kamacci映画日記 VB-III

広島の映画館で観た映画ブログです。傾向としてイジワル型。美術展も観ています。

ナイトメア・アリー

2022年04月19日 | ★★★☆☆
日時:4月14日
映画館:イオンシネマ広島

ギレルモ・デル・トロ監督のアカデミー賞候補作。
今年は本作に「コーダ/あいのうた」「パワー・オブ・ザ・ドッグ」「ドント・ルック・アップ」「ベルファスト」とほとんどの主要作品を観ている珍しい年。(何か抜けてないかって?知りません。)

ほとんど事前情報なしで鑑賞したのだが、ダークファンタジーっぽい雰囲気がいかにもデル・トロ。

自宅を焼き払ったらしき男、スタン(ブラッドリー・クーパー)は長距離バスの行きついた先でカーニバル一座に巡り合う。そこで日雇いの仕事を得て一座に入った彼はある出し物の技術を伝授されマスターする・・・。

とここまでしか書けないのが悩ましいところのミステリー映画。
画面の作り方がいつものデル・トロらしく観終わってからでないと気付かなかったのだが、この映画、超常現象も謎の生き物も全く出てこない純粋なノワール映画なのだ。ファンタジーではないデル・トロ映画って初めてじゃないだろうか。

原作小説は未読だが、とにかく先が読めない。影のある登場人物たちの思惑が交錯し、タイトルの「悪夢小道」どおりの展開となっていく。上映時間も2時間30分と長尺だが、時間を感じさせない緊張感と展開の切り替えが素晴らしい。たぶんテレビ画面に映っていたらついつい見続けてしまうそんな感じだ。

配役としてはちょっと異色に思えるブラッドリー・クーパーの起用だが、これがなかなか魅せてくれる。つくづく芸達者な人だと思う。
他にも常連ロン・パールマンとかデビッド・ストラザーンとかトニー・コレットとかクセのある顔ぶれが意味深で良いのだが、個人的には「時をかけるおばさん」ことメアリー・ステーンバーゲンの登場がうれしかったな。70歳近くだが、相変わらずキュートだ。

今回、原作アリのノワールものということもあってか、デル・トロの「世の中に馴染めない者への優しい視線」があまり感じられなかったのは残念。こうやって並べて見ると今年は「コーダ/あいのうた」が優しさでとび抜けていた映画だと実感しますね。







題名:ナイトメア・アリー
原題:Nightmare Alley
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、トニー・コレット、デビッド・ストラザーン


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ベルファスト

2022年04月03日 | ★★★★★
日時:4月2日
映画館:バルト11



アカデミー賞の複数タイトルにノミネートされたケネス・ブラナーの自伝的映画。

一言で言うと「沁みる」

1969年、カソリックとプロテスタントが対立するアイルランドのベルファストで育つ少年バディ。大好きな家族やおじいちゃん、おばあちゃんと毎日を過ごし、学校ではかわいくて頭のいい女の子が好きな普通の男の子の生活がモノクロ映像で描かれる。

だが、北アイルランド紛争はエスカレートし、バディの周辺も穏やかでなくなってくる。(エスカレートする紛争を描いた映画が「ベルファスト71」)

1969年というとワタシの生まれた年だが、世代的にはバディと近い。映像が基本、モノクロというのも見ていて気持ちがいい。普段の生活感とか劇中登場するテレビ番組、映画にも当然親しみを覚える。テレビでは「宇宙大作戦」、映画館では「恐竜100万年」「チキチキバンバン」「リバティバランスを撃った男」と王道のセレクションなのだが、モノクロの劇中、カラー映画はカラーで登場する。単に色だけじゃなく、少年時代、新しい映画を観たとき感じる輝くようなワクワク感がものすごくいい。

バディの父親は大工でロンドンに出稼ぎに行っており、収入はちょっと苦しい。母親はバディとお兄ちゃん兄弟の子育てに奮闘している。映画ではバディの目線だけでなく、両親の生活もキチンと描いており、ブラナー監督の両親に対する感謝とか愛情も表現されている。逆に親目線で見るとウチの子にもこういった時代があったことをしみじみと懐かしんだり、もっと一緒に遊べばよかったとも思ったりする。

