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「正男暗殺」の次は「正恩暗殺」?

2017-02-21 18:34:24 | 北朝鮮

「正男暗殺」の次は「正恩暗殺」?

 

金正男氏の暗殺事件を捜査中のマレーシア警察当局は19日、事件発生後、初めて記者会見を開き、これまでの捜査結果などについて発表した。その情報をもとに、「正男氏暗殺事件」の時間的推移を再現してみた。


マレーシア警察の発表から「正男氏暗殺事件」が北朝鮮の対外工作機関「偵察総局」が主導した犯罪だったことがほぼ確認できた。そこで発表されたデーターから事件がどのように実行に移されていったかを考える。


先ず、偵察総局から最初にマレーシア入りした人物は32歳のホン・ソンハク容疑者で、先月31日に入国した。この事実は、北側が正男氏のマカオ帰国の飛行機便の日時(今月13日)を先月下旬ごろ、入手していたことを示唆している。金正恩朝鮮労働党委員長の父・故金正日党総書記の誕生日(2月16日)が近かったことから、正男氏の暗殺計画がその日に合わせて実行された可能性も排除できなくなる。


ホン容疑者の後、3人の容疑者が次々とマレーシア入りした。先ず、リ・ジェナム容疑者(57)が今月1日に、同月4日にリ・ジヒョン容疑者、そして最後にオ・ジョンギル容疑者(54)が入国した。このマレーシア入りの順序から判断すると、ホン容疑者が正男氏マカオ帰国情報の信頼性をチェックした後、その直接責任者のリ・ジェナム容疑者がマレーシア入り。そして正男氏のマカオ帰国日程が信頼できるとして「正男氏暗殺計画」の許可を金正恩氏に求めた。そしてOKが出たことを伝えるためにマレーシア入りした3人の容疑者に伝えたのがオ容疑者だったはずだ。すなわち、先月下旬に正男氏マカオ帰国日程を入手し、今月7日、金正恩委員長から暗殺許可が出るまで1週間余りの時間しか経過していないわけだ。


不明な点は、正男氏を実際暗殺したベトナム人とインドネシア人の国籍を有する2人の女性の動向だ。2人はそれぞれ今月2日と4日に旅行目的でマレーシア入りした。その2人が4人の北工作員と接触したのは遅くとも今月10日前後と予想できる。2人の女性の証言によれば、13日の実行日の前日、クアラルンプール国際空港内でリハーサルを実施したという。一部の情報では、女性はマレーシア入り前に北側から既に何らかのオファー(香水の広告ビデオ撮り)を受けていたという。これが事実とすれば、北の正男氏暗殺計画が1月末から2月初めには既に準備されていた、ということになる。


暗殺は毒物によるものだった。その毒物の準備や4人の北容疑者の宿泊地などを手配していたのが、17日夜逮捕された最初の北国籍容疑者、リ・ジョンチョル容疑者(46)だろう。犯行後、4人は即出国したが、リ容疑者はマレーシアに家庭を持っていることもあって留まった(北は不法工作活動に現地駐在の同国人を動員したわけだ)。


事件の推移で不明な点は、4人の北容疑者と2人の女性との最初の接触だ。さまざまな証言が出ているが、誰が異国の2人の女性を正男氏暗殺の実行犯にする計画を立案したのか。正男氏マカオ帰国情報から暗殺方法、2人の女性の関与など誰が計画したのか。逮捕された唯一の北のリ・ジョンチョル容疑者から聞き出す以外に、もはやその答えを得る道がない。


次に、北に帰国したという4人の工作員の運命だ。北側は「正男氏暗殺事件」の実行犯だという国際社会の批判に対し当然否定するだろう。そうなれば、北に帰国した4人の容疑者は遅かれ早かれ処刑される運命にある。金正恩氏の親族暗殺者が国内にいるという状況は正恩氏にとって快いものではない。国際社会の追及が激しくなる前に4人を何らかの理由で処刑するとみて間違いない。


ところで、4人の容疑者は13日、マレーシアを出国し、3カ国経由で17日ごろ平壌に帰国済みというが、誰が確認したのか。ドバイから突然北京に入っているかもしれないし、ウラジオストックから平壌ではなく、第3国に渡っているかもしれないのだ。


マレーシアの「正男氏暗殺」計画は北側の工作活動としては余りにも杜撰だった。①5人の北容疑者の名前と顔が明らかになってしまった、②1人の北の容疑者が逮捕された、③2人の異国女性の動向が予想できない。捜査次第では大きな爆弾が破裂するような内容が飛び出すかもしれない。正男氏を暗殺したが、国際社会に「北の犯罪」を改めて鮮明に明らかにしてしまった。その上、これまで良好な関係だったマレーシアとの外交関係が今回の事件で険悪化するかもしれない(マレーシア外務省は20日、駐北朝鮮大使を召還すると表明)。


金正恩氏は叔父・張成沢氏を処刑し、今度は異母兄・金正男氏を暗殺した。正恩氏の権力基盤が一層安定するだろうという予想は残念ながら当たっていない。「金正男氏暗殺」の次は「金正恩氏暗殺」という声が出てくるからだ。


当方は「米中特殊部隊の『金正恩暗殺』争い」(2016年4月6日参考)を書いたが、金正恩氏も自身の名が暗殺リストのトップにあることをくれぐれも忘れてはならない。実際、韓国の聯合ニュースは昨年6月17日、金正恩氏の死亡ニュースを流したことがある(「金正恩氏が何度も死亡する理由」2016年6月21日参考)。


