kamacci映画日記 VB-III

広島の映画館で観た映画ブログです。傾向としてイジワル型。美術展も観ています。

ハウス・オブ・グッチ

2022年01月23日 | ★★★★☆
日時:1月21日
映画館:サロンシネマ


リドリー・スコットが描く1996年に起きたマウリッツィオ・グッチCEO暗殺と主犯である妻パトリッィアとの愛憎の物語。

物語は1978年にイタリアで二人が知り合うところからスタートするが、同時代のイタリアでマウリィツィオと言えば、グッチではなく、マカロニ犯罪映画、ポリツィオッテスキで活躍したメルリの方だ。同時代の雰囲気がよく出ていて、パトリッィアが勤めていたトラック運送会社なぞ、いつ犯罪の舞台になるのかとそちらの方に関心が行ってしまう。(もちろんそうはならない。)

ふたりは愛し合い、一族の経済格差も乗り越えて結婚。元々、弁護士志望だったマウリィツィオもグッチブランドの会社経営に関わっていく。

狂乱の80年代に入り、グッチブランドの方針をめぐり顔もファッションも喋りもくどい面々の思惑の相違が徐々に表面化してくる。ちなみにこういった場面でカッコいいのは、何をするでもないのに黒いスーツに細身のブラックタイでブランド王侯たちの後ろでかしずいている面々。

その内紛にパトリッィアは積極的に関与していき、マウリィツィオも徐々に感化されていく。マウリィツィオを操ろうとするパトリッィアはマクベス夫人のようでもあるのだが、事態はさらに悪い方向に進んでいく。
ポスターに名前の出ている登場人物は暑苦しい圧を持つ人ばかりなのだが、パトリッィアを演じるレディ・ガガの圧力(いろんな意味で)がなかなか迫力で、ひんむいた目元ばかり思い出してしまう(笑)
だから逆に図体のデカイ男にしか見えないアダム・ドライバーが映えるし、その行動も際立つのだが。

宮廷ドラマかソープオペラのようなゴテゴテした展開なのだが、これが実話なのだからイタリア人はこわい。
面白いのは各人とも私利私欲ではなく、真面目にグッチブランド維持のために動こうとするのだが、それが全て裏目に出ていくところ。金持ちは大変だ。
そう思うとリドリー・スコット映画の登場人物って、良くも悪くも真面目なのだが持てるエネルギーの使い方を誤るキャラクターが多いような気がする。

あと、やはり素晴らしいのはそのプロダクションデザイン。ロケを含めて画面の背景への手間のかけ方、金の掛かり具合が半端でなく、ドラマへの効果絶大な吸引力を持っている。

逆に惜しむらくは顔ぶれがオールスター過ぎて、どうしても先入観や余分な情報が入ることと、セリフが英語って点。これが地味な俳優で、イタリア語と英語で会話したら、しびれるほど面白い傑作だったと思う。

そんな中、ブラックスーツのジャック・ヒューストンがマカロニな悪役感を出していていい感じです。

ところで、見終わったらいつものマカロニ病が再発して、ポリツィオッテスキドキュメンタリー「ユーロクライム! 70年代イタリア犯罪アクション映画の世界」を再見しているワタシは病根が根深い。






題名:ハウス・オブ・グッチ
原題:House of Gucci
監督:リドリー・スコット
出演:レディ・ガガ、アダム・ドライバー、ジェレミー・アイアンズ、アルパチーノ、ジャレッド・レト、サルマ・ハエック


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クライ・マッチョ

2022年01月22日 | ★★★★☆
日時:1月19日
映画館:バルト11


まず、ストレートな感想から言うと「泣いた、最後に泣いた」。

じゃあ、「泣ける映画」なのかというと、改めて考えるとそうではない。
その理由は追々。

さて、物語から。
1980年、若いころロデオで鳴らした主人公マイク・マイロだったが、事故を契機に引退し、齢を重ねていた。そんな折、昔から世話になっているテキサスの牧場主から「離婚して本国に帰ったメキシコ人嫁が連れて帰った一人息子ラフェを自分のところに連れて帰ってこい」と依頼される。
メキシコに入国したマイロはラフェをすんなり発見し、誘拐まがいにテキサスに連れて帰る旅を始める・・・

