あゝりんどうの花咲けど (昭和40年学習研究社「美しい十代」10月号P90~97)
第二章:佐千夫の目は燃えた。玲子は本能で、佐千夫の感情のあらし
を直感した。玲子は目を閉じ、佐千夫の腕に力がこもる・・・・・・・。
今回は、【あゝりんどうの花咲けど】編集版【4】P28~P29(原本P95~P96)の紹介です。
さいわい、玲子はふたたび発作をおこさなかった。医者の言ったように三日休んだだけで、通学できるようになった。
「体操の時間、見学しなきゃならないの。ちょっとつらいわ」その玲子に、浦部という玲子のいとこのことばを伝えると、顔を
まっかにしておこった。 「とんでもないわ。あんなの、いとこであることだけであたしは恥じているのに。あなたは信用した
の?」 逆に、すこしでも疑った佐千夫を責めてきた。 「そりゃ、ちょっとはショックだったさ。うそだと思いながらもね。しか
し、きみにつきまとっているのは事実らしいな」 「いくらつきまとわれたって、だいじょうぶよ。あんな次元の低い人なんか、
そばに寄ってこられるだけで胸がむかつくわ」 「ちょっとやくざっぽい感じだったな」 「安心して。ぜったいだいじょうぶ。
でも、あんないとこがいて、あたしを軽べつしたんじゃない?」 「まさか。きみ自身とは関係のないことだ」
やがて、玲子から紹介された節子が、玲子が席をはずしたときにそのことについて言った。 「浦部というそのいとこね、
とてもしつこいらしいの。でも、玲子はそんな人なんか、まるで問題にしてないわ、そいつが親類であることだけでも腹を
たててるくらいだもの」 佐千夫は、忘れることにした。恋する者はつねに不安である。しかし、不安や疑惑にとらわれたら
、際限がない。勉強も手がつかなくなる、たいせつなのは、信頼することではないか。
木枯らしが吹いた。並木の銀杏の黄色い葉が、ころがってゆく。遠くのS連峰が、白い衣をまとった。玲子の心臓に良く
ない冬が、ひしひしと迫ってきつつあった。 佐千夫は睡眠時間をさらに減らした。年が明ければ、たちまち入試である。
進学と決めた以上、どんなことがあっても合格しなければならないのだ。 玲子のかかりつけの医者も玲子について 「だ
いじょうぶです。これくらいの心臓の病気ぐらいで進学をやめたら、臆病さを笑われますよ」 そう保証した。玲子も予定ど
おりに進学するのだ。入学すれば、アルバイトをして、なるべく母に負担をかけないような学生生活を送ればいい。何人
かの先輩の体験談を聞いて、佐千夫はそう考えていた。
次回は、【あゝりんどうの花咲けど】編集版【5】P30~P32(原本P96~P97)を紹介します。
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