【Good Luck】2020

幸運に!幸運を願う!またね

初恋 第六話(鬼束ちひろ - 月光 )

2014-03-18 22:00:48 | 心に伝わるback Music
前回のつづきで
渚(仮名)さんの話です。

心に伝わるback Musicとして
記事を書いてます。

61作目は、
鬼束ちひろ の「月光」にです。

(パソコンの方はCtrlキーを押しながら下記画像をクリックして下さい。曲が流れます)
♪ 月光♪


それでは、掲示板での渚さんの話、第六話です。
長文の為、途中でBGMを入れてます。
また、時間が有る時に続き(MORE)に進んで下さい。
☆少しずつ、過去を振り返りながら
書き溜めたものをお話していこうと思います。
拙い文章の上、少し長くなりますが、
お付き合いして頂ければ幸いです。
途中、書き込み規制で更新が滞って
しまうかもしれませんが、どうかご了承ください。☆

"「…渚さん。」"
"「…はい。」"

いつものように穏やかな、先生の声がする。
"「……もう一緒には居られません。」"
胸がギュッと痛くなる。
でも、なんとなく予想通りだったその言葉に、私は黙って頷いた。

"「…明日…家に帰ります。」"
"「…そうしなさい。」"

今まで固く締め付けていた先生の腕が、私から離れた。
"「…もう遅いです。寝ましょうか…。」"
"「…はい。」"

先生の顔を見ない様に下を向いたまま、私は小さく頷いて、スーッと静かに寝室へと入っていった。

138:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:16:33.86 ID:ZOSge41I0

どうしてくれるんだ…目から汁が出てきた…
139:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:18:49.76 ID:+beSXCVE0

翌朝。
私は携帯で6時になったのを確認すると、やっとの事で体を起こし、自分の荷物をまとめ始めた。
結局、一睡も出来ていなかった。
少ない荷物をまとめ終え、服を着替える。
大きく一回深呼吸をしてから、私は扉をそーっと開けた。
ソファから少しだけはみ出している先生の頭が見えた。
物音を立てないように慎重に部屋から出ると、先生の方をチラッと見る。
うずくまる様に毛布を体に巻きつけて横になっている先生は、どうやら眠っているみたいだった。
何故だか少しホッとしつつ、静かに玄関に向かう。
靴を履いた私は小さな声で「お邪魔しました」と言うと、玄関の外にでた。
早朝の生温い風が、気持ち悪かった。

140:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:20:53.64 ID:+beSXCVE0

久々の実家。
玄関の扉を開けると、ツンとお酒の臭いが鼻に付いた。
何だか嫌な予感がしながら、リビングに入る。
出て行った時のまま荒れ果てているその部屋で、母が横になってテレビを眺めていた。
酒瓶やビールの缶が、母の周りを取り囲んでいた。
「…お母さん。」
私が声をかけると、母はだるそうにこちらを見た。
そして声をかけたのが私だという事に気がつくと、ラリった様にニヤ~っと笑ってフラフラしながら立ち上がる。
「なぎぃ~~♪」
母は倒れこむように私に抱きついた。
「なぎぃ~おかえりぃ~♪」
息がむせ返るように酒臭い。
「…なにしてるの?」
「なぎが帰ってこないからぁ~テレビ見てたのお~」
母はテレビの方を指差し、突然ギャハハと笑い始めた。
何がおかしいのか、まったくわからない。

141:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:22:50.65 ID:+beSXCVE0

「あいつ等はドコに行ったの…?」
私がそう聞くと、母はぐしゃっと顔を歪ませて今度は大声で泣き始めた。
"「なぎぃい~あんたはドコにも行かないよねぇ?
行けないよねぇ?」"

私にすがり付いて、泣きじゃくる。
母は壊れている……どこか他人事のように、私は思った。
"「行かせないからねぇ…逃げようとしたら殺してやる…
あんたを殺して私も死んでやるんだぁ」"

何故かふと、昨日の先生の苦しそうな顔が頭をよぎる。
私の中で、何かがガラガラと崩れていく感じがした。
"「…行かないよ……」"
思っても無い事を口に出した。
私がそう言うと母はにっこりと微笑んで、私の体を今度は優しく抱きしめた。
私はもう、何も考えるのが嫌になってしまっていた。
143:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:25:33.35 ID:+beSXCVE0