じいちゃん、ばあちゃんを演じるのはキアラン・ハインズとジュディ・デンチ。工作員とか諜報員をコントロールしそうな重厚な顔ぶれだが、ここではバディにいろいろ教えてくれ、話し相手になってくれる。ワタシもおじいちゃん、おばあちゃんが近くに住んでいたなあ・・・。

だが、紛争の激化にともない家族の身も安全とは言えなくなり、一家は転居も考えざる得なくなる。当事者目線で描かれる紛争の様子はアルフォンソ・キュアロンの「ROMA/ローマ」にも通じるものがあり、なかなかヒリヒリとした緊張感が漂う。
そんな中、家族みんなが巻き込まれる事件が発生し、実質、その場面が映画の見せ場となるのだが、これが西部劇の古典に家族愛を重ね合わせて、自然と涙があふれてくる。

やがて、家族にも転機が訪れ、バディ少年も成長する。

背景に北アイルランド紛争があるとは言え、親子3代の1つ1つのエピソードに親近感を覚え、映画を観終わった時より映画館を出た後の方がじんわりと泣ける映画。

ところで、舞台設定的にサラディン装甲車やサラセン装甲車、ランドローバーが見えたりするのがとても気になるねえ(笑)






題名:ベルファスト
原題:BELFAST
監督:ケネス・ブラナー
出演:ジュード・ヒル、カトリーナ・バルフマー、ジェイミー・ドーマン、キアラン・ハインズ、ジュディ・デンチ
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ザ・フォッグ/ゼイリブ

2022年02月23日 | ★★★☆☆
日時:2月12日
映画館:サロンシネマ

ジョン・カーペンター・レトロペクティブ、「ニューヨーク1997」に続く残りの2作は「ザ・フォッグ」と「ゼイリブ」。



「ザ・フォッグ」
創立100周年を迎えた港町アントニオ・ベイ。しかし、同町は金銀を積んだ船を岩礁に誘導して沈没させ、引き上げた金銀で築かれた暗い過去を持っていた。100周年式典の夜、濃霧とともに沈没船の亡霊が町に襲い掛かる。

怨霊が濃霧とともにやってくるというアイディアはカーペンターらしく素晴らしいのだが、逆に脚本があまいという点もカーペンターらしい。亡霊のターゲットが町なのか沈没事件の子孫なのかイマイチはっきりしないし、ジェイミー・リー・カーティスのキャラクター造形は強引、実の母親であるジャネット・リーは何の役なのか最後まで分からない。亡霊も元々謀殺された犠牲者なので物語全体にはっきりとした悪役がいない。

が、それを補って余りあるのが、やはり夜の雰囲気と霧の演出、そしてカーペンターの音楽だ。霧の中に立ち並ぶ亡霊のビジュアルのインパクトは素晴らしい。物語の甘さを力技で押し切ってしまう。

主人公はこのころはまだヒロインだったエイドリアン・バーボー。こうやって見ると整った顔立ちだが、この後はそのキツさを活かして悪女・猛女役で大活躍。「アルゴ」でニセ映画の銀河の魔女役で登場した時は嬉しかったなあ(笑)

評価は★★★☆☆


「ゼイリブ」
今回上映された3作の中で唯一劇場で観た作品。当時、ロディ・パイパーとキース・デイビッドの延々と続くプロレスシーンに唖然としてしまい、それ以来見ていなかったので30年ぶりの再見。

流れ者のブルーカラーの主人公が偶然手に入れたサングラスを通して見た世界は、人間を装った異星人に乗っ取られ、大衆はヤツらに搾取されていた。

とまたもやワンアイディアで突っ走るカーペンター映画。全盛期にあった夜の描写も少なく、物語も一本調子。警官に化けている異星人に殺されそうになったことから街中にいるヤツら(見た目は一般人)を射殺しまくる主人公はさすがにヤバすぎるだろう。

