神奈川絵美の「えみごのみ」

二人は夜のボートのよう-エリザベート20周年コンサート-

(前回の続き)


ホールで撮っていただいた一枚&生地のアップ(by Yさん

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さて、今回観たエリザベートは「コンサート版」とのことで、
浅学な私は、それぞれ役の衣裳を着たキャストが、物語に沿って歌を披露するだけ……
と思っていたら、とんでもなかった。
本編よりはシンプルだけど、セットもあるし、ダンスや台詞の一部のやりとりなど
演出もしっかりしていて、
ちょうど2年前に観た東宝版の本編@帝劇よりも、大きな感動を得た。


……だって、その回は初心者の私でさえ、日本のミュージカルの将来を憂えるような
出来映えに思えたのだもの。ブログに何一つ感想を書かなかったのはそのせい。


いや、一つだけ書いた。  それは……

トート様。


山口祐一郎さんのトート(写真上段 右から2番目)は中性的な雰囲気が
はまっていて、私は(ジ・アルフィーの高見沢さんみたい)と思ったものだった。


そのトートがジ・アルフィーなら


今回のマテ・カマラスによるトート(写真2段目 左から2番目)は
ブリティッシュ・ロック歌手だ。

微妙に演歌チックな、少しこねたような歌い回しが印象的だった。
(あくまで初心者の感想です)
エリザベート役のマヤ・ハクフォートが比較的大柄だったので、
山口さんのときに感じた「抗えないほど影響力の強い大魔王っぽい存在」というよりは
「振り払えど決して消えない、心の闇に棲みつく小悪魔っぽい存在」に思えた。
もしかしたら、その方がオリジナルが目指した姿に近いのかも知れない、とも。



マヤさんは、このコンサートを以て2003年から演じてきたエリザベートを
「卒業」するそう。
客席のすみずみまで魅了する、力強い伸びのある声、堂々とした姿に、
私もすっかり惹きこまれた。
一幕目(前半)のラストで、舞台中央に大きな額縁があらわれ、
エリザベートがこの写真(ホフブルク宮殿の肖像画)と同じポーズをとるのだが、
まさに「栄光(この後凋落する)」の象徴然と輝き、その迫力に圧倒された。



話の筋としては、ミュージカル部の名誉総裁Sさんのブログを読んで
確かに、と思ったのだが、
皇太子ルドルフ(エリザベートの息子)が自死に至る経緯は、何となく
他のシーンよりも“端折られた感”が強かった。その少し前のシーンで
「母親同様、ハンガリーに肩入れして!」と批判される台詞だけが
フックになったような(まあ、あと「HASS!」の歌と)。

でも、ルドルフを演じたルカス・ぺルマンはイケメンだし、私にはとても心地よい
薄いネルの布を一枚重ねたかのような、ソフトで甘い歌声。
ほかのキャストもさすがのクオリティで、大満足でした。


もっとも心に残った歌は、こちら。



歳を重ねたエリザベートと夫のフランツ・ヨーゼフが
夜の海辺で久しぶりに再会し、
-私たちは夜を漂う2隻のボート。
         それぞれの目的があり、それぞれの荷物がある-

と、永遠のすれ違いを歌う「夜のボート」(Boote in der Nacht)。


……そうだよね……
例えどんなにお互い思いあっていたとしても、結婚していても、
二人の体、二人の魂が別個に存在する限り、二人の思いがぴったり重なり同一に
なることは決してないんだよね。

……という感想を私は持ちましたが、みなさんはいかがでしょうか。


※「エリザベート」のあらすじはコチラ(ウィキペディアのページ)


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-おまけ-

ヒカリエ7F「茶寮 伊勢藤次郎」のあんみつ。
フルーツが瑞々しくて美味しかったです!

