チョンユジンは腹を立てていた。なぜならせっかく気持ちよく寝ていたのに、誰かがバスの窓枠に頭をぶつけさせたからだった。ユジンは寝ぼけたまま、そのだれかを睨みつけた。思考がはっきりしてくると、その誰かはハッキリと見えてきた。
左側に座っているその人は、男子生徒らしかった。さらりとした都会的な髪型をしていて、前髪が少し目にかかっている。髪から覗く涼やかな目は、理知的でするどく光っていて、でもその奥に優しさも秘めている気がした。すっとした鼻筋と上品でキレイな形の唇が驚いたように少し開いているのが見える。きれいな顔、今まで見た男性の中で一番キレイな顔をしている。でも誰かしら?制服は第一高校のだけど、こんな人見たことない、、、ユジンはそう思いながら、まじまじと男子生徒を見つめた。男子生徒は眩しそうな顔で目を逸らしたり、ユジンを見つめたり、を繰り返していた。それでもユジンは懸命に彼を見つめて観察していた。彼が着ると、春川第一高校の学ランが、とても洗練されて見える。コーヒー色のダッフルコートから覗く制服を、ユジンはじろりと一瞥した。彼は都会的で頭が良さそうだけれど、瞳の奥が寂しげで、孤独をまとっている感じがする。思わず抱きしめて大丈夫、と言いたくなるような、、、捨てられた仔犬みたい。ユジンはそこで、初めて会った人を相手に何を考えているんだろう?とハッとして周りを見回した。男子生徒もつられて慌てたように目を逸らす。ここはどこ?学校に行くつもりだったのに!
「運転手さん、止めて!」
ユジンは大声で叫ぶと、慌てて無理矢理彼を引っ張ってバスを降りた。
そこは学校から遠く離れた川辺だった。街並みも遠くに見える工業団地も、見慣れない風景だった。多分、昔死んだ父親に南怡島に連れて行ってもらったときに、バスで通った気がするが、、、あくまでも気がするだけだった。
「もうっ、起こしてくれないから乗り過ごしちゃったじゃないの!あなたのせいよっ」
チュンサンは、女子高生の一言に、びっくりして目をまん丸にした。ぼっ、僕のせい?自分はスヤスヤと気持ち良さそうに寝ていたくせに。喉元まで出かかった言葉をぐっと飲み込んで、クールなさまを装った。もはや、珍生物を見るような気持ちになってきた。
「ねぇ、あなた何年生?」
「、、、二年生、、、」
「見たことないけど。乗り過ごしちゃったから遅刻よ。ゴリラに怒られるのが怖くないわけ?!あなたみたいに動じない人って初めてだわ。あー、もうここはどこなの?」
彼女はそう言って、くるりときびすをかえすと歩き始めた。チュンサンは、どうしたらよいか分からずに、その場に立ち尽くした。歩き出した彼女は、バスで見たときよりもすらっとした長身で、ひょこひょこと歩いていく様子は、とても可愛らしかった。
ユジンは、落ち着き払っている謎の男子生徒に怒っていた。なんて気が効かないのかしら?少しは慌てなさいよ、ゴリラに怒られたことないわけ?
そう思いながら彼を見ると、バスにいたときは気がつかなかったが、かなりスラリとした長身だと分かった。そして春川ではついぞ見たこともないイケメンだと認めざるおえなかった。しかも大人びていて影がある。だれもキャーキャー騒がないのはなぜたろう。イケメン好きのチェリンが大騒ぎしそうなのに。
一度はくるりときびすを返して歩き出したものの、彼がついてくる気配はない。思い切ってもう一度振り返って言った。
「ねぇあなた、タクシーを捕まえるわよ。運賃は割り勘ねっ!!」
見知らぬ彼を一人きりで置いていくわけにはいかない。ユジンの面倒見の良さがムクムクと頭をもたげた。すると、彼は嫌がるわけでもなく、素直に後ろをついてきた。ユジンは捨てられた仔犬を拾ったような気分になって、意気揚々と歩き出すのだった。
二人は道端でタクシーを拾って学校に向かった。ユジンはタクシーの中でもユラユラと揺れながら気持ち良さそうに眠っている。チュンサンはあまりに無邪気なユジンを楽しそうに見つめていた。
学校につくと、ユジンはすぐに目を覚まして、そそくさとタクシーを降りて行った。そしてふと男子生徒を思い出して後ろを振り返ると、なんと彼は電柱にもたれかかって、手慣れた様子で一腹しだしたのだ。
「たっ、タバコ⁉️」
ユジンはびっくりしてしまい、まん丸の目で彼を見つめた。あの男子生徒は不良なのだろうか。よりによって学校前でタバコを吸うなんて。影があるし、暗くてとっつきにくくて、変な人、、、付き合いきれない。ユジンは呆れて彼の顔を見た後、慌ててまた駆け出して行った。悔しいけれど、タバコを吸う姿やもサマになっていてカッコよかった。かれはいったいどんな家庭に育ったんだろう?見知らぬ男子生徒への興味はなかなか尽きなかった。