「道尾秀介」の連作短編小説作品『光媒の花』を読みました。
『鬼の跫音』、『龍神の雨』、『球体の蛇』に続き「道尾秀介」作品です。
-----story-------------
第23回(2010年) 山本周五郎賞受賞
認知症の母と暮らす男の、遠い夏の秘密。
幼い兄妹が、小さな手で犯した罪。
心の奥に押し込めた、哀しみに満ちた風景を暖かな光が包み込んでいく。
儚く美しい全6章の連作群像劇。
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第23回山本周五郎賞受賞作、第143回直木三十五賞候補作だし、ちょっと前に読んだ短篇集『鬼の跫音』が面白かったので、期待して読みました、、、
収録されている6つの物語は、それぞれの物語(章)の登場人物が、直前の短編の端役から次の物語の主役に変わる形式で関連性のある連作となっており、最後の物語が最初の物語に繋がり円環をもって終わるという構成になっています。
■第一章 隠れ鬼
■第二章 虫送り
■第三章 冬の蝶
■第四章 春の蝶
■第五章 風媒花
■第六章 遠い光
■解説 玄侑宗久
『第一章 隠れ鬼』は、40歳半ばにして独身の「遠沢印章店」二代目の「正文」が、5年前に認知症を発症した母と二人で暮らしの中で、30年前に起きた事件のことを回想する物語、、、
「正文」には忘れようにも忘れられない過去… それは、中学生の頃に家族で定期的に行っていた長野での別荘での体験だった。
「正文」はそこで東京出身のウッドクラフトの店をしている30歳の女性と出会う… 30年に1度花をつける笹の生茂る森での性体験と、憧れの女性と父と関係を知った衝撃、、、
そして、女性は別荘近くで殺害され、父は殺人の容疑者とされるが、その後、父は自殺する… それから30年後のある日、「正文」は認知症の母が色鉛筆で笹の花の絵と男女を描いているのを知って愕然とする。
母は真実を知っていたのか… ここで、女性を殺害したのは父ではなく、「正文」だったという事実が明かされるという衝撃の展開、、、
このオチには驚きましたね… 過去の罪を思い出しながら、窓の外で隠れ鬼をする少年を眺めている場面で物語は終わります。
『第二章 虫送り』は、「正文」が家から見ていた、児童公園で隠れ鬼をして遊んでいた子どものひとりが、この物語の主人公の兄妹の兄… 父親の会社が倒産し、母親が働きに出て、両親にかまってもらえない小学生の兄妹の哀しい体験を描いた物語、、、
母親の留守中、夜の川べりの土手で虫を採って遊んでいた兄妹は、ある夜、河原で生活しているホームレスの「田沢」に妹が悪戯されそうになり、危ういところで兄が助け出す… その後、兄妹は橋の上からブロック片を「田沢」が生活しているビニールシートで作ったテントに投げ落とし、翌日のニュースで「田沢」が死んだことを知る。
数日後、目撃者がいなかったかを確かめに行く兄妹は、別のホームレスのおじさんに出会い、おじさんは兄妹がしたことを見ていたことを知る… しかし、おじさんは警察に話すつもりはないこと、夢があれば叶えられることなどを諭され、罪を悔いながら家路につく。
哀しいけど、二人は、これからきっと前向きに生きていく… そんな予感のするエンディングでした。
『第三章 冬の蝶』は、前章の続きで、実は「田沢」を殺害したのは、過去の「田沢」の性犯罪を知っていたホームレスのおじさんだったという衝撃的な展開で始まり、彼が中学生の頃に経験した切ない体験を回想する物語、、、
20年以上前、中学生だった彼は、虫捕りの最中に偶然顔を合わせたクラスメイトの「サチ」と出会う… 二人は、放課後の河原でいつも会うようになるが、彼女の貧しく荒んだ生活が徐々に明らかになり、ある日、彼女の家を訪ねた彼は「サチ」が母親の付き合っている男の相手を無理やりさせられているのを偶然のぞき見してしまう。
貧しさゆえに、生きていくため、食べていくためには、それを許すしかなかったんですよね… うーん、たまらない、、、