イーストウッドでよく見るロードムービーものだ。砂漠の荒れた道を砂埃上げながら走るさまも美しい。
もちろん、連れて帰るのを阻止すべくギャングやマフィア、警官が襲い掛かってきて、いたるところで銃撃戦・・・にはならなんだ。
それにここにはジェオフリー・ルイスもベン・ジョンソンもハリー・ディーン・スタントンもいない。この景色に彼らがいないなんて悲しい。

途中、車を盗まれ、さらに官憲から身をひそめるため、片田舎の町で過ごすふたり。そこで野生馬の調教を手伝いながら、小食堂の家族と絆を深めていくが、やがて、テキサスに向け出発する時がやって来る・・・。

正直なところ、脚本はご都合主義的で各人のキャラクターも掘り下げが甘い。
imdbの評価では5.7とえらく低い(ワタシは7.0代を予想したが)のだが、単体の映画として観たらそうかもしれない。

【以下、ネタばれあり】
先に「泣いた」と書いたのは、やはり「イーストウッドの映画」として観ているからなんだな。
これまでイーストウッドの演じる主人公はカッコよくて、バカな男どもには年代に関わらず憧れだったが、実際には早撃ちのガンマンや暴力的な刑事になれるわけもなく、ずっと遠い存在だった。
ところが、しょぼくれて使いっぱしりでもかくしゃくとしたジジイなら、ようやく何とか真似できそうかと身近に思えてくる。
それでも91歳になってもあんなカッコいい色気を漂わせるなんてさすがだ。

イーストウッド作品は大概、死の匂いがプンプンしてて、最後は誰がツライ思いをするか死なないと終わらない。本作も最後にイーストウッドが撃ち殺されるか、国境を越えられないか、逮捕でもされるかと内心ひやひやして観ていたのだが、これがなんと誰も死なない。しかもミッションクリア。
さらに途中で知り合った小食堂の女主人とも仲良くなって、そこを終の棲家にする。たぶん年齢差30歳!
イーストウッド映画にしたら、信じられないようなハッピーエンド。

イーストウッド映画はたいがい辛くて2回観たいとは思わないのだが、この映画は何度でも観れる!(もちろんマカロニのドル3部作は全く別の話。)
血と暴力の歴史をたどってきた男が静かな晩節を迎えたかと思うと、もう胸が熱くて熱くて泣かずにはいられなかった。
しみじみ…

ところで、この映画製作の話は元々、40年くらい前からあったらしい。そう思うと主人公は70歳くらいのイメージではないかと思う。
90歳のイーストウッドが演じるなんてまさに「イーストウッドのイーストウッドによるイーストウッドのための映画」でしかないのだが、これを普通に映画化されていたら、見過ごしていただろうな。






題名:クライ・マッチョ
原題:Cry Macho
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド、ドワイト・ヨーカム、エデュアルド・ミネット、ナタリア・トラヴェン
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2021年ベスト映画

2022年01月09日 | 年間ベスト3
今年もコロナ禍ということもあり、昨年に引き続いて、ちょっと本数が少なかったです。
劇場側もスケジュールが確定せず、電撃的に公開された作品も多く。振り回された感はありますね。

そんな中、今年のベスト映画です。

ノマドランド
ハッピーな映画じゃないですが、フランセス・マクドーマンドの魅力と日々生きる人の素晴らしさ、素敵なロケ景色とかなりワタシ好みの作品でした。

007 ノー・タイム・トゥ・ダイ
恐らく一生のうちで一番予告編を観た映画(笑)
そして今年見た中で一番メジャーな映画(笑)
新旧のテイストを巧みに融合させた点で、007好きとしては高評価です。
次作のボンド登場とオープニングをどう捌くのか、今から楽しみです。

ONODA 一万夜を越えて
太平洋戦争後30年間、ルパング島に潜伏していた日本軍の小野田少尉を描いた映画。
フランス人監督であるにも関わらず、日本的なタッチで、それでいて公平な視線で描いた作品。

「グッドフェローズ」
リアルタイムで鑑賞できたにも関わらず、見逃していた90年代傑作ギャング映画。朝十時からの映画祭でようやくスクリーンで観ることが出来ました。
何度観ても面白い!