なのだが、あれから30年、本作で描かれた世界がまさに今現実になっている。地球の富裕者層・指導者層とヤツらは手を組んで、地球の環境を改変し、大衆はメディアによって消費を喚起され、ゆりかごから墓場まで首根っこをつかまれ、貧困層は一層貧困になり、富裕者層は一層富裕になる。
もう、今の世の中を予言したかのような話でちょっと見る目も変わったな。これから革命も起きず搾取され続けるなら、いっそ南極から飛び出した「遊星からの物体X」によって27,000時間で人類が食い尽くされる方がよっぽどマシかとも思えたり・・・。

評価は★★★☆☆
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大怪獣のあとしまつ

2022年02月20日 | ★★☆☆☆


我が家の年中行事は、誕生日でもなく結婚記念日でもなく「家族で怪獣映画を観る」ことである。

今年は「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」や「シン・ウルトラマン」も公開され、すでに怪獣が暴れまわることが予定されているのだが、本作はその後日談「怪獣を倒したら後はどうすんねん」というお話。

日本らしき某国で巨大怪獣が出現し、天からの謎の光を浴び絶命。残された巨大な死骸の処置に国を挙げての大騒ぎとなる。
所轄官庁の押し付け合いに始まり、結局、国営の第三機関である特務隊がその任務に当たる。

話そのものは政治家と現場の不毛な議論をネタにした笑いが多く、ワタシとしてはウルトラマンの「空からの贈り物」みたいに考えられる手段を次々に打ち出す大がかりなホラ話としてのドタバタを期待していた節もあるので、その辺は肩透かし。政治コメディとしてもあまり成立しているとは言えない。ちなみに怪獣の死体をインバウンド観光の目玉にと目論むが、そこを仕切るのは外務省ではなく国土交通省ですと心の中でツッコんでしまうのはやむを得ない。

西田敏行の時代がかった総理大臣役をはじめ豪華なキャスティングで、個人的には松重豊の町工場社長役が妙に説得力があったり、菊地凛子の安定した猛女ぶりに実生活の旦那を思い出したり(後で登場する:笑)
「時効警察」組も多数出ており、特に国防大臣役の岩松了と環境大臣役のふせえりが強烈な印象を残す。
こうなってくると、山田涼介と土屋太鳳の主役2人の影が薄くなってしまい、特に土屋太鳳についてはコメディエンヌっぷりも感じられない。ちょっとこの主役には弱かったかな、

でラストは某ドラマと同じ展開になるのだが、確かにここは賛否の分かれるところだろう。ワタシはスッと腹落ちしたって感じ。主人公の一言によって、この映画全体が1つの壮大なパロディだったことが分かる構成になっている。その煙の巻き方にはちょっとした基礎知識が要るので意地悪なオチでもある。

監督の笑いのセンスが好きか嫌いかという点はあるが、評価は★★☆☆☆






題名:大怪獣のあとしまつ
監督:三木聡
出演:山田涼介、土屋太鳳、西田敏行

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ニューヨーク1997

2022年02月17日 | ★★★★★
日時:2月11日
映画館:サロンシネマ
パンフレット:紙製ビデオケースを模した特別仕様1,300円。どこでも同じようなこと考えるヤツおるなあ(笑)

(マイグッズ、左から今回のビデオケース型パンフレット、初公開時パンフレット、ポストカード2種、アメリカのガチャガチャで偶然手にいれたキラキラステッカー、昨年末に出た研究本)

1980年代、多くのSF映画やアクション映画に影響を与えた作品が本作「ニューヨーク1997」と「マッドマックス2」「ブレードランナー」だったと思う。いずれもダークなディストピアな世界観が背景にあり、世の中はお先真っ暗だった。
ホラー映画がブームだった同年代にあって「ハロウィン」や「ザ・フォッグ」そして「遊星からの物体X」を監督していたジョン・カーペンターは燦然と暗かった(笑)
(ちなみにその後「ランボー2」「ロボコップ」「ターミネーター」の登場により、流行もまた一気に変容する。)