胸がつぶれそうになるくらい切ない物語で、彼がクリスマスプレゼントの腕時計をサチに渡したあと、「サチ」が彼の家に贈り物を持ってきた場面は、ホントに泣けましたねぇ… 切ないです。
『第四章 春の蝶』は、前章で将来はどうなっちゃうんだろう… と気になっていた「幸(サチ)」が主人公として登場し、彼女のアパートの隣に住む老人「牧川」宅で発生した空き巣事件と、夫の浮気が原因で離婚し、「牧川」宅に同居し始めた「牧川」の娘と4歳の孫「由希」との交流を描いた物語、、、
「牧川」の娘は父親の財産目当てで同居を始めていたが、空き巣に1千万円以上を盗まれ、娘は父親に詰め寄っていた… 「由希」は、携帯電話で父親が浮気相手と話をしているとは知らず、何気なくその会話を聞いていたが、母親から、その会話内容を問い詰められ、待ち合わせ場所等を母親に話したことがきっかけで浮気が発覚し、その後、父親から「おまえが盗み聞きしたせいだ」と言われたことが原因で耳が聞こえなくなっていた。
しかし、「幸」は、「幸」の働くファミレスでの「由希」の言動をみて、既に耳は聞こえるようになっているが、本人がそれを隠していることに気付く… 「由希」がバックする運送会社のトラックに轢かれかけた際に、「幸」は「由希」に「もう聞こえないふりをしなくてもいい」と叫び、彼女を助け「牧川」に真実を告げる、、、
そして「牧川」からは知らされたのは、空き巣は娘を再教育するための狂言だったこと… 空き巣が入った際に、ひとり留守番をしていた「由希」は、そのことに気付いていたが、耳が聞こえないふりをしていたことから言い出せないでいたのだった。
真実が明るみになることにより、「牧川」一家の雰囲気が少し穏やかになり、将来に光が差してくる… という感じでしたね。
『第五章 風媒花』は、前章で「由希」を轢きかけてしまったトラック運転手で23歳の「亮」が主人公… 小学校の教師をしている3歳上の姉が体調を崩して入院したことがきっかけで、折り合いの悪かった母親と再会し、家族の在り方を見直していく物語、、、
姉は食道のポリープで切除すれば問題ないとのことだったが、体調はなかなか改善せず、父親が膵臓癌でなくなっていることから、「亮」は、姉は食道癌ではないかとの疑いをもつ… 「亮」と母親の折り合いが悪い様子を見て胸を痛めていた姉は、母と姉弟が仲の良かった頃に描いてもらった三人のスケッチとカタツムリを利用して、「亮」の気持ちを変えることに成功する。
家族が、それぞれの立場で思いやることの大切さを感じさせる作品でした。
『第六章 遠い光』は、前章で弟「亮」と母親の折り合いを改善させることに成功した姉が主人公… 彼女は小学校で4年生の担任をしており、そのクラスで心を閉ざしている少女「朝代」が飼い猫に石をぶつける事件を起こし、その顛末を通じて、心を通わして行く物語、、、
実の両親を交通事故で亡くし、叔母に育てられた「朝代」は、叔母が結婚することになり混乱しまっていた… 担任として、「朝代」と一緒に猫の飼い主に謝りに行くが、トラブルは解消されず、逆に飼い主を怒らせていまい、無気力感に苛まれ教師としての自信を失っていくが、「朝代」と一緒に逃げ出してしまった猫を探すうちに信頼回が芽生え、二人で訪れた印鑑屋(第一章の「遠沢印章店」)での出来事により、「朝代」の叔母の結婚に対する気持ちも変わっていく。
「遠沢印章店」での出来事は、「朝代」の勘違いもあったのですが… それは結果オーライですかね、、、
第二章に登場した兄妹の兄もチョイ役で登場して、兄妹の心の闇が晴れたことも示唆されており、明るい未来を予感させる最終章になっていました。
『第三章 冬の蝶』が最も印象に残りましたが、ミステリ的な要素の強い『第一章 隠れ鬼』、『第二章 虫送り』も面白かったですね、、、
「道尾秀介」って、まだまだ作家としては若手なのに、本当に巧いなぁ… と改めて感じた一冊でした。
『鬼の跫音』、『龍神の雨』、『球体の蛇』に続き「道尾秀介」作品です。