この他、「カラミティー」や「JUNK HEAD」も良かったです。

ワースト映画
残念ながら今年はハズレ映画もなかったです。残念な作品もありましたが、配給スケジュールに無理やり押し込まれたようなところもあったし。

昨年に引き続いて配信で珍しい作品も多々観ることができましたが、やはりスクリーンで見るもんですね。
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ONODA 一万夜を越えて

2022年01月09日 | 年間ベスト3
太平洋戦争後、比ルパング島に約30年間、潜伏していた小野田少尉をフランス人監督がどのように描くの興味深く、ぜひ観たかったのだが、上映時間3時間に二の足を踏んでいた。ようやく八丁座で公開されたので、劇場へ。

全編日本語、キャスティングも日本人なので、日本人監督が撮ったと言われても違和感がないくらい、日本的な映画だと思うのだが、小野田少尉と距離を置いた視線はやはり外国人なのかも知れない。

今の私からしても、30年間、ジャングルに潜むということがどういった心理状態なのか非常に興味があるし、監督もそういった点にも惹かれたのだと思う。
実際、秘密戦に配属されて、生き残りをかけ、時として狂信的な行動に走る小野田少尉の半生を史実にもほぼ正確にうまく描いている。密林で自活する様など、サバイバルネタ好きとしても参考になる点が多い。ただ自活だけでは生存できないから、野盗まがいのことをして殺し合いに発展していく点もシビアに描いている。
3時間という上演時間も長く感じさせないし、30年の経過を体感させるには必要な時間だったとも思う。

小野田少尉を演じた遠藤雄弥と津田寛治も戦争と一線を超えた人間の秘めた執念がにじみ出ていて忘れがたいのだが、キャスティングの中でひときわ輝いているのは谷口少佐を演じるイッセー尾形。
陸軍中野学校の教官、古本屋の亭主、過去を清算する元軍人という3つの顔を笑いに転ずる一歩手前でギリギリに演じるあたり、十八番芸だ。

最後、小野田少尉がヘリで帰国するところで映画は終わるが、そこで手を離したようにクレジットに転じるのはこの映画の本質を端的に示していたように思う。普通の映画だったらここで「1973年小野田は日本に帰国し、その後、ブラジルに移住。2013年没、享年91歳」とテロップが出るところだった。
日本人的には歴史の再現という視点で見てしまうが、むしろ特異な環境下で生きた人間を描くという視点を見るべきだし、そういった面で成功している映画だ。

ところで、ポスターのビジュアルアート、何度も言うがワタシではない。

評価:★★★★☆









題名:ONODA 一万夜を越えて
原題:GREENBOOK
監督:アンチュール・アラリ
出演:遠藤雄弥、津田寛治、イッセー尾形
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カラミティ

2021年10月19日 | ★★★★☆



タイトルどおり、西部の女ガンマン、カラミティ・ジェーンの少女時代を描いたフランスアニメ。
こういう一味変わった作品はちゃんと見ておかないと、劇場公開も短い上、なかなか配信他にかからなかったりする。
案の定、日曜日の鑑賞を予定していたら、他の映画の舞台挨拶中継とかぶってしまい、時間変更に気づいたのはほんの1時間前というあわただしい事態。あやうく見逃すところ。

さて、主人公は後にカラミティ(疫病神)と呼ばれることになるマーサ・ジェーンが西部開拓団のひとりとして幌馬車隊で旅しているところから始まる。
NHK Eテレの番組を思わせるような原色で彩られたアニメは、いかにもフランス的で新鮮。最初は違和感も覚えたりするが、すぐに慣れる。

マーサは父と幼い妹弟で旅しているが、父がケガをしたことや元々男勝りの性格だったこともあり、当時としてはご法度だった「女だてらに男の仕事」に挑むようになる。已む得ないとは言え、その行動はやがて開拓団の中で目を付けられるようになる。

ここで西部での生活やサバイバルについて、一から学ぶマーサが描写されているのは、なかなか興味深い。
これまでの西部劇だと「当たり前」のこととして描写されなかった日常生活や必要なギアがちゃんと描かれているのは感心するし、逆に「この世界の片隅に」でも分かるようにアニメの強みなのだと思う。実写だと背景の中に隠れてしまう日常生活の光景が上手く強調されている。
マーサと同じ素人の立場として観客も西部の生活を追体験しているわけだ。

