2011-06-12
4.危険な賭け
タケルがMフォンを必死でさがしているのに気づいたキララ(ウエンディ)は、タケルの心に突き刺さるような声で怒鳴った。
「タケル! ここじゃアタシのルールに従いな!
でないと、みんなが困ることになるンだ。
アタシが良いって言うまで、これはアンタに渡せない! 」
キララはタケルをグッとにらみながら、Mフォンをちらりと見せた。
タケルは、Mフォンへ手を伸ばそうとしたが、キララの魔術で金縛りに遭ったときのことがフラッシュバックして、すぐに身体が固まってしまった。
『ナンて奴なンだ。どれだけオレを利用しようってのか…。
クソ~ッ、キラシャは、オレの言うことちゃんと聞いてくれたのに!
オマエとは違うンだ!
人の弱みに付け込んで、利用するだけ利用しやがって!
こんな化けもンに、最初から関わらなきゃ良かったンだ…』
キララは、タケルには目もくれず、意識を集中して宇宙船の様子をみんなに見せた。
「いいかい? 奴らはアタシらが消えても、この宇宙船のどこかにいることはわかってる。
これからどうするか、話し合ってるところだ」
タケル以外の男の子達は、悪党達の話に聞き入った。
最初は消えた子供達を見つけようと、意見を言い合ったが、捕まえる方法がわからない。
それより、燃料や食料が少ないことを気にし出すと、船をストップさせ、その問題をどう解決しようかと、相談を始めた。
出発前のステーションでの騒ぎが通報されたと知らせがあって、宇宙パトロール隊が捜索していることも気にしているようだ。
ここに長くとどまっていてはまずいと、船長らしき人物が言った。
そこへ、この宇宙船のカメラが、近くを通り過ぎようとする別の小さな宇宙船を映し出した。
「こいつを利用しようぜ!」
すぐに、SOSの送信をするように、船長は操縦士に命令した。
宇宙航行のルールとして、SOSを受信した近くの宇宙船は、近くを航行する宇宙パトロール隊へ報告する義務とともに、急を要する場合には救助に向かう義務がある。
今のところ、この近くに宇宙パトロール隊は見当たらないようだ。
しばらくして、船内の様子を知らせるように求める返信があった。
「船内で火災が起こって、大やけどの重症人が出たと伝えろ!
船も今は動かせないから、そいつを一刻も早く、近くの宇宙ステーションまで乗せて行ってくれと頼め!
あとは、いつものようにな! 」
悪党達は、ニヤリと笑って目配せをした。
それまでじっと聞いていた子供達は、どうしようとお互いを見つめ合った。
キララは、小さな宇宙船に意識を集中させて、内部の様子を映し出した。
タケルは、宇宙パトロール隊の宇宙船じゃないか、と密かに期待していた。
ところが、キララが映し出した3D動画は、宇宙旅行を楽しむ団体という感じだ。
子供連れの家族もいて、子供達が親に甘える姿も映し出された。
その映像をじっと見つめる少年達の目は、離れた所にいる自分の家族を思い出して、うらやましそうにも見えた。
「悪党達の思うようには、絶対させないよ!」
キララは、怒って言った。
「助けなきゃ…」
「でも、どうやって?」
「あいつらより先に、あの船に乗り込むンだ!」
「どうやって…?」
「行くよ! 戦う気持ちはあるかい? 」
「あるさ! 」
「それさえあれば、何とかなるさ」
「でも今度は、ホントに殺されるかも…」
「そんな弱気じゃ、ダメだよ! 」
「じゃぁ、オレ生きてる方に賭けるよ! 」
「いくら? 」
「オレの財産全部! 」
「勝ったら、いくらもらえるンだ? 」
「生き残った奴が、他の奴の財産全部を山分け! 」
金縛り状態のタケルは、色めきたっている他の子供達の中に入ることはできない。
それでも、このまま悪党の犯罪を見過ごしにして良いのか…。
タケルにも、自分達が何をするべきか、わかっていた。
『あの宇宙船に乗ってる人達を助けられるのは、オレ達だけなンだ…』
でも、それを実行するのは、危険な賭けでもあった。