ここ10年くらいで大好きな60~70年代の映画がどんどんリバイバル上映される中で、実は映画館で未見だった本作がまさかリバイバル上映されることは夢にすら思ってなかった。しかも東京での上映からわずか1か月で広島上映!ありがとう序破急!ありがとうT部長!(ちなみに続編「エスケープ・フロム・LA」をリアルタイム鑑賞したのはサロンシネマ前のテナント、広島東映だったのも感慨深い。)

1988年、全米の犯罪発生率は400%を突破し、米国政府はマンハッタン島全島を刑務所化して武装警察USPF(United State Police Force)に警備させ受刑者を収監していた。1997年、リバティアイランド刑務所にハイジャックされた大統領専用機が墜落、行方不明になった大統領救出に元特殊部隊員で一匹狼の腕利きの犯罪者SDプリスケン、通称スネークが送り込まれる。

これらの設定、何らかの事情で孤立隔絶した環境、アウトローな一匹狼、常軌を逸したミッションと映画やコミック、ゲームで使われた実例はもはや上げないが、本作が後世に与えた影響は計りしれないと思う。

改めて観ると脚本はご都合主義で分かりにくいところはある(脚本で言えば「要塞警察」の方がよく出来ていると思う)し、低予算が目につくところもある。
がそれらの欠点をまかなって余りあるのが、スネーク・プリスケンという隻眼の主人公にクセのあるキャスティング、夜間ばかりの展開、ディストピアな空気感、そしてカーペンターによる音楽!もう、広島上映の報せを聞いてからほぼ毎日、何かしらのサントラを口ずさんでいる。人生ツライことがあってもカーペンター節(とマカロニ)で乗り切れる。ドゥン、ドゥン、ドゥン、ドゥン

今回の上映で若干残念だったのは字幕。スネーク=青野武の日本語吹き替え版がステキすぎてセリフの多くがソラで言えちゃうと、今回の字幕では文意としては正しいんだろうが、馴染めないところがあったのも事実。(「核共有」だとラストで話が通じなくなる)

評価はいろいろな思い入れもあって★★★★★。

ところで、1997年はプライベートでも重要な年で結婚した年である。ってことは今年銀婚式じゃん!!(映画で思い出す人生の節目)






題名:ニューヨーク1997
原題:Escape from New York
監督:ジョン・カーペンター
出演:カート・ラッセル、リー・バン・クリーフ、ドナルド・プレゼンス、ハリー・ディーン・スタントン、エイドリアン・バーボー、アーネスト・ボーグナイン、アイザック・ヘイズ

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355

2022年02月09日 | ★★☆☆☆
日時:2月6日
映画館:バルト11


コロンビアの犯罪カルテルが次世代型ハッキングデバイスを開発、闇ルートで販売しようとするが失敗。この情報を得たCIAは工作員(ジェシカ・チャステイン)に入手を命じるものの妨害を受け、デバイスは行方不明に。
そこから、世界各国の女性エージェントを巻き込んだデバイス争奪戦が始まる。

「RONIN」の女性版みたいな話で、女性エージェントたちの顔ぶれが豪華。(ペネロペ・クルスは実は事件に巻き込まれた女医という設定。)

なのだが、一言で言うと脚本が悪い。
主人公たちを活躍させるためにストーリーが進み、物語の上に登場人物が乗っかっていないから、あらゆることが矛盾と混乱に満ちている。
本来対立している陣営が共同戦線を組む話は007でも米ソとか米中ってあったわけだが、この映画では協力する意図が全然見えない。新世代型ハッキングデバイスを手に入れたら米中どころか、米英独間でも取り合うぞ。もっと言うと開発した当の犯罪カルテルが販売などせず、それを元手に脅迫事業をやればいいだけの話。なので、辻褄合わせのストーリーを追いかけるだけで疲れてくる。
さらにそこに「女性だから」みたいな話を入れるから余計に混乱するし、逆にこのご時世、敵をだますためのハニートラップもそんなに派手には盛り込めない。

さらにアクションを銃撃戦と格闘戦のみでカーチェイスの展開にならないから、流れも単調になっている。ところが埠頭のチェイスはリアリティと迫力のいい塩梅だし、クライマックスも悪くはない。各アクションシーンの出来はいいだけに余計にもったいなく感じる。ホント、物語がアクションしていないのが残念。

女性エージェントを演じるのはチャステイン、クルスのほか、ダイアン・クルーガー、ルピタ・ニョンゴ、ファン・ビンビンだが、無鉄砲な狂犬キャラを演じるクルーガーが一番カッコよく輝いている。
逆にファン・ビンビンの顔は不自然で苦手だなあ・・・

ロケで世界各国に行っているところはスパイ映画らしくでいいのだが、中国ロケは台北?

