富士泉関が土俵に上がりました。今日の相手は小結西都関。小結と言ってもここまで3勝6敗。組し易い相手です。で、やっぱり勝ってしまいました。これで9勝1敗。ただ、1つ心配事が。明日の対戦相手はあの市松関となったのです。
市松関は初日横綱富士ケ峰関に勝ちましたが、2日目は横綱朝桜関に、3日目は大関銀奨関に、4日目は大関誉関に負けて1勝3敗。ふつーの関取だったらこのままずるずると負け越してしまうのですが、市松関は違いました。
5日目関脇龍興関を病院送りにしてからは絶好調。毎日毎日勝ち星を積み重ね、今や7勝3敗。明日の富士泉関戦に勝ち越しをかけます。
市松関はこの場所立会必ずかち上げをやってました。このかち上げを恐れて、ほとんどの対戦力士は及び腰になってたのです。はたして富士泉関は市松関に勝つことができるのでしょうか?
と思ったら、富士泉関には何かいい手があるようです。西都関に勝った日の夜、富士泉関の方からぼくに話しかけてきました。それはちょっと驚く内容で、ぼくは思わず声を出しちゃいました。
「え、両手で受け止めるの?」
「横綱が2日目にやったろ、あれをやるんだよ」
2日目って・・・ 横綱と言っても、朝桜関の方かよ。う~ん、富士泉関は朝桜関のファンになっちゃったのかなあ。どんな事情があろうと、やっぱ同じ部屋の横綱をリスペクトして欲しいなあ。
気を取り直して、話を市松関に戻しました。
「でも、両手突きをやって、跳ねっ返された力士がいたよね」
「あれは立会逃げ腰だったんだよ。相手より早く立てば、きっとあのかち上げを受け止めることができるよ」
う~ん、なんかちょっと違うような気が・・・
本場所はついに11日目に突入しました。市松関との取組に向けて富士泉関は支度部屋で集中してます。
でも、そんな富士泉関の耳に衝撃な情報が入ってきました。明日12日目の対戦相手は、なんと横綱朝桜関となったのです。富士泉関はここまで9勝1敗と絶好調です。今場所は両関脇とも休場してるし、下位の富士泉関が横綱と当たるのは必然なのかもしれませんね。
でも、朝桜関は初日こんなこと言ってたような。
「なんか11日目か12日目に対戦しそうだな。楽しみにしているよ」
あれは現実になってしまいました。朝桜関は預言者なのかな?
土俵上富士泉関と市松関の登場です。この一番は異様な雰囲気となりました。観客の100%は富士泉関の応援です。市松関は完全ヒール。なんかプロレスみたいになってきました。
今日も懸賞旗が廻ります。今日はなんと7本。すべて富士泉関を応援する懸賞旗です。しかし、市松関のふてぶてしさは相変わらずでした。土俵上富士泉関を睨む眼は殺気を帯てます。富士泉関はそれを嫌ったのか、あまり眼を合わせないようにしてます。でも、これだと、なんか富士泉関は消極的に見えちゃいますよねぇ。
挑発に乗って眼を合わせれば市松関のペースになっちゃうし、眼をそらせば弱気に見えちゃうし・・・ どう対処すればいいんだろう? うーん、難しいなあ。
いよいよ取組の時間となりました。両力士とも土俵に片手を付けました。見合って、見合って、発気揚々! 残った!
立会思った通り、市松関のエルボーが飛んできました。それを富士泉関の両手がバシッと受け止めました。ここまでは富士泉関の計算通り。けど、両手とも弾き飛ばされてしまったのです。その反動で富士泉関の上半身がのけぞってしまいました。あとはあっけないものです。市松関は富士泉関の身体をガシッと捕まえると、そのまま寄り切ってしまいました。富士泉関完敗です。
観客から悲鳴と罵声が飛んできました。市松関は初日横綱富士ケ峰関に勝ち、11日目は富士泉関に勝って勝ち越し。今場所市松関は葵部屋の天敵となりました。
富士泉関がシャワーを浴びて支度部屋に帰ってきました。ぼくはさっそく話しかけました。
「今日は残念だったね」
「いや~、帰り入幕でここまで9勝1敗だったのが奇跡だったんだよ。でも、市松関のかち上げは凄かったなあ」
富士泉関は自分の両掌(てのひら)を見ました。
「しかし、横綱はどうやってあのかち上げを受け止めることができたんだろう?・・・」
「横綱と言えば、明日は朝桜戦だね」
「ああ、まさかこんなにも早く当たるとはねぇ、思ってもみなかったよ」
富士泉関は期待より不安の方が大きいようです。
と、ここで大きな声が響いてきました。モニターを見ると、なんと大関誉関が土俵の外に倒れてるのです。土俵上には巨漢佐々丸関が仁王立ちになってました。どうやら誉関の連勝がストップしたみたい。
でも、次の銀奨関は腰が据わった相撲で連勝継続。そして横綱富士ケ峰関の登場です。
「横綱、今日勝てば勝ち越しだよね」
「ああ」
富士泉関の返事は、どこか生返事でした。
発気揚々! 残った! 富士ケ峰関は左手を差し、右手ではず押し。盤石な相撲です。そのまま寄り切って、今日も快勝。勝ち越しが決まりました。けど、優勝か準優勝となると、かなり絶望的です。それでも勝ち続けなくっちゃいけないのが横綱です。
続く朝桜関も勝ち、今場所11連勝、通算48連勝となりました。つまり明日の富士泉戦は50連勝の1歩手前、49連勝目となるのです。
ぼくは再び富士泉関に話しかけました。
「明日どうやって闘うの?」
「さあな、ともかくやるだけだよ」
12日目。偶数日なのでこの日の結びの一番は西の横綱富士ケ峰関が務めることになります。その前の一番は、横綱朝桜関対平幕富士泉関。昨日富士泉関は「やるだけだよ」と言ってましたが、はたしてどんな取組を見せてくれるのでしょうか。
今日も銀奨関は勝ち、12連勝。昨日負けた誉関は、今日も負けてしまい、10勝2敗。誉関は緊張の糸が切れてしまったのかな?
