2021-09-14 19:43:00 | 未来記
14.ママがパールへ望むこと
ホテルにいた人達は、集会所のような所に移動して、毛布を渡され、そこで夜を過ごすことになった。
周りにはエリアの警備隊が、何十人も見回りを続けている。
デビッドおじさんが、毛布を何枚か重ねて敷いて、子供達にそこで休むよう言った。
パールのママも、オパールおばさんも一緒だ。
パールは、待っていたかのように、ママのそばに座った。ママの懐かしい香りに、自然と顔がほころんでくる。
キラシャとケンとマイクは、遠慮して少し離れた所に座った。
でも、ママは緊張した面持ちで、パールを見つめていた。
「パール、長旅だったけど、危険な中、無事に帰って来てくれてありがとう。
天国のパパも、きっと喜んでくれていると思う。
パールにやっと会えたってね。ずっと、あなたを待っていたから…
ただ、ここは危険な場所。
あなたが、ここにいて無事に暮らせるか、ママは心配しています。
あなたは、オパールおばさんと一緒に、MFiエリアに戻った方が良いと思う。
昨日の集まりで、あなたの存在を多くの人が知ったから…。
いつ、誰に狙われるかわからない…。
あなたは、お友達に会えると思って楽しみにしていたと思うけど…
どうやら、それもできそうにないの… つらいと思うけど…
あなたがMFiエリアで勉強して、将来なりたいことを見つけて、
帰ってくるのなら、私はそれでいいと思う。
そのころには、今より治安が良くなっているかもしれない… 」
ママから急に言われたことが、まだよく理解できていないパールは、不満気だ。
「デモ ママ。
ワタシ アイタイヒト イル。
マダ アッテナイ。
MFiエリア イッタラ モウアエナイカモ… 」
ママは悲し気な顔をして、パールを抱きしめた。
「ママだって、つらいの。
あなたの希望が、かなえられないって言うことがね。
でも、ここは危険なの。パールもよくわかってるでしょ?
爆弾騒ぎは、いつものことだし、急に銃撃が始まることだってある… 」
困っているママを見かねて、デビッドおじさんがパールに声をかけた。
「今、このエリアの住民が使うネットは、統制が厳しくて自由に使えない。
でも、おじさんがこれから交渉して、MFiエリアとオンラインでつながるよう働きかけてみるよ。
君が友達とリモートで話ができるまで、時間はかかると思うが、待っていて欲しい… 」
パールは訴えるようにキラシャを見たが、キラシャはどうすることもできない。
パールには、どうしても会いたかった人がいるのに…
でも、キラシャだって、タケルに会ったとは言え、話もできる状態ではなかったのだ。
突然、背中に銃口を突き付けられた時の恐怖を思い出して、会わない方が良かったのかもと、いつかパールと笑って話せる時が来るといいなと思った。
まだ納得はしていないパールの一方で、マイクは少し希望が持てたような顔になって、ケンに言った。
「モシ パール MFi イクナラ
ボク パパト ハナシテ イッショニ イク!
ママ オコッテル。
ココ アブナイ。ハヤク アンゼンナトコ イキナサイ。
リョヒ オクル ダッテ! 」
ケンはびっくりして、マイクに尋ねた。
「でも、マイクのパパはどうすンの?
マイクの保護者がいないと、MFiエリアに帰れないよ… 」
デビッドおじさんが、マイクに声をかけた。
「ちょうど良かった。おじさんも、これからMFiエリアに行くことにしたんだ。
マイクのお父さんに相談して、おじさんが保護者になって連れて行ってあげるよ。
しばらく、マイクはおじさんが預かることになっていたからね」
マイクは、うれしそうにうなずいた。
結局、その夜にホテルの爆破は行われなかった。
ただ、通路で銃を撃ち合う音は、その後も何度か聞こえ、そのたびに4人の子供はお互いの身体をすり寄せ、鳴りやむまで耳を手で押さえた。
キラシャは、こんな音も、タケルは聞こえないのかなと思いながら…