評価は★★☆☆☆

ところで、もうちょっと妙齢の女優で同じような映画という話で盛り上がったことがあり、そのキャスティング案はフランセス・マクドーマンド、ジュリアン・ムーア、ティルダ・スゥイントン、ヘレン・ミレン、シガニー・ウィーバー・・・で、やはりその時も若手として名前があがったのがチャステイン(笑)







題名:355
原題:The 355
監督:サイモン・キンバーグ
出演:ジェシカ・チャステイン、ダイアン・クルーガー、ペネロペ・クルス、ルピタ・ニョンゴ、ファン・ビンビン

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コーダ あいのうた

2022年02月02日 | ★★★★☆
日時:1月29日
映画館:八丁座


主人公の女の子ルビーはろうあ者の家族で唯一の健常者として家業の漁業を手伝いながら、高校に通っていた。合唱クラブに入った彼女は、個性的で厳しい音楽教師からその歌声と才能を見出され、音楽大学への進学を後押しされる。一方、家業の漁業は一大転機を迎え、そのためにはルビーが不可欠な存在だった。家族と家業か、自分の才能かの選択を迫られることになる・・・

家族や親のために子供がどこまで尽力しなくてはならないかという点はヤングケアラー問題や8050問題に通じるところがあり、今のところ幸いにも我が家には起きていないが、自分のこれからを考えるとなかなか答えは出ない。

ストーリーとしては安定の展開なので、安心して見ていられる反面、響いてくるところは少ない。何と言っても、音楽はワタシの守備範囲外なので選曲センスが分からないのが問題点なのだが。(分かったのは「I fought the law」くらい。)
とは言え、一番の理解者であるはずの家族に才能を分かってもらえない悲劇性は見ていて辛い。

気になったのは主人公が手伝うまで家族はどうやって漁業をやっていたかって点。何かしら説明があっても良かったのではないかと思う。

全編を通して「赤」がキーワードになっており、主人公の名前は赤をイメージさせるルビーとイタリア語の赤「Rosso」に通じるロッシでルビー・ロッシ。彼女の人生の転機になるシーンでは「赤シャツ」とか「赤いドレス」を着用している。彼女の情熱以外にもそれまで生活していた海(青)と対比させているのかな。なにもアカいものに過剰反応しているワケではない(笑)

ミスコンにも出た美人の母親役はマリー・マトリン。「愛は静けさのなかに」「ウォーカー」以来で久しぶりすぎて、こんな顔だった?と思わせるが、フィルモグラフィを見る限りではずっと活躍されていたみたい。

ストレートに家族愛を描いた映画なので、評価は★★★★☆

ところで、主人公たちが結構、間近で会話するシーンなんかにはものすごく違和感を覚えてしまう。コロナ禍のせいだな。






題名:コーダ あいのうた
原題:CODA
監督:シアン・ヘダー
出演:エミリア・ジョーンズ、マリー・マトリン、エウニジオ・ダーベス
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ハウス・オブ・グッチ

2022年01月23日 | ★★★★☆
日時:1月21日
映画館:サロンシネマ


リドリー・スコットが描く1996年に起きたマウリッツィオ・グッチCEO暗殺と主犯である妻パトリッィアとの愛憎の物語。

物語は1978年にイタリアで二人が知り合うところからスタートするが、同時代のイタリアでマウリィツィオと言えば、グッチではなく、マカロニ犯罪映画、ポリツィオッテスキで活躍したメルリの方だ。同時代の雰囲気がよく出ていて、パトリッィアが勤めていたトラック運送会社なぞ、いつ犯罪の舞台になるのかとそちらの方に関心が行ってしまう。(もちろんそうはならない。)