夏休みが終わり、また学校が始まる。
先生とはあの日以来、連絡をしていない。

これから就職活動が本格的に忙しくなるからと、私はずっと続けてきたバイトを辞めた。
学校が終わると友達と出かけることも無く、ただ家で飲んだくれている母の世話だけをして過ごした。
毎日コロコロと機嫌が変わる母に翻弄されながら、
それでも特に苦痛は感じずに、毎日が淡々と過ぎていった。
私の心は、あの日から何も感じなくなっていた。
高校最後の文化祭が終わった頃。
夏休み中に訪問した5社のうち2社から、
その気があるなら席は空けて置くという、内定通知の様な連絡が届いた。
大手デパート内の飲食店と、中規模の一般企業。
私は内心、稼げればどちらでもいいや…という気持ちでその報告を聞いていた。
「まだまだ時間はあるから、ゆっくり考えて」という担任の言葉に従って、
私はすぐに返事を返さなかった。
144:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:27:27.38 ID:+beSXCVE0

時間だけが気だるく過ぎていった。
ただそんな中でも漠然と、私の人生は元に戻ったんだな……なんて考えたりしていた。

2学期の終業式の後、私は担任に呼び出された。
いつもの様に職員室ではなく、会議室に呼ばれた事を疑問に感じながら扉をノックする。
会議室に入ると、なにやら担任が険しい顔で座っていた。

「あの…何ですか?」
何か悪い事したっけな?…そう思いながら質問をする。
先生は私を椅子に座るよう促すと、より一層険しい顔で話し始めた。
"内定が取り消しになった。2社ともだ。」"
「え!?」
頭が真っ白になる。

愕然としてる私をチラリと見た先生は、大きく溜め息をついた。

145:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:27:30.33 ID:LUqPOmqkP
つらい…
書き溜めだろうけど、書いてて辛くなったりしてないか?だいじょぶ?

146:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:29:36.78 ID:+beSXCVE0

>>145
大丈夫ですよ。お気遣い、ありがとうございます。

146:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:29:36.78 ID:+beSXCVE0

内定取り消し…正確にはまだ正式に内定通知書が来ていた訳ではないが、
本来ならもうすぐ2社から届くはずだった。
ところが先日、2社から内定通知書は送付できないと相次いで電話が掛かってきたそうだ。
1社だけならまだしも、立て続けにこんな連絡が入るのはおかしい。
そう思った担任は、担当者に掛け合ってみた。
すると2社とも、私の素行がかなり悪いという密告の様な電話が掛かってきたのだと、
そう言った。
具体的にどういう事を言われたかまでは教えてもらえなかったが、
とにかくそんな人物を採用する事は出来ない…そう言われたそうだ。
話し終えると担任は「すまない…」と悔しそうに言った。
私は呆けつつも、黙って頷いた。

帰り道で色々考える。
一体誰がそんな電話をしたんだろう?
友人?私を嫌いな誰か?…まったくわからない。
これから先…どう生きていけばいいんだろう…
ただ漠然とした不安を抱えながら、私は家の玄関を開けた。
下記画像をクリックすると曲が流れます。
           ↓



148:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:31:31.62 ID:+beSXCVE0

リビングに入ると、母はいつものように酒を飲みながらテレビを見ていた。
"「お母さん。」"
母がかったるそうに「ん」と返事をする。
"「…就職、ダメになった。」"
"母の後姿が一瞬固まる。
でもその次の瞬間には物凄く嬉しそうな笑顔で、
バッとこちらに振り向いた。"

"「あ~そお~?残念だったねぇ~困っちゃったね~アハハハハ」"
"妙に上機嫌だ…何かがおかしい。"
"私はハッとして自室に駆け上がり、机の引き出しを開けた。
「………」"
"入れていた筈の、2社から渡された封筒と担当者の名刺は、
綺麗に無くなっていた。"
"様々な点が繋がる様に、私の疑問が結ばっていく。
私は脱力していく体を引きずる様に、階段を降りた。"


149:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:33:45.15 ID:+beSXCVE0

"「…お母さん。」"
"母は鼻歌を歌いながら、「なぁに?」と笑顔で返事をする。"
"「…何したの?私の部屋に勝手に入って、何をしたの?」"
"母が笑顔のまま固まる。"
"「机の引き出し開けたよね?中に入ってる物、
どうしたの?何をしたの!!!」"

私は思わず怒鳴りつけていた。
長いこと忘れていた怒りの感情が、ジワジワと沸いて来る。
母はしばらく目を右往左往させていたが、急に顔を歪ませ、
何やら泣き叫びながら私にしがみついてきた。

"「だってぇ!だってあの紙なんて書いてあったと思う!?」"
"「紙?」"
"「そうだよ!あの紙!!!!!!寮って書いてあったんだよぉ?
寮って寮でしょぉおお!?」"

意味が解らない。
"「だったら何なのよ!!!」"

"「許さない!!!!ここを出て行くなんて許さない!!!!
許さないんだからああああ!!!!!!」"

血走った母の目が、私を睨みつけている。
スーッと怒りが抜けていく感じがした。
この人から逃れるなんて、私には出来ない事だったんだな……
悔しさと絶望で、私の思考はまた止まって行った。

150:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:35:36.79 ID:+beSXCVE0

絶望に打ちひしがれていても、時間だけはあっという間に過ぎていった。
3学期が始まり2月に入ると、3年生は徐々に登校日は少なくなっていく。
そんな中で周りの生徒達は、確実にある未来に目を輝かせ、キラキラしている。
私にはそれが眩し過ぎて、その数少ない登校日にも学校に行くことが少なくなっていった。

何も考えられず、何もやる気が起きず、私はいつの間にか笑うことも話すことも殆ど無くなっていた。
友人達は心配してくれていたが、でもそんな状態の私にどう接していいのか解らなかったらしい。
少しずつ少しずつ、私から離れていくのが解った。
私の人生はこれでいい。これでようやく元に戻ったんだ……
毎日毎日、ただひたすらそんな事を考えて暮らしていた。

152:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:38:57.67 ID:+beSXCVE0

卒業式を間近に控えたある日。
久しぶりの学校から戻ると、玄関には男物の綺麗な革靴が置かれていた。
中から母の嬉しそうな話し声と、男の人の声がする。
いつの間に男引っ掛けたんだ…?
そう思いながらリビングに入る。
母はもの凄い笑顔で私を見た。
「なぎお帰り~あ、この人ね、なぎを迎えに来たんだよ~」
はぁ?っと思いながら男を見る。
私と歳がそう変わらなく見えるチャラい感じの男が、これまた物凄い笑顔で私に頭を下げた。
つられて私も小さく頭を下げる。
「あー娘さん!お母さんに似て美人ですねー!これならもう余裕でオッケーっすよ。」
母と男が楽しそうに笑った。
「…迎えって何?」
かったるく母に聞く。
「なぎのね、面接してくれるんだって~だから今から一緒に行ってきて~♪」
はぁ?っと声に出すと、すかさず男が会話に入ってくる。
「いや~お母さんとは昔っからの知り合いでね、渚さん…でしたっけ?就職に失敗して困ってるって電話が来たもんだから。」
「そうそう~電話したの~♪」
「それならウチで働くのはどうかなぁ?って思って、ウチの店長に話してみたんっすよ。」
「そうそう~♪そしたらね~、じゃあ今日面接に来いって言ってくれたみたいで~」
母と男は楽しそうに話を続ける。
"「そうなんすよ。だから今から一緒に来て、
面接受けてください。店長待ってますから。」"

153:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:40:35.38 ID:LUqPOmqkP
なんだよ…うそだろ…

どうなっちゃうんだよ…
154:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:40:43.06 ID:+beSXCVE0

