2012-02-12
3.信じてもらえるには…
タケルの意識が遠のいた、ほんのわずかな時間に、宇宙空間での瞬間移動が行われたようだ。
周りの雰囲気が変わった、とタケルが思ったときには、目的の宇宙船の中にいた。
もっとも、タケルのいる空間は、宇宙船の中とは違う次元にあるらしく、ぼんやりした船内を見ることはできても、船内の人と話をすることはできないようだ。
『これって、ひょっとして異次元空間ってやつかぁ。そういえば、ヒロも異次元の話になると、むちゃくちゃ張り切って議論してたっけ。こりゃ、おもしろいことになるかもしれない…』
この不思議な空間にいることに、タケルは好奇心を感じ始めた。
タケルの心の中で、キララの声がした。
『それじゃ、宇宙船の部屋に移るよ。
乗組員に気づかれたら、悪党のこと、説明してやンな!』
あたりが明るくなり、男の子達は休憩所として使われているらしい、少し広い部屋に現れた。
ゲームの途中だったのか、配られた磁石のカードが、テーブルに張り付いていた。
たまたま、その部屋へ入ってきた2人の乗組員が驚いて、
「誰だ! 君達は!」と叫んだ。
『そりゃそうだろう…。
オレだって、宇宙船の中で、いきなり目の前に知らない人間が現れたら、びっくりするよ…』
タケルは、意外なくらい冷静でいられたが、急がないとこの宇宙船の人達が、悪党達の餌食にされてしまう。
「あの…、突然なことで、びっくりさせてごめんなさい。
でも、緊急事態なんです。僕の言うこと、信じてください! 」
タケルは、なるべくていねいに、目の前にいる乗組員に、共通語で説明を試みた。
他の子供達は、真剣な顔をしてタケルを見守った。
あの宇宙船に、自分達を誘拐した悪党の仲間が乗っていて、今そこから転送して逃げてきたこと。
ボックスを使わずに転送できたのは、女の子に特殊な能力があったからということ。
あの悪党達の言っている、宇宙船の火事は起きていないこと。
けが人を運んでほしいというのはウソで、
この宇宙船を乗っ取ろうとしているのかもしれないということ…。
共通語の苦手なタケルが、言葉を間違えていないか確かめながら、ていねいに話を続けた。
最初は、だまって聞いていた宇宙船の2人の乗組員。
しかし、1人が途中から疑いの表情をあらわにして、口をはさんできた。
「それじゃ聞くけど、おまえらはなぜ悪党に誘拐されたんだ。
女の子にそんな特殊な能力があるんなら、もっと早くに逃げられたんじゃないか?
それが言えないようじゃ、おまえらの話も信用できないね。
でたらめな話で、救助活動を妨害されても、こっちはルール違反の罰金がかかってるんだ。
宇宙パトロール隊が援護に来るまでは、よほどの事情がないと断れないからなぁ…」
「なぁ…」
乗組員の2人は、顔を見合わせてうなずいた。
タケルは、言わないといけないことで頭がいっぱいだったのに、想定外の質問をされてしまい、頭が真っ白になった。
そんなとき、ニックが声を荒げて言った。
「だから、オレ言っただろ。ラミネスにいた方が、絶対良かったんだ。オレひとりでも帰るよ。
おじさん達、悪いけどオレだけ、あの宇宙ステーションまで連れてってくれない?
こいつら、地球に行きたいって聞かないんだ。頼むよ~」
ニックの勝手な言い草に、他の少年のひとりが自分達の立場を忘れて、ブチっと切れてしまった。
「なんだと~? おまえは、いつもそうやって自分勝手に言いたいこと言いやがって!
オレ達がやろうとしてること、平気で台無しにしやがンだ!!
てめえ黙ってろ!」
見も知らぬ宇宙船の休憩室で、少年達の殴り合いのケンカが始まってしまった。
「ちょっと、待てよ!
こんなことじゃ、ここの人に危険が迫ってること、わかってもらえないじゃないか!
ケンカはまずいよ。
あぁ、どうしたらいいんだ! キララ!!」
タケルは、キララに助けを求めた。