ふたりは愛し合い、一族の経済格差も乗り越えて結婚。元々、弁護士志望だったマウリィツィオもグッチブランドの会社経営に関わっていく。

狂乱の80年代に入り、グッチブランドの方針をめぐり顔もファッションも喋りもくどい面々の思惑の相違が徐々に表面化してくる。ちなみにこういった場面でカッコいいのは、何をするでもないのに黒いスーツに細身のブラックタイでブランド王侯たちの後ろでかしずいている面々。

その内紛にパトリッィアは積極的に関与していき、マウリィツィオも徐々に感化されていく。マウリィツィオを操ろうとするパトリッィアはマクベス夫人のようでもあるのだが、事態はさらに悪い方向に進んでいく。
ポスターに名前の出ている登場人物は暑苦しい圧を持つ人ばかりなのだが、パトリッィアを演じるレディ・ガガの圧力(いろんな意味で)がなかなか迫力で、ひんむいた目元ばかり思い出してしまう(笑)
だから逆に図体のデカイ男にしか見えないアダム・ドライバーが映えるし、その行動も際立つのだが。

宮廷ドラマかソープオペラのようなゴテゴテした展開なのだが、これが実話なのだからイタリア人はこわい。
面白いのは各人とも私利私欲ではなく、真面目にグッチブランド維持のために動こうとするのだが、それが全て裏目に出ていくところ。金持ちは大変だ。
そう思うとリドリー・スコット映画の登場人物って、良くも悪くも真面目なのだが持てるエネルギーの使い方を誤るキャラクターが多いような気がする。

あと、やはり素晴らしいのはそのプロダクションデザイン。ロケを含めて画面の背景への手間のかけ方、金の掛かり具合が半端でなく、ドラマへの効果絶大な吸引力を持っている。

逆に惜しむらくは顔ぶれがオールスター過ぎて、どうしても先入観や余分な情報が入ることと、セリフが英語って点。これが地味な俳優で、イタリア語と英語で会話したら、しびれるほど面白い傑作だったと思う。

そんな中、ブラックスーツのジャック・ヒューストンがマカロニな悪役感を出していていい感じです。

ところで、見終わったらいつものマカロニ病が再発して、ポリツィオッテスキドキュメンタリー「ユーロクライム! 70年代イタリア犯罪アクション映画の世界」を再見しているワタシは病根が根深い。






題名:ハウス・オブ・グッチ
原題:House of Gucci
監督:リドリー・スコット
出演:レディ・ガガ、アダム・ドライバー、ジェレミー・アイアンズ、アルパチーノ、ジャレッド・レト、サルマ・ハエック


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クライ・マッチョ

2022年01月22日 | ★★★★☆
日時:1月19日
映画館:バルト11


まず、ストレートな感想から言うと「泣いた、最後に泣いた」。

じゃあ、「泣ける映画」なのかというと、改めて考えるとそうではない。
その理由は追々。

さて、物語から。
1980年、若いころロデオで鳴らした主人公マイク・マイロだったが、事故を契機に引退し、齢を重ねていた。そんな折、昔から世話になっているテキサスの牧場主から「離婚して本国に帰ったメキシコ人嫁が連れて帰った一人息子ラフェを自分のところに連れて帰ってこい」と依頼される。
メキシコに入国したマイロはラフェをすんなり発見し、誘拐まがいにテキサスに連れて帰る旅を始める・・・

イーストウッドでよく見るロードムービーものだ。砂漠の荒れた道を砂埃上げながら走るさまも美しい。
もちろん、連れて帰るのを阻止すべくギャングやマフィア、警官が襲い掛かってきて、いたるところで銃撃戦・・・にはならなんだ。
それにここにはジェオフリー・ルイスもベン・ジョンソンもハリー・ディーン・スタントンもいない。この景色に彼らがいないなんて悲しい。

