学園に着くと、校門の前はかなり異様な雰囲気に包まれていた。マスコミのカメラマンの姿がたくさんあったのだ。いくらオレたちが世間に注目されてるとは言え、これはちょっと多過ぎのような… と、ふと、カメラマンたちがオレととも子に気づくと、ラグビーのスクラムのようにオレととも子をさっと囲んだ。
「ねえ、キミたち、恋人同士なんでしょ?」
「毎日キスしてるんだって?」
な、なんなんだよ、こいつら?…
「あんたら、何やってんだ」
我が学園の先生たちがものすごい勢いで飛び出してきて、カメラマンたちを押し出しにかかった。
「邪魔すんな!!」
「報道の自由だ!!」
カメラマンたちから怒号が飛んだ。先生たちはそれを無視するようにオレととも子の手を取り、むりやり引っ張った。
「ちょっと来い!!」
オレととも子は、何が起きてるのわからないまま、指導室と呼ばれる部屋に押し込められた。
※
部屋の中では、オレととも子はソファの長イスに座らされ、数人のガタイの大きな先生が囲んだ。あまりの威圧ぶりに、とも子は泣き出しそうになってた。
生活指導の先生が切り出した。
「おまえら、毎日デートしてるんだって? さっきマスコミから取材が来たんだ」
ち、見られてたのか…
オレたちを担任してる先生が続いた。
「いったいどーゆーつもりなんだ?」
「どーゆーつもりって… とも子とデートしちゃいけないんですか?」
「当たり前だ。おまえら、高校生だろ!!」
「それがどーしたってゆーんですか? オレもとも子も、もう18ですよ。何やったって、自由でしょ!?」
「ともかく、高校生でいる間は、デートすんな!!」
「ど、どうして?」
「おまえら、高校球児だろ? 高校球児が不純なことしていいと思ってんのか!? みっともないだろ!!」
はぁ、デート程度で不純な行為だと?… さすがのオレも、これにはプツンと来た。こうなりゃ、売り言葉に買い言葉だ。
「ふっ、じゃ今すぐ辞めてやるよ」
「なんだと…」
「今すぐ野球部辞めてやるって言ってんだよーっ!!」
さっきから勢いだけでしゃべってた生活指導の先生も、さすがにこれには絶句したようだ。他の先生の顔も、急にこわばり出した。
オレは追い打ちをかけるように、怒鳴ってやった。
「オレが野球部辞めると、きっとも子も辞めるぞ。甲子園どころじゃなくなるんだぞ!! それでもいいのか?」
しかし、これは逆効果だった。生活指導の先生が、いきなしオレの胸倉を掴み、ねじ上げてきたのだ。
「てめー、何様のつもりだ!!」
さすがは柔道部の顧問だ。オレは身動きどころか、呼吸もできなくなってしまった。とも子が慌ててその手を引き離そうとしたが、とも子の手じゃ、とてもじゃないが歯が立つ相手ではなかった。すると、なんととも子は、その手にガブッとかみついた。さすがにこれはきいたらしく、生活指導の先生はオレを離したが、あろうことか、指導担当の先生は、次の瞬間、振り払うようにとも子を殴り飛ばした。
「何すんだっ、このクソガキーっ!!」
小さい身体のとも子は、無残にも書棚に叩きつけられた。
「くそーっ!!」
オレは食ってかかろうえとしたが、他の先生に両肩を押さえ付けられ、床に這わされてしまった。
「静かにしろっ!!」
な、なんなんだよ、いったい!? オレととも子がいったい何したってゆーんだよ!!…
と、そのとき、初老の女性の怒号が響いた。
「やめなさい!!」
それは、部屋に入ってきたばかりの園長の声だった。とたんにオレを押さえ付けていた数本の腕の力が緩み、オレの身動きは自由になった。
園長先生は生活指導の先生にビンタを食らわした。
「なんですか、この騒ぎは!?」
「こ、こいつら、毎日デートしてやがったんです」
園長はあきれたって顔をして、生活指導の先生とその背後にいる先生たちをにらんだ。
「この子たち、もう18でしょ? デートしてどこがいけないんですか?」
別の先生が反論した。
「お、お言葉ですが、、こんな大事なときにデートなんかされたら、甲子園行きは絶望的になってしまいます」
園長先生はとも子に白いハンカチを手渡した。どうやらとも子は、鼻血を出してるようだ。
「なんてひどいことを…」
園長は再び先生たちをにらんだ。
「この中に桐ケ台高校戦に応援に行った人はいますか?」
先生たちはだれ1人返答しなかった。当たり前だ。監督とタクシーに同乗した先生を除けば、だれ1人球場に来なかったんだから。
「初戦はだれも応援してなかったのに、甲子園が見えてくると、とたんにがんじがらめにするなんて、虫がよすぎます!!」
園長はオレととも子を呼んだ。
「2人とも、来なさい」
