アルバム『Tapestry〜つづれおり』は、キャロル・キングが窓辺に坐り、
その前に猫がこちらを向いている写真がジャケットになっている。
よく見ると、彼女は編みかけのタペストリーを持っている。
これがアルバムのタイトルだ。
レコーディング中、ずっと彼女はこの編み物をしていたそうだ。
そして完成したものをレコーディング・ディレクターにプレゼントした。
ぼくも以前、このLPをある女の子の誕生日にプレゼントした。
もう50年近く前の話、つまり高校生のころだった。
マセた嫌なガキだ。
付き合っていたわけでもない。片思いだったのだ。
誕生日の朝、彼女の家の玄関先にこのアルバムを置いてくるという、
これまたキザというか、鼻持ちならない方法だった。
いま思い出しても顔が自然発火する思いだ。
このアルバムに収められている歌はいい歌が多く、
アルバムは実に長い期間、アメリカのヒットチャートに留まり続けていた。
完成度、というより、歌のすばらしさがこのアルバムには詰まっている。
「きみの友達」や「Will You Love Me Tomorrow?」「So Far Away」
それに「It's Too Late」といった歌は、その後何度もラジオから流れたし、
ライヴハウスで彼女の歌をうたう日本の女性シンガーを見た。
「みんなキャロル・キングの歌が好きなんだなー」
聴きながら、一緒に歌える自分がいた。
ところでぼくは好きなあの娘にこのアルバムをプレゼントしたと書いたが、
「では自分は持っていたのか?」
といえば、持っていなかった。カセットにダビングもしなかった。
高校生当時、家のステレオには録音装置が付属されていなかったのだ。
結局このアルバムをもう一度手に入れたのは19歳になってからだった。
大学に入って、一乗寺の学生アパートに住むようになり、
そこに暮らす大学生や、近所の先輩と親しくなって分かったのだが、
多くの学生がこのアルバムを持っていた。
ある日、山形県出身の先輩が「やるよ」といってLPを差し出した。
「この『Tapestry』は、いいですね」
そんなことを何度も口走っていたのだろう。
卒業を間近に控えた先輩は、故郷へ帰る前に整理していたのだと思う。
〔うるさい後輩にくれてやれ〕……そんなふうに思ったに違いない。
しかしぼくはその当時、ステレオを持っていなかった。
つまりもらったアルバムを聴くことができなかったのだ。
だが、嬉しそうに受け取った。『Tapestry』が今も本棚の上にある。
ぼくが好きな子にプレゼントした『Tapestry』を、
彼女は今でも聴いているだろうか。
レコードだからもう聴くことなどないだろうなあ。
CDを買い直しているだろうか。
そこまでの思い入れなどないかも知れない。
だけど、今でもときどき思い出して、
キャロル・キングを聴いていてほしいと思う。
So far away…
Doesn't anybody stay in one place anymore?
It would be so fine to see your face at my door.
Doesn't help to know you're just time away.