途中、車を盗まれ、さらに官憲から身をひそめるため、片田舎の町で過ごすふたり。そこで野生馬の調教を手伝いながら、小食堂の家族と絆を深めていくが、やがて、テキサスに向け出発する時がやって来る・・・。

正直なところ、脚本はご都合主義的で各人のキャラクターも掘り下げが甘い。
imdbの評価では5.7とえらく低い(ワタシは7.0代を予想したが)のだが、単体の映画として観たらそうかもしれない。

【以下、ネタばれあり】
先に「泣いた」と書いたのは、やはり「イーストウッドの映画」として観ているからなんだな。
これまでイーストウッドの演じる主人公はカッコよくて、バカな男どもには年代に関わらず憧れだったが、実際には早撃ちのガンマンや暴力的な刑事になれるわけもなく、ずっと遠い存在だった。
ところが、しょぼくれて使いっぱしりでもかくしゃくとしたジジイなら、ようやく何とか真似できそうかと身近に思えてくる。
それでも91歳になってもあんなカッコいい色気を漂わせるなんてさすがだ。

イーストウッド作品は大概、死の匂いがプンプンしてて、最後は誰がツライ思いをするか死なないと終わらない。本作も最後にイーストウッドが撃ち殺されるか、国境を越えられないか、逮捕でもされるかと内心ひやひやして観ていたのだが、これがなんと誰も死なない。しかもミッションクリア。
さらに途中で知り合った小食堂の女主人とも仲良くなって、そこを終の棲家にする。たぶん年齢差30歳!
イーストウッド映画にしたら、信じられないようなハッピーエンド。

イーストウッド映画はたいがい辛くて2回観たいとは思わないのだが、この映画は何度でも観れる!(もちろんマカロニのドル3部作は全く別の話。)
血と暴力の歴史をたどってきた男が静かな晩節を迎えたかと思うと、もう胸が熱くて熱くて泣かずにはいられなかった。
しみじみ…

ところで、この映画製作の話は元々、40年くらい前からあったらしい。そう思うと主人公は70歳くらいのイメージではないかと思う。
90歳のイーストウッドが演じるなんてまさに「イーストウッドのイーストウッドによるイーストウッドのための映画」でしかないのだが、これを普通に映画化されていたら、見過ごしていただろうな。






題名:クライ・マッチョ
原題:Cry Macho
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド、ドワイト・ヨーカム、エデュアルド・ミネット、ナタリア・トラヴェン
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2021年ベスト映画

2022年01月09日 | 年間ベスト3
今年もコロナ禍ということもあり、昨年に引き続いて、ちょっと本数が少なかったです。
劇場側もスケジュールが確定せず、電撃的に公開された作品も多く。振り回された感はありますね。

そんな中、今年のベスト映画です。

ノマドランド
ハッピーな映画じゃないですが、フランセス・マクドーマンドの魅力と日々生きる人の素晴らしさ、素敵なロケ景色とかなりワタシ好みの作品でした。

007 ノー・タイム・トゥ・ダイ
恐らく一生のうちで一番予告編を観た映画(笑)
そして今年見た中で一番メジャーな映画(笑)
新旧のテイストを巧みに融合させた点で、007好きとしては高評価です。
次作のボンド登場とオープニングをどう捌くのか、今から楽しみです。

ONODA 一万夜を越えて
太平洋戦争後30年間、ルパング島に潜伏していた日本軍の小野田少尉を描いた映画。
フランス人監督であるにも関わらず、日本的なタッチで、それでいて公平な視線で描いた作品。

「グッドフェローズ」
リアルタイムで鑑賞できたにも関わらず、見逃していた90年代傑作ギャング映画。朝十時からの映画祭でようやくスクリーンで観ることが出来ました。
何度観ても面白い!

この他、「カラミティー」や「JUNK HEAD」も良かったです。

ワースト映画
残念ながら今年はハズレ映画もなかったです。残念な作品もありましたが、配給スケジュールに無理やり押し込まれたようなところもあったし。

昨年に引き続いて配信で珍しい作品も多々観ることができましたが、やはりスクリーンで見るもんですね。
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