![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/31/f665ff5bc259cb21a105351fb1c76742.jpg)
「歌わせたい男たち」 2008年4月26日 (土) in 杜のほーる はしもと
読売演劇大賞最優秀作品賞/朝日舞台芸術賞グランプリ
■出演 戸田恵子/大谷亮介/小山萌子/中上雅巳/近藤芳正
■くだらない、と笑ってはいられない
舞台は卒業式を2時間後にひかえたある都立高校の保健室。
いろいろな教師が登場する。
学校改革に燃える若い英語教師。信念はあるけど、「深い」とは思えない。
養護教師は自分で考えることはせず、大きな流れに身をまかせるタイプか。
人柄もよさそうな校長。教育委員会からの締め付けが強くなる前には「君が代を歌うも歌わないも、君たちの自由」と生徒の前で話すような教師だったらしい。今は自分の中の信念を見ないふりをして、学校を卒業式を問題なく進めることにすべてをぶつける。
特にどうという思想的な背景はもたないし、以前はむしろ目立たない教師だったかもしれない社会科教師。今ではこの高校でたった一人、君が代斉唱時の不起立を貫こうとする「問題教師」(近藤芳正)。
そして、売れないシャンソン歌手から転身したばかりの音楽教師(戸田恵子)。学校の事情も国家国旗問題にもとくに興味はなく、今はミスタッチをせずにピアノ伴奏を終えられるか、ただただ心配している。
その5人のやりとりで、学校が抱える問題や、それぞれの人物の過去や関係が浮かび上がってくる。
どこにもいそうな、いてもよさそうな、でもこんな教師ばかりじゃヤバイような、そんな5人の2時間のドラマ。
忙しいはずの学校教師が、それ以外にこんなにも「くだらない」ことで悩み苦しみ葛藤していて、生徒はどうなの?と思わせる。
「(国家を)歌おうよ~、立とうよ~」と説得に努める校長のプライドを捨て去ったコミカルな対応。裁判で証言されたという、憲法でうたわれた表現の自由や内心が冒されない権利と、国旗掲揚と国家斉唱の強要に反対する教師への処分の矛盾を説明するこじつけには、客席から失笑がもれる。
東京都の教育委員会はどこへ行こうとしているのか。
そういう疑問や現状をセリフのなかに巧みに盛り込んで、私たちにいろいろなことを考えさせ、いろいろなことに気づかせる。
くだらなさに笑いながら、実はとても怖い道の上を私たちは歩かされているんじゃないだろうか、と立ち止まらせてくれる。
■上質のエンターテイメントとして
怖い問題をつきつけながら、私たちは人間ドラマに酔える。別に思想劇でも、シリアスを追求するドラマでもない。
社会科教師と音楽講師の間に流れる微妙な大人の感情や、名古屋弁で語り合うときの生の心情の吐露も、芝居の横軸として生きてくる。
人生は生きてみて初めてわかることが多すぎる。そして、おかしいと思うことにこだわらずにはいられない人がどうしてこんなに生きづらい世の中になってしまったのか。
相手への優しい気持ちや、相手の信念を敬う気持ちはありながらも、我が身かわいさはやっぱり捨てることはできない。きれいごとじゃない人間の正体。
戸田さんと近藤さんの真摯でコミカルで、ばかばかしくて、そしてせつない演技が光っている。
ラスト、戸田さん演じる音楽教師の歌う「聴かせてよ 愛のことばを」を聴きながら自分のメガネを置いて部屋を出ていく社会科教師。戸田さんのきれいな声があまりに悲しくて、しばし時が止まる。
メガネについては最初からいろいろないわくがあるのだが、このメガネを彼女に貸すことで、彼はたぶん自分の信念を貫くだけではなく、彼女への思いも昇華させたのだろう。
文句なくおもしろい芝居でした。
【追記】
帰りは同ホールの入っている「ミウィ橋本」のレストラン街の「房半」にて食事。
