訪韓した米上院民主党のナンバー2、ディック・ダービン議員(イリノイ州)に対しても、THAAD
配備の決定を覆す気はないと改めて念を押そうとした。しかしダービン議員は、新大統領の計画についてなおさら懸念
が増したという。「私が危惧するのは――これが間違いであることを願うが――韓国は米国と協力するよりも中国と協力
するほうが北朝鮮を抑え込める可能性が高いと彼(文大統領)が考えていることだ」。同議員は米紙ワシントン・イグザミ
ナーにこう語った。
前政権が既に配備したTHAADのレーダーおよび2台の発射台を完全に撤去する以外に、中国政府をなだめる方法
はないだろう。文氏が韓国内外で八方美人的に振る舞うことは必ず裏目に出る。その間に北朝鮮はますますつけあが
り、新政権を試すためにミサイル実験やその他の軍事挑発行為をエスカレートさせる可能性がある。
文大統領が月内に訪米し、ドナルド・トランプ米大統領と会談するまでに、誤りを修正する時間はまだある。国家安全
保障が危険にさらされている場合には、環境影響評価の放棄は可能であり、当然そうすべきだ。THAADがその要件を
満たさないとすれば、どのような事態が当てはまるのか想像がつかない。