開拓団に騎兵隊の斥候が来たことでマーサの人生は一変し、その後、開拓団を離れて旅をする中、小悪党、ハンター、保安官、騎兵隊、女鉱山主などが登場し、西部劇を盛り上げる。
やがて悪党とマーサの銃撃戦に発展し、最後は一対一の決闘・・・とはならず、劇中銃声は3回くらいしか聞こえない。
のだが、現代風にアレンジしたストーリー展開はなかなかいい。根底に流れる「人間には見た目と違う本当の素晴らしさがある」というアプローチは完全に21世紀の映画。

あと、日本語吹き替え版なのだが、これもなかなか良くて違和感が全然ない上、エンディングソング(日本語版)が実に素敵で、ちょっと感動してしまう。ぜひ普通に手に入るようにしてほしい。

ところで、弟の名前がエーリジャ。Elithaなのだが、イライジャとかエリジャって言わないと違和感あるなあ。






題名:カラミティ
原題:Calamity, une enfance de Martha Jane Cannary
監督:レミ・シャイエ


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007/ノー・タイム・トゥ・ダイ

2021年10月19日 | 年間ベスト3



3年近くも予告編だけを観てきただけに「ノータイム・トゥ・リリース」とか「リバイバルかと思った」とか「ダニエル・クレイグがもう1作、ボンド役をやった」とか勝手な思い込みが進行してそうな本作、ようやく公開。

【以下、ちょいネタバレあり】

今回もアバンタイトルからスタートだが、これが長い!作品名が最後に出るのかと思ったくらいで、なんと25分近くある。(上映時間も2時間44分とシリーズ中最長)しかも予告編映像の約半分はこの25分間に盛り込まれている。

ようやくメインタイトルが流れるが、いきなり「007ドクターノー」のタイトルデザインで始まるのだから、嬉しいじゃないか!
そう、本作は過去の007作品の総集編的な色合いがかなり強い。
このタイトル部分でも時計台やダイバーのシルエットが出てくるあたり、初期の007タイトルを彷彿とさせる。そういった意味でも本作未見の方には、事前に「女王陛下の007」や「007/カジノロワイヤル」「007/スペクター」は観ておかれたい。

ストーリー的には前作の続きとなっており、敵もスペクターと新たな敵サフィンの2本立て。

007ストーリーの王道として最初はアイテム探し。場所はキューバとなるが、アナ・デ・アルマス演じるパロマのドジっ娘のキャラとドタバタ感覚は「007ダイヤモンドは永遠に」や「007/死ぬのは奴らだ」時代、特にロジャー・ボンドのテイストを思い出させる。

そこからストーリーテイストが一変して、クレイグボンドのダークで身内の物語に重点を置いた展開になっていく。

MとかQとかノミとかボンド側のキャラクターに時間が割かれすぎているきらいがあるのは好きになれないが、その中で全編に登場する殺し屋プリモ(サイクロップス)がいい感じ。オッドジョブ、ジョーズ、スタンパー、ヒンクスの系譜をひく不死身だけどどっかツメの甘いキャラクター。ヴィラン好きとしてはうれしくなるなあ。

悪の組織が秘密基地を抱えているのは超重要だが、日本近郊にある〇〇施設っていうのは原作の「007は二度死ぬ」に出て
きた設定そのもの。よもやフレミング時代の設定を持ってくるとは思ってもみなかっただけに、ちょっとしたサプライズだ。

さらにサフィンの悪の施設もケン・アダムスのデザインを彷彿とさせて、「007/私を愛したスパイ」のストロンバーグのタンカー内観にソックリ。やはり総集編的なテイストがかなり強い。

この秘密基地でクライマックスを迎えるが、ここでワンシーンワンカットの戦闘シーンが登場する。よもや007でそんな描写があるとは思っても見なかった。

全編、新旧のテイストをまぶしながら上映時間の長さを感じさせない仕上がりだが、ただ、惜しむらくはヴィランのサフィンの存在感が薄いこと。犯罪の目的がイマイチはっきりしないし、ストーリー全体がボンド寄りの話になって、ボンドとサフィンがクライマックスまで対峙しない。やはり劇中、一度は顔をあわせて腹の探り合いと当てこすりの言い合いをしてほしい。

