12.ホテルの爆破予告
キラシャとケンが、ハッと気が付くと、そこはパールとマイクと一緒にいた部屋だった。
転送する前と同じように、2人はギュッと手を握って立っていた。
転送前のことは、幻のようなひとときでしかなかったが、まだ爆発で耳がキーンとした感じが残っていて、部屋の雰囲気とは違う、異空間にいるような気がした。
頭から砂まみれになっているキラシャとケンに気が付いて、ベッドにいたパールが、心配そうに2人を見て言った。
「キラシャ ダイジョウブ?
タケル アエタノ…? 」
キラシャは、コクリとうなずいたが、すぐに首を振った。
ケンが、キラシャの気持ちを察して言った。
「タケルの姿は、ちょっとだけ見えたンだ。
ただ、いろいろあって、話が全然できなかった…」
パールに心配をかけないよう、それ以上のことは言えなかった。
マイクは、起きてはいるが、ベッドの上で眠そうに壁にもたれていた。
転送してから、そんなに時間がたっていなかったことに気が付き、キラシャはあの出来事は夢だったのだ、と思うことにした。
『もういいンだ。
タケルのことは、忘れた方がいい。
ケンの方が、ずっとあたしのこと思ってくれてたンだ。
あんな危険な目に遭っても、あたしの手を握って、引っ張ってくれたンだもの。
神様は、きっとタケルを忘れさせるために、会わせてくれたンだ。
もう、タケルのことを思って、後ろ向きになるのはよそう。
ケンと一緒に、無事にMFiエリアに帰らなきゃ…』
その時、マイクのお腹が部屋中にギュルル~と鳴り響いて、部屋にいた4人は腹を抱えて笑った。
『マイクがいると、あ~生きてるンだなって、ホッとする…』
マイクは、いつものように自分のバッグからお菓子を取り出し、みんなに手渡しながら言った。
「キラシャモ ケンモ スナダラケ…
ナニシテタノ? 」
マイクの何気ない質問に、2人ともギクッとしたが、ケンが軽い感じで答えた。
「ちょっと、砂遊びしてたンだ。タケルが、引きこもりみたいになっちゃってさ。
話ができなかったから、砂で遊んでたンだ…」
ケンのとっさのウソだったが、マイクは「ヘェ~」とだけ言って、それ以上何も聞こうとはしなかった。
何となく、これ以上聞かない方がいいのかもと、マイク流の気を使ったのかもしれない。
キラシャとケンは、パールからウェット・ティッシュを受け取り、顔の汚れをふき取って、Mフォンで消滅させた。
転送前のマイクの寝姿をからかいながら、4人でお菓子をほおばっていると、急に部屋の外であわただしく人が行き来し始め、ドアを叩く音がした。
「君達も、すぐに支度をして荷物を持って、外に出なさい!
このホテルを爆破するという予告があったそうだ。
いつ起こるかわからないから、一刻も早く逃げないと! 」
デビッドおじさんの声だ。
4人は、急いで身支度をして荷物をまとめ、薄暗い廊下に出ると、デビッドおじさんの後に続いた。