未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第18章 見えない明日 ③

2021-04-06 17:22:53 | 未来記

2012-02-12

3.信じてもらえるには…

 

タケルの意識が遠のいた、ほんのわずかな時間に、宇宙空間での瞬間移動が行われたようだ。

 

周りの雰囲気が変わった、とタケルが思ったときには、目的の宇宙船の中にいた。

 

 

もっとも、タケルのいる空間は、宇宙船の中とは違う次元にあるらしく、ぼんやりした船内を見ることはできても、船内の人と話をすることはできないようだ。

 

『これって、ひょっとして異次元空間ってやつかぁ。そういえば、ヒロも異次元の話になると、むちゃくちゃ張り切って議論してたっけ。こりゃ、おもしろいことになるかもしれない…』

 

この不思議な空間にいることに、タケルは好奇心を感じ始めた。

 

タケルの心の中で、キララの声がした。

 

『それじゃ、宇宙船の部屋に移るよ。

 

乗組員に気づかれたら、悪党のこと、説明してやンな!』

 

あたりが明るくなり、男の子達は休憩所として使われているらしい、少し広い部屋に現れた。

 

ゲームの途中だったのか、配られた磁石のカードが、テーブルに張り付いていた。

 

たまたま、その部屋へ入ってきた2人の乗組員が驚いて、

 

「誰だ! 君達は!」と叫んだ。

 

『そりゃそうだろう…。

 

オレだって、宇宙船の中で、いきなり目の前に知らない人間が現れたら、びっくりするよ…』

 

タケルは、意外なくらい冷静でいられたが、急がないとこの宇宙船の人達が、悪党達の餌食にされてしまう。

 

「あの…、突然なことで、びっくりさせてごめんなさい。

 

でも、緊急事態なんです。僕の言うこと、信じてください! 」

 

タケルは、なるべくていねいに、目の前にいる乗組員に、共通語で説明を試みた。

 

他の子供達は、真剣な顔をしてタケルを見守った。

 

あの宇宙船に、自分達を誘拐した悪党の仲間が乗っていて、今そこから転送して逃げてきたこと。

 

ボックスを使わずに転送できたのは、女の子に特殊な能力があったからということ。

 

あの悪党達の言っている、宇宙船の火事は起きていないこと。

 

けが人を運んでほしいというのはウソで、

 

この宇宙船を乗っ取ろうとしているのかもしれないということ…。

 

 

共通語の苦手なタケルが、言葉を間違えていないか確かめながら、ていねいに話を続けた。

 

最初は、だまって聞いていた宇宙船の2人の乗組員。

 

しかし、1人が途中から疑いの表情をあらわにして、口をはさんできた。

 

「それじゃ聞くけど、おまえらはなぜ悪党に誘拐されたんだ。

 

女の子にそんな特殊な能力があるんなら、もっと早くに逃げられたんじゃないか?

 

それが言えないようじゃ、おまえらの話も信用できないね。

 

でたらめな話で、救助活動を妨害されても、こっちはルール違反の罰金がかかってるんだ。

 

宇宙パトロール隊が援護に来るまでは、よほどの事情がないと断れないからなぁ…」

 

「なぁ…」

 

乗組員の2人は、顔を見合わせてうなずいた。

 

 

タケルは、言わないといけないことで頭がいっぱいだったのに、想定外の質問をされてしまい、頭が真っ白になった。

 

そんなとき、ニックが声を荒げて言った。

 

「だから、オレ言っただろ。ラミネスにいた方が、絶対良かったんだ。オレひとりでも帰るよ。

 

おじさん達、悪いけどオレだけ、あの宇宙ステーションまで連れてってくれない?

 

こいつら、地球に行きたいって聞かないんだ。頼むよ~」

 

 

ニックの勝手な言い草に、他の少年のひとりが自分達の立場を忘れて、ブチっと切れてしまった。

 

「なんだと~? おまえは、いつもそうやって自分勝手に言いたいこと言いやがって!

 

オレ達がやろうとしてること、平気で台無しにしやがンだ!!

 

てめえ黙ってろ!」

 

見も知らぬ宇宙船の休憩室で、少年達の殴り合いのケンカが始まってしまった。

 

 

「ちょっと、待てよ!

 

こんなことじゃ、ここの人に危険が迫ってること、わかってもらえないじゃないか!

 

ケンカはまずいよ。

 

あぁ、どうしたらいいんだ! キララ!!」

 

タケルは、キララに助けを求めた。

コメント
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