オレととも子は園長に導かれ、部屋を出た。部屋を出る瞬間、先生たちの視線を背中に感じたが、無視するようにバタンとドアを閉めてやった。
※
「大丈夫?」
園長は廊下を歩きながら、とも子に話しかけた。それに対しとも子は、いつものにこっとした笑顔で返事をした。どうやら鼻血はごく微量だったらしい。園長から借りたハンカチは、それほど汚れてなかった。
「まったく、なんでこんなに学園の中も外もギスギスしなくっちゃいけないの?…」
「す、すみません…」
オレは別に悪いことしたわけではないのだが、反射的に謝ってしまった。
「ふふ、あなたは何も悪くないわよ」
園長は当たり前で期待どおりの答えを返してくれた。そのとき、ふとオレの脳裏にある疑問が浮かんだ。おじいちゃんが甲子園に行ったとき、やっぱりこんなピリピリした雰囲気になったのだろうか? おじいちゃんの幼なじみの園長なら、なにか知ってるかも?
「おじいちゃんが甲子園に行ったとき、やっぱりこんなピリピリした雰囲気になったんですか?」
「さあ、どうだったんでしょうね?… 私、高校は別だったから、ちょっとわからないわ」
オレは続いて浮かんだ質問を園長にぶつけてみた。
「おじいちゃんが甲子園に行ったとき、おじいちゃんにも彼女、いたんですか?」
園長はちょっと間を空け、そして並んで歩くとも子を見た。
「いたらしいわよ。この子みたいなかわいい女の子が」
もしかしたら、ちょっと失礼なこと訊いちゃったのかも? でも、おじいちゃんにもとも子みたいな彼女がいたなんて、奇遇だなあ…
※
園長が廊下の突き当たりのドアを開けた。そこには1台の商用のワンボックス車が駐まっていた。園長はその中に入るように指示した。
「2人とも、これに乗って」
「で、でも、授業が…」
「今日はもう授業どころじゃないでしょ? 今日はもう帰って、鋭気を養いなさい。外にマスコミが張ってるようだけど、これに乗れば、だれにも気づかれずに外に出られるはずです」
園長の心遣いはうれしいが…
「で、でも、オレたち、どこに身を隠せばいいのか?…」
「澤田さんのマンションがあるでしょ」
オレは呆気にとられてしまった。あの部屋でとも子と籠もれとは…
園長は説明が必要になったと思ったらしく、とも子を横目で見ながら話しを始めてくれた。
「実はこの子にはかなり特殊な事情がありまして、それで私が身柄を預かることになりました。あの部屋も、実は学園が借りてるものなんです」
えっ、あの部屋は学園が借りてるもの?… 園長の説明は、不可解で唐突なものばかりだった。オレの頭は混乱してしまい、何も言えなくなってしまった。
ワンボックス車の後部スライドドアが開いた。
「さあ、早く中に入って」
オレととも子は園長に言われるまま、ワンボックス車に乗り込んだ。
「澤田さんを大事にしてね。お願いよ」
園長がそう言い終わると、ワンボックス車は走りだした。
※
「もう顔を上げても大丈夫だよ」
運転手さんのその呼びかけにオレは顔を上げると、オレたちを乗せたワンボックス車は、いつも通学で使ってる道路を走ってた。横に座ってたとも子が、オレの顔を見て、いつものにこっとした笑顔を見せた。しかし、オレの頭の中は、園長の不可解な説明で混乱していた。ともかく、整理し理解しないと…
オレはとも子に話しかけた。
「園長とは、昔からの知り合いだったのか?」
とも子は首を縦に振った。
「オレとの関係も知ってるのか?」
とも子はまた首を縦に振った。そして、筆談用のノートを取り出し、こう書いた。
「毎日デートしてることも、キスしてることも知ってます」
そこまで知られてたとは… たぶんとも子が逐一報告してたんだろうな…
しかし、オレがあの部屋に泊まるってことは、オレととも子が1つになってもいいと言ってるようなものだぞ。いくらおっとりとしてるあの園長でも、それくらいはわかってるはず。いや、もしかしたら、すでに行くところまで行ってると思ってんのかも? ほんとうにあの人は教育者かいな?…
「ねえ、キミたち、恋人同士なんでしょ?」
「毎日キスしてるんだって?」
な、なんなんだよ、こいつら?…
「あんたら、何やってんだ」
我が学園の先生たちがものすごい勢いで飛び出してきて、カメラマンたちを押し出しにかかった。
「邪魔すんな!!」
「報道の自由だ!!」
カメラマンたちから怒号が飛んだ。先生たちはそれを無視するようにオレととも子の手を取り、むりやり引っ張った。
「ちょっと来い!!」
オレととも子は、何が起きてるのわからないまま、指導室と呼ばれる部屋に押し込められた。
※