何だか碌な予感がしない。
「…嫌です。」
私はキッパリ断った。
私がそう言うと、男はさっきまでの笑顔から一変、今度は物凄く険しい顔をした。
「…困るんすよねぇ来てくれないと。わざわざ店長まで待たせてますからねぇ。」
男がギロリとした目で、私と母を交互に見る。
母は焦った様に私に叫んだ。
「さっさと行って来ればいいの!早く用意して!」
行かなきゃ何だかエライ事になりそうだ…
私は諦めて頷いた。
直ぐに部屋に戻って制服から着替える。
下に戻るともうすでに男は消えていた。
「早く行って~外の車で待ってるって~」
私は母を無視して外に出ると、男が待っている車に乗った。

155:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:42:39.03 ID:sMVE+LP3i
なんだよこの展開は……

156:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:42:44.07 ID:+beSXCVE0

20分くらい走った車は、小さな雑居ビルの前で停まった。
「オレ、車置いてくるんでちょっとここで待っててください。」
私は言われるがままに降りると、辺りを見渡した。
場所は地元で有名な風俗街。
何となく予想通りの光景に、私は特に驚く事も無く男を待った。
「いや~お待たせしました。じゃ、入りましょっか。」
直ぐに戻ってきた男に促され、私はビルに入った。
ビルのタバコ臭い空気が気持ち悪い。
階段を降りてすぐの扉を開けると、男は「てんちょ~~~!」と大声で叫んだ。

男の後に続きながら、部屋全体を見回す。
部屋の真ん中に小さいステージがあって、その周りにはフカフカの少し汚いソファが並べられている。
ステージ脇の小さな扉から、ガラの悪そうなヒョロリとした男が顔を出した。
「あ、店長!連れて来ましたよ~。」
男がヘラヘラと笑いながら言うと、店長らしき男はじろりと私を見た。
そしてヘラ男を手招きで呼び寄せ、なにやら小声で話をしはじめた。
へラ男は何度か頷くと、走って私の元に戻ってきた。

57:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:44:36.80 ID:+beSXCVE0

"「今からそこのステージに立って、少しだけ歌ってもらいますね~」"


私はビックリしてヘラ男に聞き返す。

"「歌ですか?」"

"「そうっすよ~なんでもいいんで、テキトーに歌ってください。」"


私は促されるまま、ステージの上に立った。
適当に、当時流行っていた曲を歌う。

歌い始めて早々に店長は私を止めた。

"「わかった。歌はもういいから、脱いで」"

"言われて思わず体が固まった。"

"「ほら、早く脱いで。下着もね!」"


ヘラ男の焦った様な声がする。

"あぁ…やっぱりこうゆう事か……

私はなかば半笑いで服を脱いだ。"

店長とヘラ男は、じーっと私を見ている。
不思議と、恥ずかしいとも嫌だとも思わなかった

"「OK、それならいけるね。もう帰っていいよ。」"
店長はそういうと、またさっき出てきた部屋に戻っていった。
ヘラ男が嬉しそうに近づいてくる。
「いや~よかったね!あ、もう服は着ていいよ。家まで送るね。」
私はまた、そそくさと服を着た。

158:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:46:53.17 ID:+beSXCVE0

「渚さん、来週卒業式っすよね?終わったら連絡ください。待ってますから。」
私を家の前で降ろすと、ヘラ男はそう言った。
私は返事をせずに車のドアを閉めて、さっさと家に入った。
「おかえりなぎぃ~♪どうだった~~~??」
上機嫌で話しかけてくる母を無視して、足早に部屋に戻る。
久しぶりに部屋に鍵を掛けると、私はベッドに突っ伏した。

母がまた、わざわざ私の部屋の前まで来てギャーギャー叫んでいる。
私は鬱陶しくなって、MDのイヤホンを耳に付けた。
もうこのまま消えてなくなっちゃいたいな…

ひたすらそんな事を考えながら、目を閉じた。

160:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:50:10.63 ID:+beSXCVE0

卒業式が終わる。

当たり前のように、母は出席しなかった。
友人達は皆、泣いていた。


式が終わってすぐに少しだけ懇親会のようなものが予定されていたのだが、
私はそれに出る事無く高校をあとにした。

家に戻るのがなんとなく嫌で、あてもなく街中をブラブラ歩く。

街の賑やかな喧騒が耐えられなくて、私は人気の少ない小さな公園に向かった。
その公園は地元では有名な心霊スポットで、街を一望出来る綺麗な場所なのに、普段から誰も近寄ることが無かった。

