私は地球で楽しく遊ぶために生きている

心はいつも鳥のように大空を飛び 空に吹く風のようにどこまでも自由に

さそり座の愛~占い刑事の推理~第9章

2012-11-04 16:30:25 | ミステリー恋愛小説
占い刑事の推理3

麻生は農薬の名称をメモして外に出た。
道の左右には広大な田んぼが実り秋を迎えようとしている稲穂が頭を垂れている。
穏やかな風が麻生の回りでやさしく吹いている。
のどかな田園風景を歩いていると、日々暮らしている、
喧噪と煌びやかな光と音楽、そして最先端への飽く追及を求める都会に
疲労困憊していると麻生はつくづく感じる。
ひとりで農作業をしている中年の女性に声をかけた。
「こんにちは」
「はい?」丸顔の邪気のない表情をしている。
「今年は豊作ですか?」
気のよさそうな中年の女性は嬉しそうに話し出した。
「そうだよ、うちの米を食べたら他のなんて食べられないよ」
人懐こい、話好きな女性のようだ。
「海野さんは、今ひとり暮らしなんですか?」
麻生は海野の家の方向を指差した。
「えっ、ああ海野のお婆さん?うん、ひとり暮らしだよ」
「そうですか。ひとりで大きな家に住んでいたら寂しいでしょうね」
「寂しいし、ずっと苦労しっぱなしだよ。娘のことや、孫のことでね」
「孫のことで?」
「あの頃はその噂話ばっかりだった」
「あの頃って、何かあったのですか?」
「もう時効だから話してもいいよね。この町始まって以来の事件で凄かった。
孫娘が父親のいない子供を妊娠してしまってここで出産したんだよ。それもまだ17歳で」
「えっ!父親がいないって中絶はしなかったのですか?」
「既に、7ヵ月が過ぎて中絶出来なかったのよ。
雪子ちゃんには死産だと言ったけど、ほんとは秘密で、生まれた子供を里子に出した。
でもお婆さんが、ひた隠しにしてもこんな狭い地域だものすぐに広まってしまって、
事件も娯楽もない狭い土地だからね。
それが、今年の夏に10数年ぶりに、雪子ちゃんが遊びに来たってお婆さん大喜びだったよ」
「それは、いつ頃でしたか?」
「確かお盆休みが終わった頃かな。」
麻生は中年女性に礼を言いその場を後にした。
雪子がこの土地に引っ越した理由は妊娠だったのだ。
そして生まれた子供は、里子に出した。しかし雪子はその事実を知らない。
駅までの距離を歩きながら、今までの雪子の行動を考えた。
お盆の頃に、祖母に会いに来た?いや、違う、目的は他にあったはず。
雪子は劇薬が欲しかったのだ。倉庫の中の使用していない農薬の種類を探しに来たのだ。
この劇薬で孝雄を殺せると。
しかし、麻生はまた悩む。
坂崎孝雄を雪子は殺せない。完全なアリバイがある。
孝雄が死んだ日、玄関の鍵はかけてあり、チェーンロックまで厳重にかけてあった。
孝雄が死んだ部屋は2階だ。雪子が殺したのだとしたら、
どうやって部屋から出たのだろうか?2階から飛び降りた?
2階の部屋から飛び降りても、向いのアパートは2メートル程の板で1室ごとに区切られている。
その塀を小柄な雪子は乗り越えられない。それもたとえ飛び降りても一番奥の部屋からだ。
奥の部屋?飛び降りるのではなく、飛び越えたら・・・もし飛び越えられたら?
あっ!麻生は大きな声をだした。
あの時聞いた男の台詞を思い出した。
「窓を開けて上を見たら黒い影がふわりと飛んでいるような」
麻生の中で絡んでいた糸が解けていこうとしていた。

続く・・・