そしていよいよ横綱朝桜関対平幕富士泉関の取組となりました。
土俵に上がった富士泉関は、四股を踏み、蹲踞し。と、同時に懸賞旗が廻り始めました。それがとんでもない量なのです。15、いや、それ以上はあります。富士泉関は塩を取りに行こうとしましたが、懸賞旗の係りの人と交錯しそうで、なかなかいけません。これは大変です。
富士泉関は塩を取ると、再び土俵に身体を向けました。するとまた懸賞旗が廻り始めたのです。懸賞旗2巡目です。結局懸賞旗は30本くらい廻ってました。中には富士泉関に付いた懸賞もあると思いますが、これが横綱朝桜関なのです。
でも、同じ横綱でも、富士ケ峰関の検証旗は少ないんですよねぇ。9日目は0本。昨日11日目はたった2本でした。
2人の取組の時間が近づいてきました。富士泉関に汗拭きタオルが手渡されました。
「よし!」
富士泉関は気合を込めて吼えました。
両力士とも腰を割り、片手を付きました。富士泉関の眼はかなり厳しくなりました。それに対し朝桜関の眼は、まだまだ余裕がありそう。
発気揚々! 残った!
富士泉関は右手をさっと差しました。が、横綱も右手を差しました。同時に左手で上手を掴みます。一方富士泉関の左手はぶら~んとしてます。横綱が右肘をL字に曲げてるせいで、廻しが遠くなってるのです。さすが横綱、細かい技が冴えます。
ただ、いつもの朝桜関だったら、2秒もあれば相手力士を片付けてしまいます。今日は富士泉関の内掛けを警戒してるのかな?
と、横綱が富士泉関の身体を引きつけました。寄切りか? けど、これによって富士泉関の左手が横綱の上手に届きました。今がチャンス。右脚からの内掛け。2人の身体が重ね餅になって倒れ始めました。が、その瞬間富士泉関はへんな感覚に襲われました。本当だったら自分が上になって倒れてるはずなのに、なぜか今は自分が下になって倒れてるのです。富士泉関はそのまま背中から落ちてしまいました。
富士泉関敗北。実は富士泉関が内掛けを仕掛けたとき、すでに横綱の左脚は動いていたのです。外掛けでした。さすが横綱、富士泉関がもっとも得意としている技を返してしまいました。
けど、土俵上では異変が起きてました。朝桜関が立ち上がれないのです。左足の親指を必至に押さえてます。顔はかなり苦しそう。それを察知した富士泉関は、思いっきり叫びました。
「横綱ーっ!」
「ぐぉーっ」
あまりの痛さに、横綱はついに悲鳴を上げてしまいました。数人の呼出しが土俵に上がってきました。横綱は両側から呼出しに抱きかかえられ、なんとか立ちました。が、あまりの痛さに顔がひん曲がってます。心配そうな富士泉関は、再び声をかけました。
「横綱、しっかりして下さい!」
でも、朝桜関は何も反応しません。反応できないと言った方がいいかも。横綱はそのまま土俵を降りてしまいました。別に富士泉関のせいではないのですが、富士泉関は強い責任を感じてしまったようです。
朝桜関は今日の富士泉関との取組で49連勝となりましたが、はたして50連勝目はどうなってしまうのでしょうか?
