かつて銀昆で…

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』冬の映画

2025-02-15 16:21:58 | お勉強
ペドロ・アルモドバル・カバジェロの新しい映画『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』は、余命いくばくもない戦場記者の女性(ティルダ・スウィントン)がその死の時を友人に看取られたいと願い、一人の同世代小説家(ジュリアン・ムーア)がそれに呼応し、ニューヨークからウッドストックの貸家に移り最期を迎えるというストーリーである。

その展開の間にいくつもの深掘りされる寓話やエピソード、引用がほどこされ、深い内容の物語になっている。

家族ではなく同性の友人との結びつきが印象的で、彼女たちの周囲のモノ、衣裳の色彩が実にカラフルで美しい。しかしそれらを覆い隠すように雪が降り続ける。そして、ジョイスの短編「死せる人々」からの一文が象徴的に引用される。

「丘の上の寂しい墓地の隅々にも降っている――ゆがんだ十字架や墓石の上に、小さな門の槍先に、荒れはてた荊棘に、雪は吹きよせられて厚く積もっている。」

この映画を紹介してくれたTさんの評ではこの文章は三好達治の詩である「太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。」この短詩を連想させるというが、まさにその通りだと思う。

タイトルの「ネクスト・ドア」とは二人の女性のそれぞれの部屋の間にあるドアで、朝起きてドアが閉まっていたらそれはみずから死を遂げたことを意味する合図。この戦場記者は、薬剤の力で死ぬのであり、明るい黄色の衣裳を身につけ紅を引いて眠るように永眠する。そして、それを見つける小説家は、母の死の報を聴いて訪れる娘を迎える。娘を、母と同じティルダ・スウィントンが演じている。

ペドロ・アルモドバル監督の作品はこれが3作目で、かなり以前に『トーク・トゥ・ハー』を、しばらくしてから『ボルベール〈帰郷〉』を観たのだが仔細は忘れている。『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』はいい映画だった。