コメント一覧

神奈川絵美
Junさんへ
初めまして 拙ブログにご訪問くださいまして
ありがとうございます。

私は大学時代にドイツ語を専攻していた関係で
こうしたドイツ語のミュージカルは言語的にも
哲学的にも親近感を持っています。
エリザベートの「夜のボート」は、
ゆったりしたテンポゆえ、
本当に舟を漕いでしまうオーディエンスも
いるそう(笑)ですが、
私はこのミュージカルの中では一番好きな歌です。
歌詞も、奥深いものがありますよね
Jun
http://doux-et-passionne-j3.blog.so-net.ne.jp/
初めまして。

エリザベート、素敵なミュージカルですよね。
そして、リーヴァイさん作曲の曲が本当に素晴らしいですよね。

「夜のボート」、エリザベートの中で一番好きで思い入れのある曲なので、動画のアップ、嬉しかったです。
素晴らしい演奏でした。
有難うございました。
神奈川絵美
straycatさんへ
>そのシーンが日本版にはあったのですよ
そうでしたよね! 私も書きながら、確か…と思い返してていました

そうそう、衣装や、もちろん音楽など、いろんな視点から楽しめるのも舞台芸術の良いところですよね。
日本版のトートダンサーズとか(笑)。
ともかく、ルカス・ぺルマンがカッコ良かった、というのが、一つ大きな収穫でした
straycat
絵美さま♪

マタマタしつこくてスミマセン

>時代の変化を父であるフランツ・ヨーゼフに進言したけれど聞き入れられず、対立
そうそう、そのシーンが日本版にはあったのですよ。ウィーン版もフランツのセリフの中にちょこっと出てきましたが(新聞に他人の名前で批判記事を書いたとか何とか)。
その後、活動家と一緒に捕まるシーンも日本版にはありました(ただし、そこは創作と思いますが)

でもそんな面倒なことは考えずに、夫婦や親子間、嫁姑の問題であるとか、シシィの自己実現の挫折とか、後はトート萌え~、☆〇さん萌え~(実際、私もそこからでしたし)であるとか、そんな視線で観ても十分楽しめるんですね。そこがこのミュージカルの懐の深いところと思います。
神奈川絵美
すみません…straycatさんへ
よく考えたら、父と意見を異にしたんでしたよね。
であれば、時代の変化を父であるフランツ・ヨーゼフに進言したけれど聞き入れられず、対立が深まり…という筋でしょうか。見当違いだったらごめんなさい~。

おっしゃる通り、ルドルフは終始、親の愛情を受けられず孤独でしたね。それゆえ、トートと親密?になるところは違和感なかったです。
神奈川絵美
straycatさんへ
こんにちは またまた丁寧なご解説をありがとうございます

私、歴史は殆ど忘れているのですが、ウィーンって昔から民族のるつぼみたいな場所でしたよね。ゲルマンもスラブも、ユダヤもいて、国家というよりは市民が力を持っていたような…。
でも、実在のフランツ・ヨーゼフが在位していたころはその何でもウエルカムな体制への反動が起こっていて、民族主義的、排他的な気運が高まっていたのでしょうね。
そこにルドルフを絡めるとすれば、そういう時代の流れに乗れず、周囲から反感を買った…という筋書きなのかな、と想像しながら観ていました。(ナンテ、すごい勘違いだったらごめんなさい)

たぶん、宗教的な軋轢もこの時代、あったのだと思います。でも宗教まで絡めちゃうと一般的には、日本人にはわかりにくいですよね。

まあいずれにしても、HASSのシーンは恐かったです。ナチスとは関係ないといっても、史実からすればこの数十年後にはヒトラーが台頭していますものね。あの歌の後、拍手がまばらだったのは、日本人にとってもやはり緊張感の高いシーンだったからでは、と思っています。
straycat
絵美さん♪

HASSとマイヤーリンク(ルドルフの自殺)の関係ですが、あれを自国の歴史として時代背景を知った上で観るのと、何も知らない日本人が観るのとでは理解度も異なってくると思うのですよね。もしかしたらウィーンの人達はあれで十分理解できるのかも。私もHASSはナチスかなんか?と勘違いして、時代が違うよねぇ?なんて呟いてたら、詳しい人があれはドイツ民族主義者ですよと教えてくださったんです(苦笑)日本版でもそうですから、あの端折ったウィーン版では特に初めての人などには分かりづらいかなと・・。でも私はシシィが髪をとかしながらルドルフの告白を聞くシーン、あのウィーン版は胸が苦しくなるほどルドルフの孤独が伝わってきて心が痛い。・・なんて余計な事を長々と書き込んでしまって、申し訳ありません。これに懲りずにまたお付き合いくださいね~
神奈川絵美
Tomokoさんへ
こんにちは
言われてみれば、この着物ビタミンカラーですねぇ。白がかかっている分、ソフトにはなっていますが…。
これは相当昔の着尺のようなんですが、確かに今はあまり見ない色調ですね。