ちなみに、今日の結びの一番で横綱富士ケ峰関は快勝しました。これで9勝3敗。勝ち星が先場所の8勝を越えました。しかし、富士ケ峰関に笑みはありません。富士ケ峰関も朝桜関を気にしてるようです。
市松関は初日横綱富士ケ峰関に勝ちましたが、2日目は横綱朝桜関に、3日目は大関銀奨関に、4日目は大関誉関に負けて1勝3敗。ふつーの関取だったらこのままずるずると負け越してしまうのですが、市松関は違いました。
5日目関脇龍興関を病院送りにしてからは絶好調。毎日毎日勝ち星を積み重ね、今や7勝3敗。明日の富士泉関戦に勝ち越しをかけます。
市松関はこの場所立会必ずかち上げをやってました。このかち上げを恐れて、ほとんどの対戦力士は及び腰になってたのです。はたして富士泉関は市松関に勝つことができるのでしょうか?
と思ったら、富士泉関には何かいい手があるようです。西都関に勝った日の夜、富士泉関の方からぼくに話しかけてきました。それはちょっと驚く内容で、ぼくは思わず声を出しちゃいました。
「え、両手で受け止めるの?」
「横綱が2日目にやったろ、あれをやるんだよ」
2日目って・・・ 横綱と言っても、朝桜関の方かよ。う~ん、富士泉関は朝桜関のファンになっちゃったのかなあ。どんな事情があろうと、やっぱ同じ部屋の横綱をリスペクトして欲しいなあ。
気を取り直して、話を市松関に戻しました。
「でも、両手突きをやって、跳ねっ返された力士がいたよね」
「あれは立会逃げ腰だったんだよ。相手より早く立てば、きっとあのかち上げを受け止めることができるよ」
う~ん、なんかちょっと違うような気が・・・
本場所はついに11日目に突入しました。市松関との取組に向けて富士泉関は支度部屋で集中してます。
でも、そんな富士泉関の耳に衝撃な情報が入ってきました。明日12日目の対戦相手は、なんと横綱朝桜関となったのです。富士泉関はここまで9勝1敗と絶好調です。今場所は両関脇とも休場してるし、下位の富士泉関が横綱と当たるのは必然なのかもしれませんね。
でも、朝桜関は初日こんなこと言ってたような。
「なんか11日目か12日目に対戦しそうだな。楽しみにしているよ」
あれは現実になってしまいました。朝桜関は預言者なのかな?
土俵上富士泉関と市松関の登場です。この一番は異様な雰囲気となりました。観客の100%は富士泉関の応援です。市松関は完全ヒール。なんかプロレスみたいになってきました。
今日も懸賞旗が廻ります。今日はなんと7本。すべて富士泉関を応援する懸賞旗です。しかし、市松関のふてぶてしさは相変わらずでした。土俵上富士泉関を睨む眼は殺気を帯てます。富士泉関はそれを嫌ったのか、あまり眼を合わせないようにしてます。でも、これだと、なんか富士泉関は消極的に見えちゃいますよねぇ。
挑発に乗って眼を合わせれば市松関のペースになっちゃうし、眼をそらせば弱気に見えちゃうし・・・ どう対処すればいいんだろう? うーん、難しいなあ。
いよいよ取組の時間となりました。両力士とも土俵に片手を付けました。見合って、見合って、発気揚々! 残った!
立会思った通り、市松関のエルボーが飛んできました。それを富士泉関の両手がバシッと受け止めました。ここまでは富士泉関の計算通り。けど、両手とも弾き飛ばされてしまったのです。その反動で富士泉関の上半身がのけぞってしまいました。あとはあっけないものです。市松関は富士泉関の身体をガシッと捕まえると、そのまま寄り切ってしまいました。富士泉関完敗です。
観客から悲鳴と罵声が飛んできました。市松関は初日横綱富士ケ峰関に勝ち、11日目は富士泉関に勝って勝ち越し。今場所市松関は葵部屋の天敵となりました。
富士泉関がシャワーを浴びて支度部屋に帰ってきました。ぼくはさっそく話しかけました。
「今日は残念だったね」
「いや~、帰り入幕でここまで9勝1敗だったのが奇跡だったんだよ。でも、市松関のかち上げは凄かったなあ」
富士泉関は自分の両掌(てのひら)を見ました。
「しかし、横綱はどうやってあのかち上げを受け止めることができたんだろう?・・・」
「横綱と言えば、明日は朝桜戦だね」
「ああ、まさかこんなにも早く当たるとはねぇ、思ってもみなかったよ」
富士泉関は期待より不安の方が大きいようです。
と、ここで大きな声が響いてきました。モニターを見ると、なんと大関誉関が土俵の外に倒れてるのです。土俵上には巨漢佐々丸関が仁王立ちになってました。どうやら誉関の連勝がストップしたみたい。
でも、次の銀奨関は腰が据わった相撲で連勝継続。そして横綱富士ケ峰関の登場です。
「横綱、今日勝てば勝ち越しだよね」
「ああ」
富士泉関の返事は、どこか生返事でした。
発気揚々! 残った! 富士ケ峰関は左手を差し、右手ではず押し。盤石な相撲です。そのまま寄り切って、今日も快勝。勝ち越しが決まりました。けど、優勝か準優勝となると、かなり絶望的です。それでも勝ち続けなくっちゃいけないのが横綱です。
続く朝桜関も勝ち、今場所11連勝、通算48連勝となりました。つまり明日の富士泉戦は50連勝の1歩手前、49連勝目となるのです。
ぼくは再び富士泉関に話しかけました。
「明日どうやって闘うの?」
「さあな、ともかくやるだけだよ」
12日目。偶数日なのでこの日の結びの一番は西の横綱富士ケ峰関が務めることになります。その前の一番は、横綱朝桜関対平幕富士泉関。昨日富士泉関は「やるだけだよ」と言ってましたが、はたしてどんな取組を見せてくれるのでしょうか。
今日も銀奨関は勝ち、12連勝。昨日負けた誉関は、今日も負けてしまい、10勝2敗。誉関は緊張の糸が切れてしまったのかな?
