モロッコ、イランと断交 独立派組織に武器提供と非難
アルジェリア西部ティンドゥフ近くの難民キャンプで、西サハラの旗の前に立つ独立派武装組織「ポリサリオ戦線」の兵士(2017年10月17日撮影)
【5月2日 AFP】モロッコ政府は1日、イランとの外交関係の断絶を発表した。モロッコが領有権を主張する西サハラ
(Western Sahara)の緩衝地帯で、独立派武装組織「ポリサリオ戦線(Polisario Front)」に対し、イランがレバノンの
イスラム教シーア(Shiite)派原理主義組織ヒズボラ(Hezbollah)を通じて武器提供していると非難している。
モロッコのナッセール・ブリタ(Nasser Bourita)外務・国際協力相は、今回の決定について「現在の地域的あるいは国際的な情勢」
とは無関係だと述べた。サウジアラビアとその同盟国は、イランが支援するシーア派組織と対立し緊張が高まっている。
しかしヒズボラはモロッコ政府の主張をすぐに否定。同国が諸外国の「圧力」に屈していると非難した。
首都ラバトで記者会見したブリタ外務・国際協力相は、アルジェリアが支援するポリサリオ戦線への最初の武器輸送は、
最近アルジェリアのイラン大使館の「要員」を通じて行われたと指摘。「モロッコ政府は、ポリサリオ戦線とヒズボラの共謀を
裏付ける動かぬ証拠や氏名、特定の行動を把握している」と述べた。
1973年に創設された西サハラの解放組織。当初モーリタニア領内に本部をおいていたが,その後アルジェリアに移転。
76年2月西サハラはスペインの手を離れ,北3分の2がモロッコに,残り3分の1がモーリタニアに分割併合された。
しかし西サハラ住民の声を代表する組織と自認する同戦線はこれを認めず,アルジェリアの支援を受けて,モロッコ,モーリタニア
両国を相手に武装解放闘争を開始し,同年2月にはサハラ・アラブ民主共和国の樹立を宣言。
アルジェリアほか多数の国がこれに承認を与えた。
その後 79年8月モーリタニアが西サハラ南部の領有権を放棄すると,モロッコがこれを占領した。
武力紛争が続くなか,アフリカ統一機構 OAUは「住民投票による西サハラの将来の決定」を提案し,国連も住民投票に向けて
モロッコとポリサリオ戦線との直接交渉を求める決議を採択した。
モロッコは 89年1月になって直接会談に踏切り,91年7月のジュネーブ合意で,停戦,国連監視下の住民投票を 92年に行うことが
決定したが,住民の投票資格をめぐって相方の対立が続き,繰延べられた。 2017年現在も住民投票は延期されたままである。
監視団の活動は継続している。
「神の党」を名乗るヒズボラの明と暗
Party of God Almighty
2017年8月2日(水)10時20分 Newsweek
<シリア内戦に関与して力を付けたヒズボラだが、イスラエルとの全面戦争は自殺行為になりかねない>
大柄な男が、重そうなマシンガンを構えて立つ。傍らにはミサイルの発射台。暖かい5月の朝で、一羽のチョウが男の顔をなでるように舞っていた。
場所はシリアの首都ダマスカスの南方。「神の思し召しで、われらは近くシリアを解放し、祖国へ戻る。だがその日が来るまでは、死んでもこの地を
守り抜く」。ヒズボラの戦闘員ラビエ(仮名)はそう言った。
ヒズボラは「神の党」の意。レバノンを拠点とするシーア派の武装組織で、シーア派の盟主イランの意向を受け、シーア派の分派に属する
バシャル・アサド大統領の率いるシリア政府を支援して、5年前からシリア反政府勢力やスンニ派系の過激派と戦ってきた。もちろん犠牲は大きかったが、
彼らが得たものも大きい。得難い実戦経験を積めたし、イランやシリア政府、そしてロシアから、大量かつ強力な武器を提供された。
だが、それも長くは持たないだろう。天敵イスラエルとの緊張が高まっているからだ。そのためヒズボラは、シリアにいる精鋭部隊をレバノン南部の
イスラエル国境付近に呼び戻しているという。
一方でシリア領内にあるヒズボラの拠点に対しては、米軍が何度も空爆を行っている。そのためヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララは
アメリカへの報復を示唆している。しかしイラクにおけるテロ組織ISIS(自称イスラム国)掃討作戦では、ヒズボラもシーア派民兵組織と共に戦い、