夜のボート、救いがないほど悲しいすれ違いの歌なんですが、ゆったりとしたメロディーが心を落ち着かせてくれるようですよね。
神奈川絵美
朋百香さんへ
こんにちは
エリザベートでは、二人は同じ舟あるいは別の舟でもぴったり並んで進んでいるつもり(少なくともフランツ・ヨーゼフは)だったのに、今はもうてんでばらばらになってしまった、と思わせるシーンですが、現実にはくっついたり離れたりしながらも、だんだん舵の取り方が似てきて、並走するようになることの方が多いのでしょうね

歌詞を追っていくと次のようなくだりがあり
-一度でも、私の目を通して(物事を)見ることができれば
あなたもこんな長く誤解することもないでしょうに-
これも二人が別個の存在である限り、不可能ですよね。
こんなこと望まなくても、愛があれば多くの場合、
何となくでも寄り添えるようになるものだと思いますけどね…。
Tomoko
こんにちは。こういう華のある色味、絵美さんお似合いです。私、街中を歩いていても、こんな綺麗な色の小紋、もっともっと着る人が増えないかなあ~とこの数年強く願っています。だって、見ている側の目にいっぱいビタミンが来るんですから。
(そういう自分は滅多なことでは着ないんですが、自分のことは棚の上)

「夜のボート」というのですか。ゆうべお風呂あがりにiPhoneでこれを訊きながらしばしまったりしました。夜に聞くにはちょうどいい音楽でした。
朋百香
http://www.tomoko-358.com
絵美さま
「夜のボート」正に!です。
昔はいろいろ結婚に理想もありましたが、今は
そんなものなのだろう、と。つまり「夜のボート」
です。でも、若い頃は河のこっち側と向こう岸
だったのが、今は一応、それぞれボートに乗って
同じ河の流れに乗ってお互いが見える位置にいる
感じになったかな(笑)
この距離感、意外と好きだな~。
神奈川絵美
straycatさんへ
おおおー、奥深い解説、ありがとうございます
なるほど、トートの設定自体が違うのですね。確かにマテは「閣下」よりは「王子」ですよね。

>文字通り「ボートを漕ぐ」人も多い
あはは、そうなんですね
静かなメロディーに哲学的な詞、さもありなんです。
私は、マインドがゲルマン系なので、こういうシーンは大好き
メインテーマのWir sind wie zwei Booten in der Nacht~の旋律はとても物悲しく、そして美しいですよね。

>せめて同じボートに乗って
裏を返せば、「夫婦はこうあるべき」というか「愛していれば誰でも持つ自然な思い」をシシィは理解できなかった、ということで、共に痛々しいですね。

ホントは、、オーケストラのこととか、最後の背すじがぞわっとした不協和音のことも本文に書きたかったのですが、
とても長くなってしまいそうだったので…。
もう少しオーディエンスとして修業を積んでから、たくさん書こうと思います
神奈川絵美
U1さんへ
こんにちは
着物って、季節感を表せるところや、歌舞伎の演目に因むなどのストーリーを表現できる、というのも魅力ですよね。
U1さんはお着物をお召しになるのでしょうか、ぜひぜひおススメです
starycat
絵美さま♪

そういえば、絵美さんもyukikoさんも観劇後に盛んに「高見沢さん」って仰っていましたものね(笑)
トートに限らず、シシィも演出や役者によって随分印象が違うようです。トートは日本版では「黄泉の帝王トート閣下」ですが、このウィーン版は「黒い王子」でしたものね。実際マテは5年前から比べても、全然声が出ていません。

絵美さんは「夜のボート」を一番印象的なシーンに挙げられていますが、さすがという気がします。ここは終盤という事もあり、日本版では文字通り「ボートを漕ぐ」人も多いです(爆)歌と抑えた演技で観客をひっぱる難易度の高いシーンですから、演じる人によっては退屈な事になってしまうんです。

夫婦って例え違う方向を見ていても、せめて同じボートに乗って同じ目的地を目指そうよと思いますよね、時々喧嘩なんかもしながら(笑)。それができないという事をフランツは理解できない、それがハプスブルク家の当主というのが悲劇であり、痛々しいです。
U1
おはようございます。
着物って柄や色に日本人の感性、美意識が反映されて
いるんですね。
文化ですね。
このごろ新聞などで着物の記事に目がいくようになりました。
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