さて、次作と次ボンドがどうなるのか非常に気になるところだが、心配はいらない。原作の「007は二度死ぬ」→「私を愛したスパイ」の流れはまさに本作と次作を予期させるし、逆に映画で「女王陛下の007」でボンドの顔が変わった時には何の言及もなく、その後も代替わりしても誰も何も言わなかった。
最後にいつもより大きく「JAMES BOND WILL RETURN」と出たしね。






題名:007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
原題:NO TIME TO DIE
監督:キャリー・フクナガ
出演:ダニエル・クレイグ、ラミ・マレク、レア・セドウ、クリストフ・ヴァルツ
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ザ・スーサイド・スクワッド “極“悪党、集結

2021年09月24日 | ★★☆☆☆
前作は未見なのだが、今回、監督インタビューによれば「戦争ケイパー映画のスーパーヒーロー版」であり、大好きな映画は「荒鷲の要塞」であるという。

人生で「無人島に持っていきたい50本の映画」の1本に同作をあげている者としては観ないわけにはいかない。

「荒鷲の要塞」とは
アリスティア・マクリーン原案、ブライアン・G・ハットン監督の戦争映画。
第二次世界大戦中のヨーロッパ、ドイツに不時着し、通称「鷲の城」に監禁された米軍将軍を救出するため、米英混成の特殊部隊が送り込まれる。しかしこの救出作戦にはもう一つ裏の目的があった・・・
史実的には無茶でも60年代冷戦下の空気感あふれる緻密な構成、後半のド派手なアクションシーン、イーストウッドにアントン・ディフェリング、素敵な冬山ロケーションと登場するドイツ軍装備の数々とワタシの人生の針路を決定づけた一作。

今回もオープニングからして、刑務所から釈放され指令を受けるヴィラン連中で始まる。犯罪者に捨て石同様の死のミッションを与えるって、映画的でいいですね。
演じるのは内田裕也みたいなマイケル・ルーカー。そして、メンバーのひとりがマーゴット・ロビーのハーレ・クイン。

任務は南米の小島コルト・マルテーゼの独裁者を排除し、同国が秘密裏に研究開発を進めてきた宇宙怪獣を抹殺すること。清く正しいアメリカの手先が中南米の独裁政権に鉄槌を下すっていつの話だ(笑)ストーリーといい、中南米の景色といい80~90年代テイストに満ちていていいなあ。

ところがこのミッションは早々に血みどろの失敗。主演級のマイケル・ルーカーも爆死。「エグゼクティブ・ディシジョン」のセガールとか「デッドロック」を思い出させる(笑)

で、ようやく本題。同任務にはもう1チームが派遣されており、イドリス・エルバのリーダーのチームがミッションに挑む。
時間構成を解体したり、テロップを挿入したり、ガイ・リッチー映画を思わせる進め方をするが、なんかイマイチ、リズム感が悪い。なんだろうね。

一行は先のチームのメンバーを救出したりとお決まりの展開をたどりながら、島中を血みどろにしていく。最近の映画では珍しい描写が続き、そこはR-15指定通りで気持ちいい。

ただ全体に緊迫感がない。というのも、主人公が特殊能力をもつスーパーヒーローで、敵側がただの兵隊だから全然ピンチに陥らない。ワンサイドゲームじゃ面白くない。ここが、戦争映画だとナチ側も強いという前提があるのでそれなりに盛り上がるのだが。

さらにここに予測不能な暴力行動を起こすハーレ・クインが参入し、本来任務の宇宙怪獣の抹殺に挑む。
ハーレ・クインの言動が好きな人にはいいんだろうけど、個人的にはちょっと中途半端な感があったな。アブナイ人ならもっと振り切れた描写でも良かったかと思う。

ナチ残党が建設した要塞で研究、育成されてきたのは、宇宙怪獣スターロ。日本人的にはどこかで見たデザイン(笑)
巨大化したうえ、人間を操り、コルト・マルテーゼの市街を大破壊。サイズ感が巨大すぎず、50年代のハリウッド怪獣映画くらいでちょうどよい。
で、あれやこれやで怪獣退治を果たしめでたしめでたし。

評価的には、全体にもう少しハードな方が逆に笑えて面白かったんじゃないかと思うので、★★☆☆☆。

ところで、予想どおり「荒鷲の要塞」へのオマージュな場面も。現地でバーで手入れされるシーンなんて、そのまんまの展開だし、アサルトライフル2丁撃ちもイーストウッドがやってた。エンディングで現地から立ち去る機中で疲労困憊したメンバーのショットもそれだね。
「今度はアンタらだけでやってくれよな」
言って欲しかった(笑)