間接的ながら米軍の支援を受けている。
なかなか複雑な関係だが、仮にイスラエルとの本格的な戦闘が始まった場合、ヒズボラはシリアとイラク、レバノン南部の3方面で同時に戦うことになり、
全てを失う恐れがある。ベイルート・アメリカン大学のヒラル・ハッシャン教授が言うとおり、「イスラエルが全面戦争に踏み切れば、ヒズボラが
勝てる見込みはない」からだ。
それでもレバノンの首都ベイルート郊外のダヒエに陣取る地区司令官とその副官は強気だ。「シリアに行って、われわれはずっと強くなった」と
司令官は言う。「以前のヒズボラは基本的に守りの部隊だった。しかし今は攻めの戦術も学んだ」
「今のヒズボラには、以前なら考えられなかったほどの武器がある」と、副官が付け加えた。「シリアが平和だったら、こんな武器を、それも安値で
手に入れることは不可能だった」
06年の対イスラエル戦争でも、ヒズボラは頑強に抵抗した。侵攻したイスラエルの地上軍にはロシア製の対戦車ミサイルで反撃し、最終的に停戦合意を
受け入れさせた。
あの頃に比べてもなお、ヒズボラは格段に強くなった。昨年段階でヒズボラの正規軍は2万人、予備役は2万5千人を数える。中規模国の軍隊並みだ。
またイスラエルの推定では、ヒズボラが保有するロケット弾は約12万発。EUのたいていの国よりも多い。
ヒズボラはレバノン南部の地下トンネル網も補強しており、その一部はイスラエル領内まで延びているとの観測もある。
「弾道ミサイルはイスラエルに対する秘密兵器だったが、シリアでは実戦で使用した。われわれには1時間に4000発のミサイルを発射する能力がある。
イスラエルはそれを目の当たりにした」とダヒエの司令官は言う。「三輪バギーやバイク、無人攻撃機でイスラエル領に侵入し、石油施設を破壊する
こともできる。そして、こちらには対空ミサイルもある」
戦いの継承は文化の一部
現実はそう甘くない、たとえヒズボラが全兵力をレバノン南部に集結させてもイスラエルの攻勢には耐えられない、とみる専門家もいる。
06年の戦争で危機感を抱いたイスラエルが軍事力を強化しているからだ。
「ヒズボラの手口は十分過ぎるほど分かっている」と、イスラエル軍の元諜報部員ジャック・ネリアは言う。「イスラエルが最初にすべきことは
ヒズボラのミサイルの無力化だ。それに成功すれば、イスラエルはレバノン領から打ち込まれるロケット弾の被害を最小限に食い止められる。
われわれは本気だ。敵に容赦はしない。ヒズボラは私たちを甘くみないほうがいい」
両陣営が互いに与える損害の大きさを考えると、現状維持、つまり相互抑止の状態が続く可能性はある。この10年間も、戦争が避けられないように
みえた状況が何度かあった。
一昨年の1月にはイスラエルが、シリアにいるヒズボラの隊列を空爆した。ヒズボラは国境地帯のイスラエル軍に報復攻撃をかけたが、戦闘はそれ以上に
拡大しなかった。イスラエルはシリア領内にあるヒズボラの兵器庫を繰り返し攻撃しているが、それでも戦争は起きていない。
しかし、ここへきて双方の軍事行動が活発化している。イスラエルは3月にレバノンとの国境付近にレバノン南部の村落を模した施設を建設し、
ヒズボラの支配地域に侵入して戦う一連の訓練を実施している。
ヒズボラも負けてはいない。イスラエル軍の動きを注視し、情報を探り、戦闘員をレバノン南部に移動させて侵攻に備えている。
「今はシリア政府軍が状況を掌握しているから」とダヒエの司令官は語る。「こちらはレバノン南部に集中できる」
イスラエルと国境を接するレバノン南部の緊迫した状況は、今に始まったことではない。しかしヒズボラが臨戦態勢を整えていることと、
アメリカがシリアへの関与を強めていることから、地域の緊張は一段と高まっている。何といってもレバノン南部はヒズボラの牙城であり、
青々とした谷や丘陵の陰に多数のミサイルを隠している。戦争で最も被害を被るのは地域の住民だが、彼らはそうした暮らしに慣れてもいる。
「イスラエル側は準備しているし、こちらも準備は万端だ」。レバノン南部にいるヒズボラの幹部は言った。「子供たちの世代に戦い方を教えること。
それはわれわれの文化の一部だ」
秋が来る前に戦争になる。この幹部はそう予測した。彼が正しければ、シリアにいるラビエのような兵士はレバノン南部に呼び戻されるだろう。
「どこであれ、イスラエルが約束を破れば」とラビエは言った。「われわれが立ち向かう」