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第23回(2010年) 山本周五郎賞受賞
認知症の母と暮らす男の、遠い夏の秘密。
幼い兄妹が、小さな手で犯した罪。
心の奥に押し込めた、哀しみに満ちた風景を暖かな光が包み込んでいく。
儚く美しい全6章の連作群像劇。
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第23回山本周五郎賞受賞作、第143回直木三十五賞候補作だし、ちょっと前に読んだ短篇集『鬼の跫音』が面白かったので、期待して読みました、、、
収録されている6つの物語は、それぞれの物語(章)の登場人物が、直前の短編の端役から次の物語の主役に変わる形式で関連性のある連作となっており、最後の物語が最初の物語に繋がり円環をもって終わるという構成になっています。
■第一章 隠れ鬼
■第二章 虫送り
■第三章 冬の蝶
■第四章 春の蝶
■第五章 風媒花
■第六章 遠い光
■解説 玄侑宗久
『第一章 隠れ鬼』は、40歳半ばにして独身の「遠沢印章店」二代目の「正文」が、5年前に認知症を発症した母と二人で暮らしの中で、30年前に起きた事件のことを回想する物語、、、
「正文」には忘れようにも忘れられない過去… それは、中学生の頃に家族で定期的に行っていた長野での別荘での体験だった。
「正文」はそこで東京出身のウッドクラフトの店をしている30歳の女性と出会う… 30年に1度花をつける笹の生茂る森での性体験と、憧れの女性と父と関係を知った衝撃、、、
そして、女性は別荘近くで殺害され、父は殺人の容疑者とされるが、その後、父は自殺する… それから30年後のある日、「正文」は認知症の母が色鉛筆で笹の花の絵と男女を描いているのを知って愕然とする。
母は真実を知っていたのか… ここで、女性を殺害したのは父ではなく、「正文」だったという事実が明かされるという衝撃の展開、、、
このオチには驚きましたね… 過去の罪を思い出しながら、窓の外で隠れ鬼をする少年を眺めている場面で物語は終わります。
『第二章 虫送り』は、「正文」が家から見ていた、児童公園で隠れ鬼をして遊んでいた子どものひとりが、この物語の主人公の兄妹の兄… 父親の会社が倒産し、母親が働きに出て、両親にかまってもらえない小学生の兄妹の哀しい体験を描いた物語、、、
母親の留守中、夜の川べりの土手で虫を採って遊んでいた兄妹は、ある夜、河原で生活しているホームレスの「田沢」に妹が悪戯されそうになり、危ういところで兄が助け出す… その後、兄妹は橋の上からブロック片を「田沢」が生活しているビニールシートで作ったテントに投げ落とし、翌日のニュースで「田沢」が死んだことを知る。
数日後、目撃者がいなかったかを確かめに行く兄妹は、別のホームレスのおじさんに出会い、おじさんは兄妹がしたことを見ていたことを知る… しかし、おじさんは警察に話すつもりはないこと、夢があれば叶えられることなどを諭され、罪を悔いながら家路につく。
哀しいけど、二人は、これからきっと前向きに生きていく… そんな予感のするエンディングでした。
『第三章 冬の蝶』は、前章の続きで、実は「田沢」を殺害したのは、過去の「田沢」の性犯罪を知っていたホームレスのおじさんだったという衝撃的な展開で始まり、彼が中学生の頃に経験した切ない体験を回想する物語、、、
20年以上前、中学生だった彼は、虫捕りの最中に偶然顔を合わせたクラスメイトの「サチ」と出会う… 二人は、放課後の河原でいつも会うようになるが、彼女の貧しく荒んだ生活が徐々に明らかになり、ある日、彼女の家を訪ねた彼は「サチ」が母親の付き合っている男の相手を無理やりさせられているのを偶然のぞき見してしまう。
貧しさゆえに、生きていくため、食べていくためには、それを許すしかなかったんですよね… うーん、たまらない、、、
