*今回は、2012年に別んトコで書いていたブログに加筆・修正したモノをお送りします。
現実では忌み嫌われているのに、なぜかエンターテイメント界では不動の人気を確立しているのが、やくざ映画です。
私も結構好きでして、【任侠モノ】も【実録モノ】も、下手な大阪弁が飛び交う【極妻モノ】も観ております。
ちなみに、翔兄貴や力兄貴が大暴れした、Vシネモノは観てません。
だって、恥ずかしいから。
さて、1983年に【任侠モノ】でも【実録モノ】でもない、やくざ映画が封切られました。
その名は『竜二』。
金子正次という、小劇団上がりの無名俳優が主演・脚本を担当した自主映画です。
配給は東映の子会社なので、一応東映のやくざ映画というくくりにはなりますが、トーンとしては『屈折した青春ATG』といった趣き。
内容は、金子正次演ずるやくざ・花城竜二が稼業から足を洗い、堅気になり、やがてふたたび稼業に戻ってしまうというものです。
だんびら片手に敵対組織にカチ込みをかけるわけでもなし、進退窮まり拳銃を自身の喉に突っ込むわけでもなし、派手な暴力シーンがあるでもなし、ただ淡々と、しかしながら異様に血の通ったセリフで、16歳の僕を魅了しました。
非常に評価の高いこの作品ですが、金子正次や他の出演者の芝居も、決して上手いとは思えませんし、先程も触れました通り、起伏のあるストーリーでもありません。
やはり、この作品が封切られた約一週間後、金子正次が癌により他界したことが、『竜二』を伝説化させた本当の理由でありましょう。
金子正次をバックアップし続けた松田優作も、奇しくも6年後、金子正次と同じ命日にやはり癌で他界したという奇妙な一致も、伝説化に拍車をかけたと思えます。
映画『竜二』。無名俳優が自身の全てを賭し、文字通り命を削り、創り上げたこのやくざ映画は決して色褪せることはないでしょう。
それでは、竜二が稼業から足を洗う際に流れた口上を。
花の都に憧れて、飛んで来ました一羽鳥
縮緬三尺ぱらりと散って、花の都は大東京です
金波・銀波のネオンの下で、男ばかりがヤクザでもありません、女ばかりが花でもありません
六尺足らずの五尺の身体
今日もゴロゴロ明日もゴロゴロ、ゴロ寝彷徨うわたくしにもたった一人のガキが居ました
そのガキも今は無情に離れ離れ、一人淋しくメリケンアパ-ト暮らしよ
今日も降りますドスの雨、刺せば監獄刺されば地獄
わたくしは本日ここに力尽き引退致しますがヤクザモンは永遠に不滅です
パクリ王・長渕剛が真似たこの口上自体、元ネタは『やくざ小唄』です。
ホケキョと出ました渡り鳥
縮緬三尺ぱらりと散って、花のお江戸は大東京
ネオン瞬く東京の屋根の下、白粉つけた紅つけた
女ばかりが花じゃねえ、やくざばかりが男じゃねえ
今日もゴロ明日もゴロ、ゴロゴロに彷徨うおいらにも、たった一つの恋があった
今じゃ厭なズベ公に見初められ、どこで歌うかおいらの歌をやくざ小唄が身に染みらあな
やくざなるなら堅気になれと、可愛いあの子が泣いて言う
泣いたからとて堅気にゃなれぬ、義理も人情も意地もある
やくざ渡世の裏道ゆけば、今日も降る降るドスの雨
刺せば監獄刺されりゃ地獄、それを承知のやくざ道
『無礼とは、強者を真似した弱者の態度である』エリック・ホッファー(米国の社会哲学者・1902~1983)
2002年には、金子正次の半生を描いた【竜二Forever】が公開されました。
金子正次役は高橋克典。
なかなか似てました。
松田優作役は高杉亘。
こっちは激似。
ちなみに、【竜二Forever】での松田優作は【羽黒大介】という名前なのですが、この【羽黒】は松田優作初出演映画である【狼の紋章】から採った様です。
いやぁ、又野誠治より似てましたね。
『金銭欲もあまりないしね。もっともそれがあったら、こんな芝居の世界にはおそらく居なかったろうしね』金子正次(ニッポンの脚本家/俳優・1949~1983)
過去の記事。
松田優作の巻。