東医宝鑑 外形篇(外科)一
一、頭(一)
一、頭部は天谷
谷というのは天谷で、神というのは一身の元神、天の谷は俗化を含む虚空、地の谷は万物を包容し山川を司る。人が天地とともに性を受け、また谷があって、その谷に真一おいて元神を住まわせる。だから頭には九宮があって九天に応じ、中間の一宮泥丸といい、または黄庭・崑崙・天谷などの名前をもっているが、総称して即ち元神の居住するところである。うつろで谷に似て、そこが神が居るところから谷神といい、神が存在しているときは生き、離れると死ぬ。昼は事物に接し、夜は夢と、神はその居に安住出来ないが常人の天谷である。黄帝の内経に天谷は元神が守ってくれるもので、人身の上は天谷と泥丸あって神を守る腑、中には応谷と絳宮があって気を守る腑、下は虚谷と関元があって精を守る腑であるが、天谷は元宮であり、元神の居室として霊性が存在し、これは神の枢となることである。
二、頭部に九宮があること
頭には九宮があり、脳には九弁がある。即ち一は隻丹宮、二は明堂宮、三は泥丸宮、四は流珠宮、五は大帝宮、六は天庭宮、七は極真宮、八は玄丹宮、九は大皇宮、宮ごとにそれぞれの神があって守り、いうなれば元首九宮真人ということである。
頭に九宮があるが正中を泥中といい、九宮が羅列して七竅が応じて通ずるところが泥丸の宮で魂魄の穴である。
三、脳と髄海
脳とは髄の海で、髄海が多いと身は軽く力強い。不足すると、脳は眩転し耳鳴りがして目に見えるものはない。
脳は髄の海で、すべて髄は脳に属し、上は脳から、下へと尾底に至るまで、精髄の昇降の道である。
四、頭部の大きさ
頭の大骨の周囲は二尺六寸、毛髪のかぶさったところである顱からうなじにかけて二尺二寸、毛髪からあごまで一尺、耳のうしろの完骨にあたる広さが九寸、耳前の耳門にあたる広さが一尺三寸である。
五、頭風症の場合
病は大体において飲痰に起因する症、または風呂上がりに涼風にあたるか、または寝ていて風にあたり、風が脳とうなじに入ると頸から上へ耳・目・口・鼻・眉稜のあいだに麻痺しにぶく頭が重く、くらくらしても、知覚しない。または口・舌がにぶく食の味を知らず、耳聾・眼痛が起こり、眉稜の上下がつれ、香を嗅ぐと鼻をつき、あくびや背ののびをするとめまいを感ずるなどの症が起きたら消風散を使い、冷えると追風散を、普通は川芎茶調飲、祛風通気散を使う。
頭痛で頭に鉢巻きしたいと思うときは熱があるので二陳湯に酒苓荊芥・川芎・薄荷・石膏・細辛を加え、または消風百解散を使う。
頭風に白芷散・天香散・加減芎辛湯・菊花茶調散を使い、婦人の頭風には養血祛風湯を使う。
消風散 すべての風邪は上にのぼり、頭や目がくらみ、鼻がつまり、耳がなり、
皮膚がカサカサになり、また婦人の血風で頭皮がはれあがってかゆい症
を治す。
処方 荊芥・甘草各一銭、人参・茯苓・白殭蚕・川芎・防風・藿香・蟬殻・羌
活各五分、陳皮・厚朴核三分を細茶一にぎり入れて煎じて服用し、また
作末して毎二銭を茶漬けあたは温酒で調服する。
追風散 扁・正頭痛と顔面に虫がはうような感じを受ける症を治す。
処方 川鳥炮・石膏煆・白殭蚕炒・川芎・防風・荊芥・甘草各五銭、南星炮・
白附子炮・羌活・天麻・全蝎・地竜・白芷核二銭半、草鳥炮・没薬・乳
香・雄黄核一銭二分を作末して毎半銭を寝しなに茶漬けまたは温酒で調
服する。
白芷散 頭面の諸風と風眩を治す。
処方 白芷を蘿菖汁につけて乾かし、作末して毎二銭を湯をわかして食後服用
する。
天香散 久・新の頭風が発し、しびれ嘔吐し、食慾のないときにに使う。
処方 南星・半夏を共に七回湯で洗い、川鳥・生白芷各一銭を水で煎じ薑汁半
盃を入れて少し服用し、頭上に塊子鍼を打つと良い。
加減芎辛湯 頭風で目が痛むときに使う。
処方 川芎・細辛・白芷・石膏・藁本・皂角・羌活・防風・荊芥・桔梗・蔓荊
子・甘菊・薄荷・甘草各五分を水で煎じて服用する。
菊花茶調散 頭風に鼻塞し、または扁正頭痛症を治す。
処方 甘菊・川芎・羌活・白芷・甘草各一両、防風銭半、細辛五銭、蟬殻・白
殭・蚕薄荷各二銭半を細末にして毎二銭を食後に茶漬で調服する。
養血祛風湯 婦人の頭痛がおきるとめまいがする症は、大体肝の弱いところへ風邪を
ひいたためである。
処方 当帰・川芎・生乾地・黄防風・荊芥・羌活・細辛・藁本・石膏・蔓荊子
・半夏・施覆花・甘草各五分、薑三、棗二を入れて煎じて服用する。