コース峰、コース華、そして三人目は「タンシチュー」を楽しみました。アットホームな感じの和食創作料理のお店です。
芝居の話と、オタクネタ(笑)で盛り上がりました。
読売演劇大賞最優秀作品賞/朝日舞台芸術賞グランプリ
■出演 戸田恵子/大谷亮介/小山萌子/中上雅巳/近藤芳正
■くだらない、と笑ってはいられない
舞台は卒業式を2時間後にひかえたある都立高校の保健室。
いろいろな教師が登場する。
学校改革に燃える若い英語教師。信念はあるけど、「深い」とは思えない。
養護教師は自分で考えることはせず、大きな流れに身をまかせるタイプか。
人柄もよさそうな校長。教育委員会からの締め付けが強くなる前には「君が代を歌うも歌わないも、君たちの自由」と生徒の前で話すような教師だったらしい。今は自分の中の信念を見ないふりをして、学校を卒業式を問題なく進めることにすべてをぶつける。
特にどうという思想的な背景はもたないし、以前はむしろ目立たない教師だったかもしれない社会科教師。今ではこの高校でたった一人、君が代斉唱時の不起立を貫こうとする「問題教師」(近藤芳正)。
そして、売れないシャンソン歌手から転身したばかりの音楽教師(戸田恵子)。学校の事情も国家国旗問題にもとくに興味はなく、今はミスタッチをせずにピアノ伴奏を終えられるか、ただただ心配している。
その5人のやりとりで、学校が抱える問題や、それぞれの人物の過去や関係が浮かび上がってくる。
どこにもいそうな、いてもよさそうな、でもこんな教師ばかりじゃヤバイような、そんな5人の2時間のドラマ。
忙しいはずの学校教師が、それ以外にこんなにも「くだらない」ことで悩み苦しみ葛藤していて、生徒はどうなの?と思わせる。
「(国家を)歌おうよ~、立とうよ~」と説得に努める校長のプライドを捨て去ったコミカルな対応。裁判で証言されたという、憲法でうたわれた表現の自由や内心が冒されない権利と、国旗掲揚と国家斉唱の強要に反対する教師への処分の矛盾を説明するこじつけには、客席から失笑がもれる。
東京都の教育委員会はどこへ行こうとしているのか。
そういう疑問や現状をセリフのなかに巧みに盛り込んで、私たちにいろいろなことを考えさせ、いろいろなことに気づかせる。
くだらなさに笑いながら、実はとても怖い道の上を私たちは歩かされているんじゃないだろうか、と立ち止まらせてくれる。
■上質のエンターテイメントとして
怖い問題をつきつけながら、私たちは人間ドラマに酔える。別に思想劇でも、シリアスを追求するドラマでもない。
社会科教師と音楽講師の間に流れる微妙な大人の感情や、名古屋弁で語り合うときの生の心情の吐露も、芝居の横軸として生きてくる。
人生は生きてみて初めてわかることが多すぎる。そして、おかしいと思うことにこだわらずにはいられない人がどうしてこんなに生きづらい世の中になってしまったのか。
相手への優しい気持ちや、相手の信念を敬う気持ちはありながらも、我が身かわいさはやっぱり捨てることはできない。きれいごとじゃない人間の正体。
戸田さんと近藤さんの真摯でコミカルで、ばかばかしくて、そしてせつない演技が光っている。
ラスト、戸田さん演じる音楽教師の歌う「聴かせてよ 愛のことばを」を聴きながら自分のメガネを置いて部屋を出ていく社会科教師。戸田さんのきれいな声があまりに悲しくて、しばし時が止まる。
メガネについては最初からいろいろないわくがあるのだが、このメガネを彼女に貸すことで、彼はたぶん自分の信念を貫くだけではなく、彼女への思いも昇華させたのだろう。
文句なくおもしろい芝居でした。
【追記】
帰りは同ホールの入っている「ミウィ橋本」のレストラン街の「房半」にて食事。
コース峰、コース華、そして三人目は「タンシチュー」を楽しみました。アットホームな感じの和食創作料理のお店です。
芝居の話と、オタクネタ(笑)で盛り上がりました。