10.姿を変えた少年達
キララの呪文によって現れた空間のひずみが、少年達を覆うと、その姿が一瞬消え、カラスより大きめのタカかワシのような鳥が、少年の数と同じだけ現れ、空中を舞い始めた。
驚いた顔で、上空の鳥を見上げる男達。
ハッと我に返った男の一人が、「なめやがって! 」と怒鳴ると、目の前に歩かせていた2人の子供に向かって手榴弾を投げつけた。
手榴弾は、なぜか空中に舞い上がり、ドッガーンと音を立てて、煙があたりを覆った。
強い風に煽られて、煙が流された後、キラシャとケンの姿はなかった。
「ふざけんなよ! 」
「てめえら、なにしやがったンだ! 」
「くそっ! ワシだかなんだか知らないが、鳥なンて、うち殺しゃいいンだろ? 」
「仕留めて丸焼きでも、してやろうか! どうだ! 」
男達は、鳥に向かって怒鳴りながら、発砲し始めたが、次元が違うかのように、弾は鳥を素通りして、パンパンパーンと上空へむなしく打ち上がった。
上空に舞っていた鳥は、次々に急降下で男達の腕に舞い降り、銃を握る指を激しく突くと、足で銃をもぎ取り、次々に遠くへと飛ばした。
銃を渡すまいと、鳥に向けて撃ち続ける男達。
鳥の集団は、銃以外の武器も男達のベルトやポケットから取り出しては、遠くに放り出し、執拗に男達の身体をくちばしで突き続けた。
タケルは、少年達の突然の変身と、その激しい戦いに驚き、爆発後に消えてしまったキラシャとケンがどうなったのか、状況が把握できずに、ただ茫然としていた。
そんなタケルに向かって、キララが怒鳴った。
「タケル! アンタの方が動きはいいンだよ!
あの子らが、鳥になって武器をもぎ取ってやったンだ!
アンタは鳥にならなくたっていいンだからさ。
あそこまで飛ばしてやるから、早く仕留めてやンな! 」
「だって、キラシャは? ケンだって、どこに行ったんだよ!
話が違うじゃないか! オレ、何のためにここにいるンだ… 」
キララは、そんなタケルに言った。
「安心しな! アンタの友達は、ヒロが元いた場所に戻したンだよ。
そこが安全かどうかは、わかンないけどね。
アンタが、あいつらを全部縛ったら、会わせてやるよ!
大好きな、キラシャにね。
わかったら、早くあの連中を動けないようにしてやれ!
今はまだ優勢だけど、あいつら素手でも人を殺せる連中だからな。
アンタの技がいるンだよ! 相手の息の根を止めるって技がね!
さぁ、タケル! さっさと、行ってやっつけちまえ! 」
キララが呪文を唱えると、タケルの周りの空気が歪んでいった。
気が付くと、タケルの目の前で、元の身体に戻った少年達が、素手で男達と戦っていた。
鳥を撃つつもりが、味方同士で撃ち合いになって、何人かの男が倒れ、呻いていた。
戦っている男の人数は、少年の数より少なくなっていたが、2人でかかっても、投げ飛ばされたり、殴られたりしている。
鳥に身体中突かれていた男達は、血まみれになりながら、それでも子供相手に負けてはいられないと、取っ組み合いの殴り合いが続いた。
「タケル! 早くこいつを縛ってくれよ! 」
「お前なら、とどめが刺せるンだろ? 」
「手が足りないンだ、早くしてくれ! 」
タケルが、あの真っ暗な宇宙船の中で、一瞬で男を倒したのを見ていた少年達は、自分もこれくらいはやれるンだぜと、言いたげにタケルをせかした。
見ると、小さい男の子が、男に腕をつかまれて振り回されていた。
それを見たタケルは、その男の背中に向かって回転しながらジャンプ。その勢いで太い腕を取り、少年を払いのけて、一本背負いで男を倒した。
タケルはすぐに男をうつぶせにして、両腕を後ろで組ませると、動けない状態にして、素早く縄を受け取り、ギュッと手首を縛った。
タケルが、他の少年を押さえつけていた男達の急所を突いて倒し、縄で縛っていると、遠くから防衛軍の輸送機が飛んでくるのが見えた。
「防衛軍だ~ぁ! 」
「カッコイ~イ! 」
「オレらも、あンなのに乗れたらな~! 」
少年達の羨望を受けながら、輸送機から降りた防衛軍の兵士達が、銃を持ってタケルの方に向かってやって来た。
先頭の兵士が、少年達に向かって言った。
「君達の自由は、ここまでだ!
君達を逮捕する。
宇宙から無許可で地球に転送してはいけないという、
コズミック・ルールに違反した。
おとなしく、我々に同行して、取り調べを受けるんだ! 」
兵士の意外な言葉に、少年達と同様、タケルも何も言えず、立ちすくんだ。