題名:ザ・スーサイド・スクワッド “極“悪党、集結
原題:THE SUICIDE SQUAD
監督:ジェームス・ガン
出演:マーゴット・ロビー、イドリス・エルバ、ジョン・シナ

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孤狼の血LEVEL2

2021年08月28日 | 邦画
日時:8月27日
映画館:八丁座




ワタシの本業の隣のシマが関わっていたり、知り合いが組員役で出ていたこともあり、製作時から何かと耳に入ってきていた「孤狼の血LEVEL2」。ウチの職場では「もう観たか」「なかなかエグイな」が毎朝の挨拶となる牧歌的な環境にあって、早々に劇場へ。

とっても暴力的な広島県、広島市と呉原市(呉市)の組織が血みどろの抗争を繰り広げた前作「孤狼の血」から3年、呉原市東署の刑事日岡(松坂桃李)の影の仕切りの元、表面上の平静を保っていた。しかし、広島市側組織の上村(鈴木亮平)が出所してきたことで様相が一変してくる・・・

いつまでたっても映画に身を入れられなかった前作とは異なり、今回は完全に娯楽作品として観ることができる。とはいえ、かなり前作のエピソードを引きずっているので、前作が未見だとかなり分かりにくいのは確か。それでなくても双方(というか三方)の組織の関係とかしっかり観てないと混乱する。

とにかくキツイ、エグイという評判を耳にするが、まあ、映画的経験豊富な年寄りにしたら「今どきの若いもんはヤワじゃのう」レベル(笑)

しっかり広島ロケされているので、どこかで見たことのある景色が続出するのだが、割と実際の場所とリンクした場所で撮影されているので「100キロ離れた設定の場所が隣の土地でロケされているじゃん!」的な違和感はあまりない。まあ、「平成3年のあの建物はなかったで」とかはあるけど。

キャスティング的には鈴木亮平と中村梅雀が輝いているのだが、前者は人懐っこそうな笑顔と狂犬の顔のギャップが想像以上。他にも前作から引き続いて嫌味な監察官役の滝藤賢一とか呉原側組織の斎藤工なんかもいい雰囲気だしている。
逆に二又一成のナレーションが今回はひどくウソくさい。背景説明とストーリー説明をごっちゃにしている。

【以下ネタばれあり】

以下、カマチョフ的見解なのだが、本作は「用心棒」(と「荒野の用心棒」)の変形バージョン、もしくはリブートではないのだろうか。
2つの組織を手玉に取ろうとする裏表のある主人公、その思惑に感づいて事態を最悪にする悪側No.2の存在。裏工作がばれてリンチにあう主人公と一大殺戮、そして対決。
そう思うとボコボコにされて血まみれで地面を這う松坂桃李なんてまんま三船敏郎かイーストウッドだし、最後のカチコミの展開なんて「荒野の用心棒」のそれにソックリだ。
一方の親分が口ばっかりで頼りなく姐さんの発言力が大きいところや、主人公を支える年寄りがいるところもの似ている。(中村梅雀=東野英治郎)
詰めた指を犬が咥えて走ろうとするし、鈴木亮平が逃げようとする手下を撃つシーンは「夕陽のガンマン」に構図的にも似ている。目つぶし拷問は「続・夕陽のガンマン」でも重要なシーンだった。
何といっても目元アップがやたら多いしね(笑)

原作の第2作につながるラストは落ち着きが悪いのだが、今度筒賀駐在所に行ってみよう。

ところで今、ウチの職場にはガチな県警機動隊OBが在籍していて、背中を警戒する呉越同舟な毎日(なんでや:笑)






題名:孤狼の血LEVEL2
監督:白石和彌
出演:松坂桃李、鈴木亮平
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JUNK HEAD

2021年06月11日 | 邦画

見ようかどうか踏ん切れなかったんだけど、「激レアさん」や周辺の評価を聞くとなかなか面白そう。
ということでスケジュールをやりくりして劇場へ。

遺伝子医療の発達で不老不死だが生殖力をなくした人類とその使役役として開発された人工生命体マリガン。両者の戦争から数千年を経て、地底社会で独自の発展を遂げ、生殖力を持つらしいマリガンを調査するために主人公の調査員が派遣される。

