後悔

今年に入ってから、さいとーは
週末になると日帰りで温泉めぐりを
していた。これも「いらんお金を残して
おきたくない」と思っていたからだ。
２年くらい前に、あおきさんに頼まれて
ＪＡのキャンペーン中の掛け捨て傷害保険に
入った。安かったのでうちの従業員全員と
さいとーの名前も書いた。
すっかり忘れていたら、あおきさんが
さいとーの保険が出たと持ってきてくれた。
これがなんと、ちゃんとした入院費のほかに
もっぺん２人で函館へ行けるくらいの治療費、
さいとーは「これはしょーさんにあげる」と
わけわからんことを言うので、
そんならこれで「瑞風」に乗って、
九州温泉めぐりを最後にやろうやと決めた。
間にあいませんでした(T_T)

私が５月３日の法要でバタバタしていて
終わったら、と思っていたけど「瑞風」は
半年先まで予約満杯、ゴールデンウィークが
すんだ頃、だんだんさいとーは動けなくなった。
介護保険の申請をして「要介護１」がついたので
週に２回、ヘルパーさんが来てくれることになり、
車いすマークの所に停めていいですよステッカーも
貰えた。満車の駐車場で、入り口に近い
「身障者用スペース」に停められるのは
ありがたかった。
６月中旬に「ぽん多」にゴハンを食べに
いったとき、さいとーはほとんど何も
食べられなかった。ママがさいとーの
喉を通るようにスープとゼリー状の寄せものを
作ってくれたけど、イスに座布団を敷いて
横になって「食べられんから、しょーさん
全部食べて」と言った。
結局これが最後の「ぽん多」になった。
ぽん多ママが思いつめた顔で
「さいとーさん、うちまで来るのもうムリだ、
しょーこさんちで、さよならパーティやろう、
私、なにか作って持っていくから、さいとーさん
寝転がってていいから」と言った。
日曜日の夜にやろうねと言いながら
間にあいませんでした(T_T)

６月も下旬になると、毎朝おやぢが
「ご用きき」の電話をして
「今日のご用は ? どこか行くとこあるかー」と
聞いていた。それも「今日は病院行く日」と
言われて迎えに行くと「しんどいから行かない」と
言われる日々だった。痛みが極限だったと思う。
入院したら痛みはなくなるけど強力モルヒネの
おかげで意識は朦朧となる。
幻覚が出るくらいの状態で寝てるか
痛みを我慢して家にいるかの２択。
７月２日、さいとーは自分で救急車を呼んで
入院した。
午後、知らない番号から電話がかかってきて
「しょーさん、さいとーです、入院しました、
今からお母さんと叔父さんがアパートのカギを
貰いに行くので渡してやって」
これだけしゃべるのに５分くらいかかった。
すでにロレツが回らなくて、何度も
「え? え? 」と聞き返して急いで外に出て
待っていた。
これが最後の会話になりました。

入院して２～３日は意識もあった。
でも自分で電話したりメール打ったりは
もう出来ないから来てくれるほうが
うれしいという伝言がナースさんから
あった。
みんながお見舞いに行ってくれた。
さいとー、これで良かったのか? ほんとに?
「よかったんよ」というさいとーの声が
聞こえる。けど、後悔だらけの日は
しばらく続きそうだ。