2010-08-03
2.タケルの戦い
『タケル… 助けて…!』
タケルの心に、キラシャの声が響いた。
『キラシャ…? どこにいるンだ…? 』
振り向いても、暗闇で何もわからない。
「悪いけど…、オレの鎖も外れないかな…」
タケルにはかすかな音にしか聞こえないが、何だか聞き覚えのある声のような気もする。
タケルは、非常時のために持っていたペンライトをつけて、声のした方へと手探りで進み、鎖が外れるか試しながら、その顔を確認して声をかけた。
「アニキなの? ナンデ、こんなことになっちゃったの?
「う~ん、君のせいじゃないというと、ウソになるけど…
君を見かけてから心配になってついて行ったンだ。
君にとっちゃ、よけいなお世話かもしれないけどね。
でも、こんなことに巻き込まれるとは、思ってもみなかったよ。
ホンの興味本位だったンだ。
君が宇宙ステーションのホスピタルから、無表情で歩く姿を見かけて…
何かあると思って、ホッとけなかったンだ…」
「オレ、まさかアニキを巻き込むなンて思ってなかったから…。
まいったな。この鎖、オレには外せそうにないヤ…」
突然、ドアが開いて、部屋が明るくなった。
「次は、どれにしようか…?」
タケルは、あわてて誰かの後ろに隠れようとしたが、見つかってしまった。
「こいつ! なんで鎖をはずせたンだ。捕まえて、くくり直してやらぁ~」
その男は、鎖を見つけようと、タケルから視線をそらした。
その瞬間、タケルは戦いを挑んだ。
男の急所をめがけて、蹴りを入れると、背中に周り、もう一度急所で仕留めた。
男が気を失っているのを確認して、タケルは男のポケットを探り、中に入っていたペンチを取り出し、アニキへ向かって投げた。
アニキは、ペンチで自分の鎖をはずすと、残った男の子達の鎖も、次々にはずした。
タケルは、男が動けないように、布を見つけて口を塞ぎ、鎖で身体をしばりつけた。
「これがもっと早くできたら、あの子達も助けられたかもしれないのに…」
タケルをじっと見ていた男の子が、ポツリと言った。
「文句あンだったら、キララ・・・あいや、ウェンディに言えよ。
あいつなら、もっと早く助けられたンだ。
今だって、オレ達のこと笑って見てンじゃないのか? 」
タケルは、見えない空間をにらみながら言った。
『笑っちゃいないけどね。やっと、助ける気になったよ。
アンタが、自分で立ち向かおうって気になったみたいだからね…』
タケルの心に、キララの声が響くと、突然周りの空気が変わった。
そこには、キララといなくなったはずの子供達がいた。
子供達は、不満いっぱいの顔をしていた。
「ウェンディったら、ずるいンだ。
オレ達、銃で撃たれるギリギリまでホッとかれたンだもン…」
「あったりまえだよ。簡単に助けちゃ、これからがもたないからね。
今は、こうやって無事でいられるけど、ここはここでしかないンだ…」
「ここでしかないって…?」
タケルはどういう意味かわからず、怒ったように聞いた。
「ここは、宇宙船とは別モンな場所なンだ。
あいつらと戦わなきゃ、宇宙船はアタシ達の思い通りに動かないンだ。
どうする? アンタ達、あいつらと戦えるかい?」
「戦わなきゃ、どうなるンだ。また、宇宙ステーションに戻れるンなら、オレ戦わないよ」
いつの間にか、ニックも物憂げな表情で現れ、周りの子供達を見やった。
この状況に、タケルは頭をフル回転し始めた。
『いったい、オレはどうすればいいンだ。
キララはどこへ行こうとしてるンだ?
また、オレをワナにかけよってのか?
誰か、オレを助けてくれる奴って、いなかったっけ
そうだ、ヒロ…、あいつなんか言ってたよな…
そうだ、メール…
オレのMフォンはどこナンだ…? 』