「君と出会ったとき、僕たちはバスに乗っていて、君は僕の肩に頭をの乗せて眠っていたよね。」
「そう、私たちはバスの中で会ったのよ。覚えていてくれたのね。」
「その時の君は髪が長くて、僕のことをじっと見てた。」
「他には?もっと思い出せることはある?」
「、、、サンヒョクのことは少し覚えてるんだけど、あとのみんなは思い出せないんだよ。わからない。」
「大丈夫よ。自分のことが思い出せたんだもの。それだけで十分だから心配しないで。」
ユジンは涙ぐみながらチュンサンを見つめた。ミニョンはいつからこんなに憂いを帯びた表情をするようになったのだろう、と切ない気持ちでユジンを見ていた。
「僕は本当にチュンサンなんだよね?君との思い出は本物なんだよね?」
ユジンが力強くうなずくと、ミニョンは不安そうなまなざしで彼女を抱きしめた。
「ユジナ、君を覚えていてよかった。本当に良かった。」
「チュンサン、ありがとう」
二人はしっかりと抱きしめあってしばらく離れなかった。二人の目からはとめどなく涙が流れ落ちた。
ユジンはしばらくぶりにチンスクと暮らすアパートに帰って着替えなどの準備をしていた。ユジンは胸がいっぱいになっていたので、全く気が付かなかったが、チンスクが一生懸命話しかけていた。ユジンは戸惑うチンスクに、チュンサンの意識が戻ったことを伝えた。チンスクは自分のことのようにユジンを抱きしめて喜んだ。そして、チンスクによって、ヨングク・サンヒョク・チェリンにも吉報は伝えられた。チェリンはショックで呆然として、サンヒョクはすぐに病院に駆け付けた。
サンヒョクが病室に駆け付けると、病室は空っぽだった。サンヒョクは受付でミニョンの記憶が戻ったことを確認して、改めて呆然とした。
そのころ、チュンサンは待合室でぼんやりと外を眺めていた。記憶が戻ったといっても、まだまだ断片的で、浮かぶ映像は何が何だかよくわからないままだった。どこかの教室で、誰かが教えている授業をのぞき見している自分や、どこかに向かって懸命に走っている映像もぼんやりと浮かんでくる。ユジンと雪の中で戯れる景色や、学生服のサンヒョクの顔、若い時のミヒの写真。その時ユジンが後ろから声をかけた。
「チュンサン」
ユジンはチュンサンと呼び掛けたものの、ミニョンが振り向かなかったらどうしようと心配して、振り向いたミニョンを見て胸をなでおろした。チュンサンはにっこりとほほえんだ。
「鮮明な記憶もあるのに、ぼんやりとかすみがかったような記憶もあって、夢なのか現実なのか区別がつかないんだよ。」
「でも自分がチュンサンだと思いだしたじゃない」
そういうとユジンは安心させるように微笑んで、チュンサンの首に腕を回した。チュンサンも、そんなユジンの温かさがうれしくて、ユジンの背中に手を回して優しく抱きしめた。ちょうどその時、その様子を物陰から見守る男性がいた。サンヒョクだった。サンヒョクはユジンがチュンサンから身体を離すとのパジャマを整えてあげて、二人が寄り添いながら歩いていくのをじっと見つめていた。来るべき時が来たと思った。二人の様子から、もう誰も間に入れないほど強いきずながあるのは明白だった。別れの時だ、サンヒョクは静かに立ち去るのだった。