2011-12-01
2.再会
ところどころに、爆発で破壊された窓や、焦げて崩れた壁が続く街並みを眺めながら、キラシャ達は重い足取りで奥へ奥へと進んだ。
小さなホスピタルの前で、先に歩いていたパールの民族の青年が、立ち止まった。
「確か、ここだったな…」
デビッドおじさんも、荒く刻まれているホスピタルの名前を確認した。
パールは、いてもたってもいられないような、それでも、不安で助けを求めるような顔で、キラシャを見つめた。
入り口から奥に進むと、板のような壁だけで仕切られている部屋の横を通り過ぎ、青年の手招きで、ひとつの部屋に入るよう促された。
その部屋には、ベッドに横たわった白髪の男性と、看病疲れからか、頬のこけた白髪交じりの美しい女性が、そばのいすに寄りかかっているのが見えた。
オパールおばさんにも、よく似たその女性は、キラシャ達に気がつくと、あわてて自分の髪の毛に手を当てながら、いすから立ち上がった。
パールが、ベッドにかけよりながら叫んだ。
「パパ ママ タダイマ!
ワタシ パール デス!」
パールは、涙をぽろぽろ流しながら、その女性の胸に抱きついた。
「ママ…。
ワタシ パール。
ワカル?
カオ チガウ ケド…。
ワタシ パール ナノ…」
その女性も、しっかりとパールを抱きしめながら、精一杯の涙声で言った。
「もちろん、わかるわよ。私のパール。大事な私の宝物…」
パールとママが泣き止むまで、周りはじっと見守った。
パールは、この時のために必死で生きてきたンだと、キラシャはしみじみ思った。
パールが、ようやくママの胸から離れて、笑顔でキラシャ達を振り返ったので、改めてママに紹介をしてもらった。
パールは、まずキラシャを“命の恩人”と、ママに伝えた。
キラシャは照れたが、パールは真剣な顔をしてこう言った。
「キラシャト オパール オバサン
ワタシニ シンジャ ダメ
イキナサイ テ オコルノ…。
ワタシ トテモ クルシカッタ。
ダカラ シニタイ オモッタ。
デモ フタリトモ イッショニ イキル イッテクレタ。
ウレシカッタ…。
ダカラ パパト ママニ アエタ…」
キラシャは、パールの言葉を聞いていたら、当時のことを思い出して、涙が出てきた。
『あン時は、あたしもつらかったンだぁ。
タケルに会いたくても、会えなくて、一番つらかったンだよね…。
もし、パールを助けたいって思わなかったら、あたしだって、どうなってたか…』
でも、すぐにケンとマイクの漫才の掛け合いが始まって、キラシャは涙を流しながら、2人の激しい突っ込みとボケのスクールネタに、ゲラゲラと笑い転げていた。
オパールおばさんも、お姉さんに無事にパールを送り届けることができて、ホッとしたようだ。
姉妹はお互いを抱きしめ、長い間の疎遠をわびながら、いたわりの声を掛け合った。
少し落ち着いてから、パールのママの話を聞いた。
ベッドで眠っているパールのパパは、意識がないまま眠り続け、生きているのが奇跡と医療技師からも言われているという。
「きっと、パールが帰って来た時に、
必ず生きて迎えてあげよう、という思いがあったのだと思います。
パールにとっても、それが最良の出迎えだと信じて…
主人の大切な宝が、自分の目の前で焼き殺されようとしたのです。
自分が身代わりになってでも、という思いは私も同じです。
パールを私のふるさとへ送ってからも、
私は火傷に苦しむ主人のそばに居て、
2人でパールの帰りを待つことが、私のできる全てでした。
もしパールに何かあって、帰って来れなかったら…
私は主人とともに、死のうと思っていました…」
パールは、ママの話を聞きながら、何度もパパの頬にキスをした。
「ネェ オネガイ
パパ メヲ アケテ
ワタシヲ ミテ…
パールガ カエッテ キタヨ…
パパモ ママモ パールハ ダイスキダヨ…」