2010-04-01
7.迫る危機
「キララ、いったいどこにいるンだ!
いつまでも隠れてないで、早く出て来いってンだ!」
タケルは、あまりの息苦しさにこらえきれず、MFi語で思いっきり怒鳴った。
その時、入り口のドアが開いて、真っ暗だった部屋に明かりがついた。
「いいか、おまえらよく聞け!
ここにはよけいな燃料がないンだ!
いらない奴からとっとと始末してやる。残った奴は、おとなしくしてろ!」
悪党の1人だろうか。近くにいた少年を1人引きずり出すと、明かりを消し、ドアをしめた。
隣の部屋で、低い怒鳴り声が響き渡り、少年のおびえた声がして、しばらく問答が続いた。
タケルと同じ部屋で、ギュウギュウ詰めに縛られている少年達も、苦しそうに息をしながら、聞き耳を立てた。
「ガンバレ…」
「あンなやつらに負けるな…」
「ウェンディ、お願いだから、早く助けてあげて…」
「泣くんじゃねーぞ! 」
少年達の声は、悔しそうだし、小さい子は泣いているが、ウェンディが必ず助けてくれると信じているのか、まだ希望は捨ててないようだ。
低い怒鳴り声は、だんだん荒々しくなり、「これじゃ、役にたたねぇ、始末しろ!」と宇宙船中に響いた。
少年の甲高い「助けて!」という声をかき消すように、ブォーンと光線銃を撃ったような音がして、隣の部屋は静かになった。
宇宙で暗躍する海賊の特殊な光線銃は、当たった人が溶けて消えてゆく、というウワサをタケルは聞いたことがある。
「おうっ…」という、隣の部屋にいる男達の声が聞こえ、ざわざわしているようだが、少年の気配はない。
しばらくして、またドアが開いた。
「いいか。厄介者は、始末するぞ。オレ達は、マネーに縁のない奴ぁいらねぇンだ。
とっとと消えちまえってンだ。
始末されたくなかったら、とうちゃん、かぁちゃんに助けてもらいな!
…次は、こいつか。いてっ、手をかむな! おとなしく来やがれ…」
1人ずつ、あらゆる抵抗をしながら、少年達は引きずられて行った。
2人目、3人目、4人目・・・。誰も、戻って来ない。
ドアが開くたびに、少しは息苦しさが和らぐのだが、部屋の空間が広くなるほど、少年達の絶望感は増した。
「やっぱり、ウェンディは助けてくれないのか…。
一緒にゲームしてた時は、楽しかったのにな…。
あの宇宙船に閉じこめられた時も、
ウェンディが持ってきた食べ物を分け合って食べたっけ…
みんないい奴だったのに…
ウェンディは、自分だけ地球に行きたかったのか…
こんなことになるなんて…
つまンなくても、メンドーでも…
家族といた方が良かったのかな…」
静かな部屋だからか、タケルのそばにいる少年が、弱音を吐いているのが聞こえた。
『パパとママは、今ごろ火星に着いているんだろうか?
オレも一緒に行った方が、良かったのかなぁ~』
タケルも後悔したが、危機は刻々と迫っている。
そんな甘い感傷に浸っている時ではない。
「あきらめンな! …オレは、あきらめないぞ!
ウェンディが出て来ないなら、オレが何とかしてやる。
こんなショボイ鎖なんか、はずしちまえばいいンだ、クソ~」
タケルはできるだけ空気を吐き出し、身体をよじって、鎖から抜け出した。