この世界がストップモーションアニメと独特のデザインで描かれていく。基本プロットは「宇宙空母ギャラクティカ」の逆バージョンみたいだが、オープニングの出動シーンからして音楽とともに80年代のSF映画、特にマカロニアポカリプスもののチープな雰囲気を彷彿とさせる。

工場の廃墟感あふれる地底世界には独自に発展したマリガンとクリーチャーがあふれる怪奇な世界だが、アニメのほのぼのとした動きともあいまって、どことなく間が抜けていて嫌悪感は感じさせない。
まあ、その一方で秩序があってなさそうな弱肉強食の世界なのだが。

主人公はその世界でいろいろ巻き込まれてどんどん残酷な地の底へ。この辺はダンテの「神曲」みたいだ。

地底で生活するマリガンやクリーチャーは基本、目が退化しており、その外見は「エイリアン」や「ヘルレイザー」を思い起こさせる。地下世界は「マトリックス」みたいだし、なんかこのいつかどこかで見た感覚に親しみを覚えるのだが、あとで調べたら監督は私と2歳違い。どおりで。
他にもジェットストリームアタックが出たり、北斗の拳みたいな展開があったりと80~90年代のSF映画のよく言えばオマージュ、悪くいえばパクリ的な中身が楽しい。

細部まで作り込まれた地下社会のディテールはモデラーとしても興味深く、セットのペイントだけで気が遠くなってしまう。撮影には7年を要したというが、そこを差し引いてもストップモーションアニメとして充分なクオリティだ。

特筆すべきは1500円もする本作のパンフレットで、ストーリー背景やキャラクター、スタッフ紹介はもとより、完全なメイキング本として資金調達からカメラのレンズの種類、3Dプリンターによるセットの作り方まで詳細に記載されていて、非常に参考になることが多い(何の?)

ところで、本作は三部作の第1作で残り2作も楽しみなのだが、完結までには単純計算だとあと15年はかかることになるなあ。






題名:JUNK HEAD
監督:堀 貴秀
出演:堀 貴秀
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「がまくんとかえるくん」誕生50周年記念 アーノルド・ローベル展

2021年04月27日 | 展覧会
展覧会『「がまくんとかえるくん」誕生50周年記念 アーノルド・ローベル展』
会場:ひろしま美術館



「がまくんとかえるくん」、世代によっては教科書にも取り上げられていたらしいが、ワタシはもうちょっと年寄りなので、肝心の作品をあまり知らないままに展覧会に足を運んだ。

さて、今回の展覧会、作品もさることながら作者のローベルの生き方に強くフォーカスしたキューレーターの姿勢を感じる展覧会となっていた。

まず最初にローベルの半生のポートレートが展示され、彼がどのように作家になり、そしてゲイでもあったことがさらりと触れられる。あえて年表が展示されず、まして死没していることにも触れられていないのは興味深い。
あとで考えると「歴史」ではなく「ひとりの生きた作家」として紹介しようとする意図があったのかも知れない。

展示会の全体構成として、前半は「がまくんとかえるくん」以外の作品を時系列で展示しているが、スケッチやアイディア案の他に発案やレイアウトの経緯なども詳しく触れられ、幼いころの疎外感や家族を愛する気持ちなどが作品に反映されていることがすんなりと理解できるよう構成されている。

後半は「がまくんとかえるくん」の展示となるが、ここでも展示の中で一番力が入っているのがローベルと編集者のやりとり。編集者の指摘に対してローベルがどのようにリアクションしたか、ローベルの人となりが見えてくる構成になっている。

個人的に作家の表現に至るプロセスとスポンサーや編集者の思いとのせめぎ合いや調整など大好きな話題で、「るろうに剣心」なども単行本に寄せられた作者のキャラづくりの苦悩など本編より印象に残っている。

「がまくんとかえるくん」の最終話でふたりの存在理由や生き方をキチンと整理したうえで、大団円を迎えさせるあたり、キャラクターに対するローベルの強い愛情を感じさせてじんわりとくるし、それが作品にもにじみでているから愛されているのかも知れない。

通常の絵本原画展とは一味違い、ちょっとキューレーターとの対話すら感じさせてくれた。

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