胸がつぶれそうになるくらい切ない物語で、彼がクリスマスプレゼントの腕時計をサチに渡したあと、「サチ」が彼の家に贈り物を持ってきた場面は、ホントに泣けましたねぇ… 切ないです。
『第四章 春の蝶』は、前章で将来はどうなっちゃうんだろう… と気になっていた「幸(サチ)」が主人公として登場し、彼女のアパートの隣に住む老人「牧川」宅で発生した空き巣事件と、夫の浮気が原因で離婚し、「牧川」宅に同居し始めた「牧川」の娘と4歳の孫「由希」との交流を描いた物語、、、
「牧川」の娘は父親の財産目当てで同居を始めていたが、空き巣に1千万円以上を盗まれ、娘は父親に詰め寄っていた… 「由希」は、携帯電話で父親が浮気相手と話をしているとは知らず、何気なくその会話を聞いていたが、母親から、その会話内容を問い詰められ、待ち合わせ場所等を母親に話したことがきっかけで浮気が発覚し、その後、父親から「おまえが盗み聞きしたせいだ」と言われたことが原因で耳が聞こえなくなっていた。
しかし、「幸」は、「幸」の働くファミレスでの「由希」の言動をみて、既に耳は聞こえるようになっているが、本人がそれを隠していることに気付く… 「由希」がバックする運送会社のトラックに轢かれかけた際に、「幸」は「由希」に「もう聞こえないふりをしなくてもいい」と叫び、彼女を助け「牧川」に真実を告げる、、、
そして「牧川」からは知らされたのは、空き巣は娘を再教育するための狂言だったこと… 空き巣が入った際に、ひとり留守番をしていた「由希」は、そのことに気付いていたが、耳が聞こえないふりをしていたことから言い出せないでいたのだった。
真実が明るみになることにより、「牧川」一家の雰囲気が少し穏やかになり、将来に光が差してくる… という感じでしたね。
『第五章 風媒花』は、前章で「由希」を轢きかけてしまったトラック運転手で23歳の「亮」が主人公… 小学校の教師をしている3歳上の姉が体調を崩して入院したことがきっかけで、折り合いの悪かった母親と再会し、家族の在り方を見直していく物語、、、
姉は食道のポリープで切除すれば問題ないとのことだったが、体調はなかなか改善せず、父親が膵臓癌でなくなっていることから、「亮」は、姉は食道癌ではないかとの疑いをもつ… 「亮」と母親の折り合いが悪い様子を見て胸を痛めていた姉は、母と姉弟が仲の良かった頃に描いてもらった三人のスケッチとカタツムリを利用して、「亮」の気持ちを変えることに成功する。
家族が、それぞれの立場で思いやることの大切さを感じさせる作品でした。
『第六章 遠い光』は、前章で弟「亮」と母親の折り合いを改善させることに成功した姉が主人公… 彼女は小学校で4年生の担任をしており、そのクラスで心を閉ざしている少女「朝代」が飼い猫に石をぶつける事件を起こし、その顛末を通じて、心を通わして行く物語、、、
実の両親を交通事故で亡くし、叔母に育てられた「朝代」は、叔母が結婚することになり混乱しまっていた… 担任として、「朝代」と一緒に猫の飼い主に謝りに行くが、トラブルは解消されず、逆に飼い主を怒らせていまい、無気力感に苛まれ教師としての自信を失っていくが、「朝代」と一緒に逃げ出してしまった猫を探すうちに信頼回が芽生え、二人で訪れた印鑑屋(第一章の「遠沢印章店」)での出来事により、「朝代」の叔母の結婚に対する気持ちも変わっていく。
「遠沢印章店」での出来事は、「朝代」の勘違いもあったのですが… それは結果オーライですかね、、、
第二章に登場した兄妹の兄もチョイ役で登場して、兄妹の心の闇が晴れたことも示唆されており、明るい未来を予感させる最終章になっていました。
『第三章 冬の蝶』が最も印象に残りましたが、ミステリ的な要素の強い『第一章 隠れ鬼』、『第二章 虫送り』も面白かったですね、、、
「道尾秀介」って、まだまだ作家としては若手なのに、本当に巧いなぁ… と改めて感じた一冊でした。
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