どっかりとベンチに腰を下ろす。
私は携帯の電源を落とすと、ただボーっと空を眺めた。
思えば最初は天国、最後は地獄の高校生活だった。
先生と再会出来た事、大事な友達が沢山出来た事……色々な思い出が、頭を駆け巡る。

何だか疲れちゃったな……
そう思いながらボーっとしていると、空はあっという間に暗くなっていった。

161:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:52:56.40 ID:+beSXCVE0

辺りが完全に暗くなった所で、私は時間を見るために携帯の電源を入れた。

時間はもう6時過ぎ。

着信履歴は母からのもので埋まっていた。
ボーっとしながら履歴のページをめくっていく。
不思議な事に5時を過ぎた辺りで、母からの電話はピタッと止まっていた。
あーあ…やっちゃったー…なんか色々と大変な事になってるんだろうな…
そう思いつつも、まったく家に戻る気が起きない。
なんとなくそのまま無心で履歴をめくり続けていると、最後の方で堺先生の名前が出てきた。
それを見て、指が止まる。
先生とはあの日以来、連絡を取っていない。
メールが来ることも、こちらから送ることも無かった。
ふと、先生の言葉を思い出す。
"ー 人って結局、いつかは自分から離れていくじゃないですか… ー"

離れないと決めたはずなのに、私は簡単に先生から離れていった。
その時は本気で離れないと思ったはずなのに、結局は先生の言うとおりになっている。
先生の悲しそうな顔が、思い浮かんだ。

瞬間、離れるのが正しかった事なのだと、私は自分に言い聞かせた。

こんな自分の泥沼のような人生に、もう先生を巻き込んじゃいけない。
そう思いながらも心のどこかでは、先生に会いたくて、このまま離れたくなくて、ダダを捏ねてる自分が居る。

ダメ…でも…いや絶対にダメだ……私は久々に味わう心の痛みに、葛藤していた。

162:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:56:15.85 ID:+beSXCVE0

長い長い葛藤のあと、私は思いついた。

最後に一度だけ、先生に電話をしよう……それで心の踏ん切りをつけよう…と。

(パソコンの方はCtrlキーを押しながら下記画像をクリックして下さい。曲が流れます)
♪ 鬼束ちひろ - 私とワルツを♪



よくわからない緊張が、私を支配する。
コレが最後。と何度も自分に言い聞かせながら、私は思い切って携帯のボタンを押した。

「…………」
暫らく鳴らしても、先生は電話に出ない。
やっぱりそうだよな…出るわけ無いよな。でもかえってこれで踏ん切りがついた…。
そう思いながら電話を切ろうとしたその時、呼び出し音がブツっと急に止まる。
「……もしもし…」
先生の声がした。
「……もしもし…渚さん?」
久しぶりの柔らかい声に、胸が一杯になる。
「…お久しぶりです…先生。」

何とも言えない懐かしさで、私の心は一瞬で穏やかになっていった。

163:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:58:45.42 ID:+beSXCVE0

「お久しぶりです。元気にしてましたか?」
「はい。…先生こそ、元気でしたか?」
昔のように笑いあう。
「元気でしたよ。…渚さんは今日卒業式でしたよね?おめでとうございます。
「…ありがとうございます。」
卒業という言葉に少しだけ現実を思い出して、胸が痛む。
「どうしたんですか?急に。」
先生はいつもと変わらぬ明るい声で、私にそう尋ねた。
先生の言葉に大きく一回深呼吸をして、私は勇気を出して話し始めた。
「…これが最後のつもりで、先生に電話をかけました。」
「……最後?」

「はい。…先生に電話を掛けるのも…今日で最後にします。」
電話の先で先生が黙り込む。

"「…先生には沢山助けてもらいました。
だから…今までありがとうございました。
もう迷惑はかけません。」"


165:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:01:06.93 ID:+beSXCVE0

先生からの返事は無い。
言い終えた私は、胸の痛みを必死で堪えていた。
自然と涙が溢れてくる。
「…今、どこにいますか?」
長い沈黙のあと、先生は私にそう尋ねた。
「…どうしてですか?」
私は泣いているのを悟られないように、明るく聞き返した。
またほんの少しの沈黙の後、先生は小さく「だって…」と言った。
「……これで最後にしますって言われて、しかもその連絡が電話だけ…っていうのは、なんか嫌じゃないですか。」
私は何も言えなかった。
「…これでもうサヨナラするのなら、最後に会って話をしましょう。僕はそうしたい。」
私は少しだけ考えて、「〇〇公園に居ます。」と応えた。
先生は場所にちょっと驚いたようだったが、「わかりました。すぐに行きますから。」といって電話を切った。
あの時のように、泣いてる顔なんて絶対に見せない。
私はそう決心をして、ひたすら何も考えないようにじっと夜景を眺めた。

166:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:03:51.89 ID:+beSXCVE0

案外すぐに涙も止まり、不思議と穏やかな気分になっていた。
これでもう大丈夫…あとは何があっても普通に接していればいい…
心の中でひたすらそんな事を繰り返していると、先生は本当にすぐにやってきた。
「おまたせしました。…やっぱりココ、なんだか怖いですね。」
そう言いながら、私の横にちょこんと腰をかけた。
ラフなスーツ姿の、小学校の時と何も変わらない先生を見ていたら、懐かしい気持ちがこみ上げてくる。
私は少し笑って、「そうですね。」と返事をした。

"「…仕事、あれからどうなりました?
結構色々と見て回ってましたよね?」"

胸がズキッと痛んだ。
"「全部、落ちちゃいました。」"
私は努めて明るく答える。
先生は凄く驚いた顔をした。
"「なんで?あんなに頑張ってたのに…」"
"「ちょっと色々ありまして…残念でしたけど。
あ、でももう仕事他に決まったんですよ。」"


"「そうなんですか?…ならよかった。
どんなお仕事?」"

胸がどんどん痛くなっていく。

"「母から紹介されて…脱いで歌うお仕事だそうです。」"

私が笑いながら言うと、先生は私を見ながら固まった。

169:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:05:31.78 ID:+beSXCVE0

"「脱ぐ…って…」"
"「はい、歌いながら裸になるそうです。
まいっちゃいますね。」"
"「…ストリ○プって事ですか?」"
"「多分、そうだと思います。
結局私には
そういう仕事しかなかったみたいです。」"

私は先生の顔を見ないように前を向いて、アハハと笑った。
もう2度と会う事はない。
このまま嫌われてしまっても構わない。
いや、むしろ嫌われて軽蔑されてしまった方が、気が楽だ。
私は話しながら、そんな事を考えていた。
「そんな仕事を始めるし、私はどんどん先生達の世界から離れていきます。」
「……。」
「だからこれ以上、先生を巻き込みたくないし、迷惑かけたくないんです。
私は先生に、幸せになって欲しいから。」
言い終わってホッと溜め息をつく。
先生が隣で固まっているのがわかった。
これでいいんだ…
昔のように痛くなる胸の締め付けを我慢しながら、私はただじっと夜景だけを眺めた。

170:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 18:07:27.12 ID:+beSXCVE0

そのまま暫らく、静かな時間が流れる。
先生は相変わらず固まっていて、私はじっと前だけを向いていた。
このままこうしていたら、私はきっとまた泣いてしまう…
そう思って、私はバッと立ち上がった。
固まっている先生に振り返る。
「もう行かないと。今日、卒業式が終わったらお店の人に電話する筈だったんですよ。…無視して今サボっちゃってますけど。」
私はニコニコしながらそう言った。
先生はニコリともする事無く、少しだけ下に俯いた。
"「…最後に会えて嬉しかったです。
…実はずっと会いたかったから。」"

そういい鞄に手をかける。
"「それじゃ、先生、お元気で…」"
先生の顔を見ないようにしながら、私は先生に背を向ける。
ここから離れるのを拒否する気持ちを懸命に振り払いながら、私は歩き出そうとした。

つづく This story is to be continued.