ミニョンと別れたユジンは、チョンアの運転する車でソウルに向かっていた。ユジンは黙ったまま、悲しそうに雪景色を眺めていた。そのうち、ついに溢れ出る感情が堪えきれなくなって、涙を流し始めた。涙は止まらずに、二人の会社のポラリスに着くまで、ユジンは静かに泣き続けるのだった。チョンアはそんなユジンを心配そうに見つめているしかなかった。
その頃ミニョンはあてもなくスキー場を歩き回っていた。林の木立を見ると、ユジンと仕事を一緒にするようになって、よく歩いたことを思い出す。沢山笑って沢山話した。時に行き違いになったり、チェリンの嘘を信じてユジンを傷つけたりもした。夜のスキー場を見ると、ユジンが泣くときに、付き添ってそっと見守ったことを思い出す。山頂で二人きりの夜を過ごして、思わず気持ちを吐露してしまったことや、束の間でも恋人として過ごした日々。どこを見ても歩いても、ユジンとの思い出ばかりで切なくてたまらなかった。
その日、サンヒョクは久しぶりに会社に出社した。ラジオスタジオでは、禁煙にもかかわらず、DJユヨルがこっそりとタバコを吸っている。サンヒョクはこっそりと後ろに回って、イヤホン🎧を取り上げた。
「先輩、ここは禁煙ですよ。」
「おおっ、キムサンヒョクプロデューサーじゃないか。」
「僕がいない間に問題はありましたか?」
「何言ってんだ。俺はベテランDJだぞ。それよりお前何してたんだよ。あんまり休むから有給無くなっちゃって、退職するんじゃないかって噂だったぞ。」
何も知らないユヨルは嬉しそうな顔をしている。
「すみません。ちょっといろいろありまして。」
サンヒョクは誤魔化すように苦笑いをした。
その頃ユジンはポラリスで、先輩のスンリョンに仕事の引き継ぎをしていた。細かな説明をしていると、スンリョンが腑に落ちない顔でユジンを見つめる。
「ユジン、どうもお前らしくないな。途中で担当を変わるなんてさ。」
「先輩、だいたい現場のことは目処がついたので、よろしくお願いします。それに先輩は優秀ですから。」
「そんな当たり前の事を今更言われても、照れるじゃないか。お前さ、マルシアンとトラブったのか?」
「そんなことないけど、先輩あとはよろしくお願いします。」
スンリョンは不思議そうな顔でマルシアン絡みの資料を受け取り、デスクに戻って行った。
ユジンはいつのまにかデスクに突っ伏して寝てしまったようだった。ふと目が覚めると、スンリョンはもう帰ってしまったのか、事務所には誰もいない。慌てて携帯を見ると、時間は一時間も経っていた。ユジンは着信履歴をチェックした。ミニョンから四件も電話がかかっていた。どうしようか考えていると、誰が事務所に入ってきた。
「お邪魔しまーす。」
満面の笑みを浮かべたサンヒョクだった。
「母さんがうちにご飯を食べに来いだってさ。」
ユジンは顔をこわばらせて気づかれないように、小さくため息をついた。
サンヒョクの母、チヨンは以前とは打って変わって、ユジンを大切な客のようにもてなした。チヨンにしてみれば、死にそうなサンヒョクを助けてくれて、元さやに収まったユジンは命の恩人のように感じていた。チヨンは上機嫌で
「ユジン、さあさあ食べてちょうだい。」
チゲ鍋も一番にユジンの分をよそって渡した。
ユジンは態度の豹変ぶりに戸惑うばかりだった。
「そうそう、近所のマンションを見て来たの。新婚さんにはぴったりだったわ。」
「母さん、その件なんだけど、必要ないから。結婚したらすぐに留学しようと思って。ユジンには話してないけど、構わないだろ?」
「えっ?う、うん、、、」
正直うなづくのが精一杯だった。話の展開の早さに大混乱していた。一回別れて復縁したばかりなのに、もう結婚の話になっている。しかも一言の相談もなく、留学の話を決めてしまうなんて、ついていけなかった。
「いくらなんでも急な話すぎるでしょう。」
さすがのチヨンもショックを受けている。しかし、父親のジヌが感心したと言うようにうなづいた。
「ふーん、それはいいアイデアだな。よく決心した。応援するよ。」
ユジンはそんな事を言われても、俯くしかなかった。まるで外濠を埋められるようで、言いようのない不安に襲われていた。