そしていよいよ横綱朝桜関対平幕富士泉関の取組となりました。
土俵に上がった富士泉関は、四股を踏み、蹲踞し。と、同時に懸賞旗が廻り始めました。それがとんでもない量なのです。15、いや、それ以上はあります。富士泉関は塩を取りに行こうとしましたが、懸賞旗の係りの人と交錯しそうで、なかなかいけません。これは大変です。
富士泉関は塩を取ると、再び土俵に身体を向けました。するとまた懸賞旗が廻り始めたのです。懸賞旗2巡目です。結局懸賞旗は30本くらい廻ってました。中には富士泉関に付いた懸賞もあると思いますが、これが横綱朝桜関なのです。
でも、同じ横綱でも、富士ケ峰関の検証旗は少ないんですよねぇ。9日目は0本。昨日11日目はたった2本でした。
2人の取組の時間が近づいてきました。富士泉関に汗拭きタオルが手渡されました。
「よし!」
富士泉関は気合を込めて吼えました。
両力士とも腰を割り、片手を付きました。富士泉関の眼はかなり厳しくなりました。それに対し朝桜関の眼は、まだまだ余裕がありそう。
発気揚々! 残った!
富士泉関は右手をさっと差しました。が、横綱も右手を差しました。同時に左手で上手を掴みます。一方富士泉関の左手はぶら~んとしてます。横綱が右肘をL字に曲げてるせいで、廻しが遠くなってるのです。さすが横綱、細かい技が冴えます。
ただ、いつもの朝桜関だったら、2秒もあれば相手力士を片付けてしまいます。今日は富士泉関の内掛けを警戒してるのかな?
と、横綱が富士泉関の身体を引きつけました。寄切りか? けど、これによって富士泉関の左手が横綱の上手に届きました。今がチャンス。右脚からの内掛け。2人の身体が重ね餅になって倒れ始めました。が、その瞬間富士泉関はへんな感覚に襲われました。本当だったら自分が上になって倒れてるはずなのに、なぜか今は自分が下になって倒れてるのです。富士泉関はそのまま背中から落ちてしまいました。
富士泉関敗北。実は富士泉関が内掛けを仕掛けたとき、すでに横綱の左脚は動いていたのです。外掛けでした。さすが横綱、富士泉関がもっとも得意としている技を返してしまいました。
けど、土俵上では異変が起きてました。朝桜関が立ち上がれないのです。左足の親指を必至に押さえてます。顔はかなり苦しそう。それを察知した富士泉関は、思いっきり叫びました。
「横綱ーっ!」
「ぐぉーっ」
あまりの痛さに、横綱はついに悲鳴を上げてしまいました。数人の呼出しが土俵に上がってきました。横綱は両側から呼出しに抱きかかえられ、なんとか立ちました。が、あまりの痛さに顔がひん曲がってます。心配そうな富士泉関は、再び声をかけました。
「横綱、しっかりして下さい!」
でも、朝桜関は何も反応しません。反応できないと言った方がいいかも。横綱はそのまま土俵を降りてしまいました。別に富士泉関のせいではないのですが、富士泉関は強い責任を感じてしまったようです。
朝桜関は今日の富士泉関との取組で49連勝となりましたが、はたして50連勝目はどうなってしまうのでしょうか?
ちなみに、今日の結びの一番で横綱富士ケ峰関は快勝しました。これで9勝3敗。勝ち星が先場所の8勝を越えました。しかし、富士ケ峰関に笑みはありません。富士ケ峰関も朝桜関を気にしてるようです。