この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年2月21日の記事を転載させていただきました。ウィーン発『コンフィデンシャル』


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<参考>

『金正恩暗殺』争い」(2016年4月6日)

 

米韓両軍は先月から北朝鮮の核・ミサイル施設への先制攻撃も念頭に置いた軍事演習「5015」を展開中だ。「5015」は、北朝鮮による韓国侵攻を想定した「5027」や、北朝鮮の急変事態に対応する「5029」などを総合した作戦計画で、昨年6月に米韓が立案したもので、北の最高指導者・金正恩第1書記の暗殺も排除していないという。

 

 

韓国空軍が先月21日、北朝鮮の重要施設を精密攻撃する模擬訓練を実施すると、北の対南窓口機関「祖国平和統一委員会」は3月23日、「青瓦台(韓国大統領府)を一瞬に焦土化する」と報復攻撃を示唆。それだけではない。米本土への先制攻撃すら辞さない強硬姿勢を表明してきた。

 


米韓軍の史上最大の軍事演習と北側の核攻撃警告が飛び交う中で、いま密かに流れている情報がある。中国人民軍特殊部隊が金正恩氏を暗殺するというシナリオだ。以下、それを少し説明する。

 


米精鋭海兵部隊は2011年5月、国際テロ組織アルカイダの首謀者、オサマ・ビンラディンを暗殺した。その直後、米国は核開発計画を放棄しない北の指導者も同じように奇襲で暗殺するのではないか、といった声が囁かれたものだ。

 


軍事先制攻撃は、他の手段がなく、時間が差し迫っている時、有効な手段だ。北問題では、①核の小型化、②核兵器運搬手段の長距離弾道ミサイルの製造、③潜水艦攻撃力の強化などが現実化してきた時だろう。

 


そして米韓が「戦略的忍耐」を実施している間、北は核実験を繰り返し、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を行っている。北の大量破壊兵器が米国大陸に届く日が確実に近づいている。

 


米国の動向に神経を使う金正恩氏はここにきて米国本土も核兵器で破壊すると言いだした。国際社会は金正恩氏の警告を単なる強がりと受け取っている。米韓は北が核兵器を使用する気配が見られた先制攻撃も辞さないと警告を発している。

 


ところで、金正恩氏が核兵器に手をかける気配があった場合、北指導部の壊滅作戦を計画しているのは米特殊部隊だけではないのだ。中国人民解放軍特殊部隊だ。多分、彼らの一部は既に北内部に潜伏しているだろう。そして、金正恩氏が核兵器に手をかけようとしたら、北京は即、金正恩氏の暗殺命令を下す。このシナリオの場合、北京側はポスト金正恩の後継者を既に準備しているとみて間違いないだろう。すなわち、金正恩氏暗殺で米国と中国が密かに競っているわけだ。

 


考えてみてほしい。米中両国にとって金正恩氏の暗殺で国際社会から批判を受ける危険性は非常に少ない。むしろ、世界はやっと静かに安眠できるというわけで、称賛の声すら上がるかもしれない。オバマ米政権にとっても中国現体制にとってもマイナス要因が少ない選択肢といえるわけだ。

 


問題は、金正恩氏暗殺は米国より中国により好ましい選択となるかもしれないことだ。米海兵部隊が金正恩氏を暗殺した場合、朝鮮半島の将来に対する主導権を米韓両国が握るが、中国側が米海兵隊より先に金正恩氏を抹殺した場合、国際社会から称賛されるばかりか、朝鮮半島の将来に対して中国は強い発言権を確保できる。北京側は金正恩氏抹殺直後、北京寄りの後継政権を発足させるだろう。

 


それだけではない。中国軍特殊部隊の金正恩氏暗殺は日本の外交にとってもマイナスだ。尖閣諸島の領有権で中国と対立する日本は、金正恩氏を暗殺し、国際社会から認知を受けて自信を深めた中国と対峙することになるからだ。すなわち、中国側は金正恩氏暗殺で朝鮮半島の主導権を握る一方、尖閣諸島の領有権問題でも有利な展開が期待できるわけだ。中国側にとってマイナスは少なく、プラスが多いのだ。

 


年末に大統領選を控える米国は大きな外交政策を決定できる余地が少ない。対北政策ではどうしても腰が引けてしまう。米国の外交政策の隙間を衝いて、中国が金正恩氏暗殺というカードを切った場合、米国はその後の朝鮮半島の行方について、中国主導の路線を追従せざるを得なくなるのだ。

 


習近平主席の対北政策は2012年就任後、国際社会の除け者・北朝鮮と距離を置く政策を取ってきている。中朝は血で固められた友誼関係と言われた時代は江沢民元国家主席から胡錦濤・温家宝体制までで終焉し、習近平主席時代に入り、中朝関係は明らかに冷えている。

 


習近平主席は金正恩氏が激怒に駆られ核のボタンに手を掛けようとする時を心待ちにしているのではないか。その時、中国は北の異端児を抹殺できるだけではなく、国際社会から中国外交の認知を受け、先述したような外交成果も得ることが出来るわけだ。習主席が躊躇する理由はない。金正恩氏が最も恐れているのは米精鋭海兵部隊の襲撃ではなく、実は中国人民解放軍特殊部隊の奇襲なのだ。