もう多くの方がお気づきかと思うが、
この間のお出かけ、昼と夜とで帯締めを替えていた。
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夜締めたのは、着物好きなら誰でも知っているといって過言ではない
I之端の有名店のもの。
実は、この帯締めにはちょっぴり苦いエピソードがある。
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「これ一本持っていると、いろいろ使えて便利よ」と、
着物の集まりでしばしばご一緒するY姐さんが薦めてくれたこのタイプ。
色は黒×金。
私も欲しいなあと思い、扱いのある日本橋のデパートへ発注した。
8月末のことだ。
他の色と金との組み合わせはあったが、黒は在庫がなかったので、
組み上がるまで一カ月待った。
そして9月末に電話が…。
「あの、それがですね」とご担当は語尾を伸ばし気味に切り出した。
「このシリーズ、本来は黒と金の割合が3:1※なんですけれども…」
※と言っていたが、現物を見る限りでは2強:1のようだ。
「できてきたものを確認したらですね、1:1になっているんです」
えっ、いったいいち!?
「なんかですね、こう、大きな矢羽根みたいな感じになっているんですよ」
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(これは正しいものですが、これで1:1がどうなるか想像できるでしょうか。
付記:これで、金の幅が約1cmなのですが、それが2cm強に広がるというイメージです)
もちろん組み直しさせますけれどね、また少々お時間をいただくかと…。
ただ、あの…できてきたものもですね、これはこれでいいかなという出来でしてね。
この言葉を聞いたとき、私の中で、
(それが気に入れば、一点物が手に入るかも)という、
いやらしい考えが首をもたげたのは事実だ。
だから一度は、「では、数日後にちょうどそちら方面に行く機会がありますので、
お立ち寄りします」と言い、電話を切ったけれど…。
10分くらいしたら、だんだん腹が立ってきた。
そもそも職人気質の私、
「注文とは違うものが納品された」ということに対して、
他の人より厳しい受取り方をする傾向がある。
シリーズ名も、型も決まっているものなのに、なぜ?
昼休み明けを待って、百貨店に電話し、
やはり注文通りのものをつくって欲しいこと、
無理は言わないがメーカーのミスなのでできるだけ急いで欲しいこと、
今回は少なからず不愉快な思いをしていること、
を伝えた。
(こういうことでストレスを溜めないようにするには、感じたことを素直に、
ただし感情的にならず、相手に伝えることが大切だ)
そしてさらに2週間がたち、ようやく望みのものが手に入ったというわけだ。
「すみません」百貨店の方は恐縮していたが、私の方にはすでにわだかまりなどない。
直後はカッカしていたが、人生を揺るがすような出来事でない限りは
伝えるべきことを伝えれば1日2日で気にならなくなるものだ。
「ちなみにですね…」ご担当が見せてくれた「レア物」は、
…確かに金の分量が多く、私には活躍の機会が少なそうだが、
想像したほどギラギラしておらず、確かに「これはこれでアリ」だった。
今ならもしかしたらまだ、売り場の奥の方で、縁を求め
「レア物」がじっと待っているかも知れません……。