部屋の中では、オレととも子はソファの長イスに座らされ、数人のガタイの大きな先生が囲んだ。あまりの威圧ぶりに、とも子は泣き出しそうになってた。
生活指導の先生が切り出した。
「おまえら、毎日デートしてるんだって? さっきマスコミから取材が来たんだ」
ち、見られてたのか…
オレたちを担任してる先生が続いた。
「いったいどーゆーつもりなんだ?」
「どーゆーつもりって… とも子とデートしちゃいけないんですか?」
「当たり前だ。おまえら、高校生だろ!!」
「それがどーしたってゆーんですか? オレもとも子も、もう18ですよ。何やったって、自由でしょ!?」
「ともかく、高校生でいる間は、デートすんな!!」
「ど、どうして?」
「おまえら、高校球児だろ? 高校球児が不純なことしていいと思ってんのか!? みっともないだろ!!」
はぁ、デート程度で不純な行為だと?… さすがのオレも、これにはプツンと来た。こうなりゃ、売り言葉に買い言葉だ。
「ふっ、じゃ今すぐ辞めてやるよ」
「なんだと…」
「今すぐ野球部辞めてやるって言ってんだよーっ!!」
さっきから勢いだけでしゃべってた生活指導の先生も、さすがにこれには絶句したようだ。他の先生の顔も、急にこわばり出した。
オレは追い打ちをかけるように、怒鳴ってやった。
「オレが野球部辞めると、きっとも子も辞めるぞ。甲子園どころじゃなくなるんだぞ!! それでもいいのか?」
しかし、これは逆効果だった。生活指導の先生が、いきなしオレの胸倉を掴み、ねじ上げてきたのだ。
「てめー、何様のつもりだ!!」
さすがは柔道部の顧問だ。オレは身動きどころか、呼吸もできなくなってしまった。とも子が慌ててその手を引き離そうとしたが、とも子の手じゃ、とてもじゃないが歯が立つ相手ではなかった。すると、なんととも子は、その手にガブッとかみついた。さすがにこれはきいたらしく、生活指導の先生はオレを離したが、あろうことか、指導担当の先生は、次の瞬間、振り払うようにとも子を殴り飛ばした。
「何すんだっ、このクソガキーっ!!」
小さい身体のとも子は、無残にも書棚に叩きつけられた。
「くそーっ!!」
オレは食ってかかろうえとしたが、他の先生に両肩を押さえ付けられ、床に這わされてしまった。
「静かにしろっ!!」
な、なんなんだよ、いったい!? オレととも子がいったい何したってゆーんだよ!!…
と、そのとき、初老の女性の怒号が響いた。
「やめなさい!!」
それは、部屋に入ってきたばかりの園長の声だった。とたんにオレを押さえ付けていた数本の腕の力が緩み、オレの身動きは自由になった。
園長先生は生活指導の先生にビンタを食らわした。
「なんですか、この騒ぎは!?」
「こ、こいつら、毎日デートしてやがったんです」
園長はあきれたって顔をして、生活指導の先生とその背後にいる先生たちをにらんだ。
「この子たち、もう18でしょ? デートしてどこがいけないんですか?」
別の先生が反論した。
「お、お言葉ですが、、こんな大事なときにデートなんかされたら、甲子園行きは絶望的になってしまいます」
園長先生はとも子に白いハンカチを手渡した。どうやらとも子は、鼻血を出してるようだ。
「なんてひどいことを…」
園長は再び先生たちをにらんだ。
「この中に桐ケ台高校戦に応援に行った人はいますか?」
先生たちはだれ1人返答しなかった。当たり前だ。監督とタクシーに同乗した先生を除けば、だれ1人球場に来なかったんだから。
「初戦はだれも応援してなかったのに、甲子園が見えてくると、とたんにがんじがらめにするなんて、虫がよすぎます!!」
園長はオレととも子を呼んだ。
「2人とも、来なさい」
オレととも子は園長に導かれ、部屋を出た。部屋を出る瞬間、先生たちの視線を背中に感じたが、無視するようにバタンとドアを閉めてやった。
※
「大丈夫?」
園長は廊下を歩きながら、とも子に話しかけた。それに対しとも子は、いつものにこっとした笑顔で返事をした。どうやら鼻血はごく微量だったらしい。園長から借りたハンカチは、それほど汚れてなかった。
「まったく、なんでこんなに学園の中も外もギスギスしなくっちゃいけないの?…」
「す、すみません…」
オレは別に悪いことしたわけではないのだが、反射的に謝ってしまった。
「ふふ、あなたは何も悪くないわよ」
園長は当たり前で期待どおりの答えを返してくれた。そのとき、ふとオレの脳裏にある疑問が浮かんだ。おじいちゃんが甲子園に行ったとき、やっぱりこんなピリピリした雰囲気になったのだろうか? おじいちゃんの幼なじみの園長なら、なにか知ってるかも?
