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サンヒョクの実家で食事をご馳走になったあと、サンヒョクはユジンをアパートまで送って行った。以前とは違って、ユジンは車内でも全く喋らなかった。口を開かないことで、無言の抵抗をしているようだった。ユジンを車から降ろすと、サンヒョクは言った。
「ユジンも留学は前からしたがってたからいいだろ?」
「、、、うん。」
「結婚準備は簡単にして、式だけ挙げよう。」
「あなたが思うようにしてくれればいいから。」
そう話すユジンの態度は諦めが感じられた。
「分かったよ。」
「じゃあもう行くね。」
ユジンは無表情のまま行こうとした。サンヒョクはその腕を掴んで、無理矢理振り向かせた。
「ユジン、復縁したことを後悔してる?」
「、、、いいえ、してないわ。」
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ユジンは無表情のままキッパリと答えた。まるで能面のようだった。サンヒョクはそんなユジンを見送るしかなかった。ユジンが義務感だけで自分と復縁したことを嫌と言うほど知った。例え好きでなくとも、ただ一緒にいてくれれば良いと思ったけれど、予想以上の辛さに身を斬られるようだった。そんなサンヒョクに背を向けて歩くユジンもまた、涙を流していた。今更サンヒョクと一緒にいるのは、拷問にも等しいほど辛かったのだ。ミニョンの愛を知った今となっては、サンヒョクに義務感と嫌悪感しかわかなかったのだ。そして、そんなふうに考えてしまう自分を恥じてもいた。
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どっと疲れてアパートに帰ると、チンスクと一緒に母親のギョンヒが出迎えた。ユジンの泣き顔を見てチンスクは心配した。
「ユジン、また泣いてたの?」
ギョンヒもまた心配していた。
「ユジン、あなた本当に大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。」
ユジンは気丈に振る舞おうとしたが、その顔は泣き笑いにしかならなかった。二人ともユジンがかわいそうになってしまい、顔を見合わせるしかなかった。
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ギョンヒとユジンはユジンのベッドの上で話をしていた。ユジンは反応をみるように、ギョンヒを覗きこみながら言った。
「オンマ、サンヒョクが留学しようって言うの。オンマはどう思う?」
ギョンヒはびっくりしたが、気を取り直して言った。
「とても良いことね。いいチャンスだと思う。わたし、女手一つであなたたちを育てたから、お金もなんにもなくて、あなたに何もしてあげられなかったことを後悔してるの。だから、本当にありがたいと思ってるわ。」
「、、、そう。これでよかったよね?間違ってないよね?」
ユジンはギョンヒの意見にがっかりしてしまい、うつむいた。
「ねえオンマ、わたし、、、一人で生きていっちゃダメかな?」
「何を言ってるの?ユジン。今さら何を言いだすの?!」
ユジンはギョンヒが予想外に強い口調で言い始めたので、うなだれてしまった。
「、、、ただなんとなく他の人たちに申し訳なくて、、、わたしが悪い人間で耐えられないの。」
「あなたの何が悪いの?いるべき場所に戻ったじゃない。サンヒョクが冷たいの?それともチヨンさんが辛く当たるの?」
「違うの、全部私が悪いの。オンマ、私は悪い人間なのよ。あの人の事を忘れられないのは、悪いことでしょう?」
ギョンヒはショックのあまり、思わずユジンの手を離した。
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「サンヒョクといても、胸に穴がぽっかりと開いている気がするの。あの人が、、、チュンサンが死んでから、わたしずっと悪い人間だった。悲しくて、ずっと悲しみに囚われていて、サンヒョクが目に入らなかったの。サンヒョクはずっと好きでいてくれてたのに、、、。それなのに今さら一緒に過ごすのは無理だって気づいて、、、。」
そう言って涙を流し始めた。
娘の決死の告白を前に、ギョンヒはあえて厳しい言葉を口にした。娘にはきちんとした家に嫁いで、自分のような苦労をせずに幸せになってほしかったのだ。例え愛していなくとも、サンヒョクのような裕福な家庭の優しい男性と結婚することが、娘の幸せだと信じていた。それは母親の身勝手な願望だとは、少しも思わなかった。しばらく辛そうな顔をしていたが、キッとユジンを見つめて言った。
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「それでも、、、それでもあなたはサンヒョクと結婚しなくちゃダメよ。」
そんなギョンヒを目の当たりにして、ユジンの目に絶望の色が浮かんだ。ため息を一つつくと、ポロポロと涙を流して、唇は震えだした。懇願するように声を絞り出す。
「本当に、、、本当に耐えられないの。オンマ、私苦しい、、、どうしたらいいの、、、」
母親を苦しませたくない、失望させたくない、自分さえ我慢すれば皆が幸せになれるのだ、そう思っても、解き放たれた気持ちは行き場を失って荒れ狂っていた。自分ではどうすることもできない。ユジンはただただそんな自分を責めて、泣くしかなかった。いつまでも泣き続ける娘を前に、ギョンヒは抱きしめることしか出来なかった。やがてユジンが泣きつかれて腕の中で眠りにつくまで、ギョンヒは娘の背中をさすり続けるのだった。
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