2010-07-23
1.家族への思い
キラシャ達の乗った車は、長い長い時を経て、ようやく終点に着こうとしていた。
気配を感じてか、子供達もみな目を覚まして、車の遠く先を見やった。
目的地のドームに着くまでは安心ができないので、子供達は暑くても重装備に耐えていた。
突然、エア・カーの後方で、耳が痛くなるくらいの爆発音が鳴り響いた。
後ろに座っていたケンとマイクは悲鳴をあげて、頭を抱えてしゃがみこんだ。
立て続けに、エア・カーのそばで爆発音が起こった。
「オレ達、狙われてる? 」
ケンが前方を指して、大声で言った。
キラシャは、黙って横にいるパールの腕を握りしめた。
遠方からこっちへ、全速力で向かってくるエア・カーが何台か、見えてきた。
「タクサン テキ イル。バック バック・・・」
マイクが叫ぶ。
急ブレーキをかけた運転手の青年と、デビッドおじさんは緊張した顔で、前方の様子を伺いながら、Mフォンでどこかと連絡を取りながら、方向転換した。
ドームとは逆の方向に、スピードを上げ、追手を逃れる場所はないかと、森へ続く道に入り、地面からグゥーンと垂直に傾いて浮かぶと、そのまま木々の間を走り続けた。
エア・カーの中では、座席のベルトで固定はされているが、木にぶつかりそうになるたびに子供達の悲鳴が上がった。
仮想遊園地のジェットコースターより数倍の、目の前に突然やってくる恐怖に、運転するカールのハンドルさばきの正確さを信じて、無事に逃げられることを祈るしかない。
そこへ、戦闘機の飛んでくる音が聞こえた。
「あっ、コズミック防衛軍のアフカの風だ!」
アフカ・エリアで活躍している戦闘機を見つけて、ケンが叫んだ。
戦闘機は、キラシャ達の上空をあっという間に通り過ぎると、追って来るエア・カーを攻撃し始めた。
追っ手も、木と木の間をすり抜けながら、攻撃をかわして追いかけてくる。
一台、二台と、車に砲撃が当たり、ボガーンと爆音がして、炎があがった。
エア・カーは、木々をギリギリに避けながら高速飛行すると、何とか追っ手との距離を離すことができたようだ。
ただ、エア・カーに乗ったままだと、位置をすぐに特定して狙われるので、かえって危険だ。
大きな岩穴があるのを見つけ、いったんそこへ避難しようと、デビッドおじさんは言った。
低い場所に止めたエア・カーから降り、周りに積もっていた枯れ葉を振りかけ、岩穴に向かって、デビッドおじさんはオパールおばさんを抱きかかえて、全員が走って逃げた。
キラシャはケンと、マイクはパールと、お互いをかばい合うように肩を寄せ合って走った。
爆音が鳴り響く中、キラシャは心の中で叫んでいた。
『タケル…助けて…。今はケンのそばじゃ、死にたくないよ~』
ケンには悪いが、キラシャにとって、タケルが一番守って欲しい男の子なのだ。
青年とおじさんは、子供達とオパールおばさんを奥に隠れさせると、敵がいつ来ても攻撃できるよう銃を構えた。
息が詰まるほど、緊張した時が流れた…。
しばらくして、エア・カーの止まる音がした。
おじさんは、サッと銃をその方向に向けた。
しかし、おじさんのMフォンにコズミック防衛軍からの電話があり、襲ってきた車は、すべて大破したとのこと。
岩穴から出ると、防衛軍の服を着た兵士の笑顔と、軍旗がなびくエア・カーが見えた。
防衛軍の誘導で、再びドームへ向かっていると、砲撃で爆発したエア・カーだろうか、森のあちこちで炎と白煙が上がっているのが見えた。
「どういう目的で私達に攻撃したのかわからないが、防衛軍が危険とみなしたものは、有無を言わさず攻撃対象となるのだ…」
デビッドおじさんは、淡々と言った。
「でも、コズミック防衛軍が攻撃してくれなかったら、ボク達、殺されてたかもね。
こんな怖い思いしたの初めてだよ…」
ケンは、ホッと胸をなでおろした。
そのとき、パールがポツンと言った。
「アノ ヒト タチモ… カゾクガ イル…」
キラシャは、それを聞いて胸がキュンと痛くなった。
『そうだよね。誰だって、みんな家族がいるンだよね…
あたし達を殺そうとした人達にも…
でも…もし、あたしがここで死んじゃってたら、パパとママはすごく悲しむよね…』
キラシャは、キャップ爺が天国へ行ってしまった日のことを思い出した。
『家族が急にいなくなると、ホントにつらいよね。
タケルが急にいなくなった時だって、つらかったもン…
タケル…、今ごろ、どこで、何をしてるンだろう…』