「おじいちゃんが甲子園に行ったとき、やっぱりこんなピリピリした雰囲気になったんですか?」
「さあ、どうだったんでしょうね?… 私、高校は別だったから、ちょっとわからないわ」
オレは続いて浮かんだ質問を園長にぶつけてみた。
「おじいちゃんが甲子園に行ったとき、おじいちゃんにも彼女、いたんですか?」
園長はちょっと間を空け、そして並んで歩くとも子を見た。
「いたらしいわよ。この子みたいなかわいい女の子が」
もしかしたら、ちょっと失礼なこと訊いちゃったのかも? でも、おじいちゃんにもとも子みたいな彼女がいたなんて、奇遇だなあ…
※
園長が廊下の突き当たりのドアを開けた。そこには1台の商用のワンボックス車が駐まっていた。園長はその中に入るように指示した。
「2人とも、これに乗って」
「で、でも、授業が…」
「今日はもう授業どころじゃないでしょ? 今日はもう帰って、鋭気を養いなさい。外にマスコミが張ってるようだけど、これに乗れば、だれにも気づかれずに外に出られるはずです」
園長の心遣いはうれしいが…
「で、でも、オレたち、どこに身を隠せばいいのか?…」
「澤田さんのマンションがあるでしょ」
オレは呆気にとられてしまった。あの部屋でとも子と籠もれとは…
園長は説明が必要になったと思ったらしく、とも子を横目で見ながら話しを始めてくれた。
「実はこの子にはかなり特殊な事情がありまして、それで私が身柄を預かることになりました。あの部屋も、実は学園が借りてるものなんです」
えっ、あの部屋は学園が借りてるもの?… 園長の説明は、不可解で唐突なものばかりだった。オレの頭は混乱してしまい、何も言えなくなってしまった。
ワンボックス車の後部スライドドアが開いた。
「さあ、早く中に入って」
オレととも子は園長に言われるまま、ワンボックス車に乗り込んだ。
「澤田さんを大事にしてね。お願いよ」
園長がそう言い終わると、ワンボックス車は走りだした。
※
「もう顔を上げても大丈夫だよ」
運転手さんのその呼びかけにオレは顔を上げると、オレたちを乗せたワンボックス車は、いつも通学で使ってる道路を走ってた。横に座ってたとも子が、オレの顔を見て、いつものにこっとした笑顔を見せた。しかし、オレの頭の中は、園長の不可解な説明で混乱していた。ともかく、整理し理解しないと…
オレはとも子に話しかけた。
「園長とは、昔からの知り合いだったのか?」
とも子は首を縦に振った。
「オレとの関係も知ってるのか?」
とも子はまた首を縦に振った。そして、筆談用のノートを取り出し、こう書いた。
「毎日デートしてることも、キスしてることも知ってます」
そこまで知られてたとは… たぶんとも子が逐一報告してたんだろうな…
しかし、オレがあの部屋に泊まるってことは、オレととも子が1つになってもいいと言ってるようなものだぞ。いくらおっとりとしてるあの園長でも、それくらいはわかってるはず。いや、もしかしたら、すでに行くところまで行ってると思ってんのかも? ほんとうにあの人は教育者かいな?…