気の向くままに junne

不本意な時代の流れに迎合せず、
都合に合わせて阿らない生き方を善しとし
その様な人生を追及しています

(‘77)5月19日 (木) #2 波止場の船は日向ぼっこ

2023年06月28日 | 日記・エッセイ・コラム
幸せそうな夢の世界からお伽噺しの様な現の世界に目覚めたばかりの明美の顔は、無邪気な幼子のそれに似てとても可愛らしい。
「お早う。お目覚め?フフフ…気持ち良さそうに寝ていたね」
「ウンン…今何時頃?」
「三時ちょっと過ぎ。十五分頃になったら、そろそろでようか」
「そうね。もうここにだいぶ居るしね」
「見て見て。海の色がさっきと全然違っている」
「わぁ…本当ネ、ステキ。どの船に乗るんだったかしら」
「アレ、あそこに泊まって日向ぼっこしている、中くらいの船」
明美と共に眠りの世界から目を覚まし、今まさに出航せんとばかりにその『時』を待っている「大原丸」の姿がそこにあった。
「ご馳走様。長々と居座っちゃってスミマセンね」
などと言いながらアルバトロスを後に、瀬戸商店の前迄歩いて来た。シーズン前の早い夏の日の為なのか、他にはこれといった乗船客も無く、ただ二〜三人の船乗りがそれらしく右往左していた。
予定通り午後三時三十分に未だ見島、西表島に初めての一歩を踏み出す為、「大原丸」は石垣の波止場をゆっくりと離れていった。
もうここには、この世界の何処にも「寂しき狩人」と名乗った都会育ちの旅人は存在していない。その旅人は自己の存在を感じ、この世に生まれて以来二度目の「サヨナラ」の四文字を呟いた。
「寂しき狩人よ、サヨナラ」…と。
海は生きている。太古の昔から。昨日、今日、そして明日も永遠に…。そんな海の真ん中で私は生まれた。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