園長は助手席に乗った。どうやら気をきかせてくれたらしい。広い後部座席は、オレととも子だけのスペースとなった。とも子は妙にそわそわしてた。自分の正体がばれてしまったうえ、フィアンセの孫と隣り合わせになってるせいだと思う。40年近くオレのおじいちゃんと結婚することだけを夢見て眠ってたんだろうな。肝心なおじいちゃんが死んでたとなると、やっぱ孫のオレが代わりを務めなくっちゃいけないのかな?…
ともかく、このまま無言はまずいと思う。何かしゃべらないと…
「あ、あの…」
い、いかん、話のネタが浮かんでこない…
ふととも子がマイクみたいな機械を取り出し、その先端を喉に押し当てた。次の瞬間、強いエコーがかかったとてもかわいい声が車内に響いた。
「どうしたんですか、キャプテン? そう硬くならないでください」
「しゃ、しゃべれるんですか?」
「敬語はやめてください。私はキャプテンと同じ18歳です。それにあなたは、チームのキャプテンですよ。
このデジタル補声器を使えば、私は話すことができます。今は立ち入った話をしないといけないのでこれを使いますが… 私、このロボットみたいな声がいやなんです」
「そ、そんなことないですよ、とってもかわいいですよ!!」
「ふふ、ありがと。でも、キャプテン、敬語はやめてくださいね」
「あは、す、すみません…」
同じ年だと言われても、おじいちゃんと同年代じゃ、どうしても敬語になっちゃいます。
その後、彼女といろんな話をした。正体を明かしたことで、制約がなくったのだろう。おじいちゃんのこと、甲子園のこと、積もる話を全部吐き出してくれた。と、なぜか突然、とも子がいつものように筆談で話しかけてきた。今は口がきけるとゆーのに?
「あの、約束、忘れてませんよね?」
約束?… おじいちゃんととも子がかわした約束、つまり、甲子園で優勝することと、結婚すること? 甲子園の話は今してたから、結婚の方かな?
「いいですよ、結婚しましょう」
と、とも子は首を横に振った。どうやら、見当違いだったらしい。とも子はほおを赤く染めながら、筆談用のノートに書いた。
「抱いて」
ふふ、そういや、そんな約束してたんだっけ。しかし、またえらく大胆なことを書いたなあ…
とも子が引き続きノートに書いた。
「私、結婚はできまないと思います」
「えっ、どうして? 戸籍がないから? なら、戸籍が回復するまでいっしょに暮らせばいいじゃないですか」
ふととも子が唇に人差し指を当て「しー」のポーズをとった。いっけねぇ、前に2人乗ってるんだっけ。
とも子は再びノートに書いた。
「私、もう人間じゃないんです」
オレは唖然としてしまった。「どうして?」と訊きたかったが、とも子が悲しい目を見せてるので、何も訊けなかった。
考えてみたら、とも子にはまだ大きな疑問が残ってた。こんな小さな身体なのに、なんであんなにすごい豪速球を投げられるか、とゆー部分。とも子は15歳のときに難病が発症し、18歳のときに眠らされた。長い眠りから醒めたのは、半年前。今のとも子にそんなにすごい筋力があるはずがないと思う… とも子は眠ってる間に超人になってしまったのだろうか?
訊いてはみたいが、今は訊くタイミングじゃないと思う。
※
リムジンが球場に着いた。オレと「生田智子」がロッカー室に入ると、昨日と同じように聖カトリーヌ紫苑学園野球部ナインはすでに着替え終わっており、いつでもグランドに立てる体勢になっていた。ただ、昨日のような重苦しい雰囲気はぜんぜんなかった。みな笑顔で出迎えてくれた。約1名を除いて。
「おや、キャプテン、今日も重役出勤ですか?」
その声はもちろん唐沢だった。そーいや、こいつ、昨日試合中に退場になったのに、今日の出場はOKなのか? ま、あれは常識的に不問だろうな。
今オレたちが入ってきたドアの向こうから声が響いてきた。園長の声だ。
「ちょっと入っていいかしら?」
「どうぞ」
ドアが開き、園長と清涼飲料水の段ボール箱を抱えた運転手さんが入ってきた。園長の陣中見舞いをみな笑顔で出迎えた。ふと、とも子がセカンドバッグを園長に手渡した。どうやらあのマイクみたいな機械は封印するらしい。あれ、とってもかわいい声なんだけどな…
※
いよいよ決勝戦の時間となった。グランドに出ると、病院を出たときに感じた以上の強い日差しを感じた。野球はお天道様の下でやるものだが、ここまで晴れてしまうとグランドの温度が高くなるので歓迎できない。とも子にはそれと言って欠点はないが、唯一スタミナに不安がある。ここまで我がチームは、8回までとも子が投げ、最終回は唐沢が押さえてたが、今日は監督の発案で、7回までとも子が投げ、残り2イニングを唐沢が押さえることになった。とも子のケガを考りょしてのことだが、この天候だと賢明かもしれない。
※
敵のサラダ商業は、我が聖カトリーヌ紫苑学園と共通点が多かった。うちは野球部創設3年目だが、敵は高校創設4年目。うちのエースのとも子はここまで自責点0だが、敵のエース戸田も自責点0。
しかし、サラダ商業はここまで相手に恵まれてたようだ。もっとも点を獲った試合で2点。それに対し、こっちは桐ケ台高校に6対0と大勝してるうえ、コールド勝ちもあった。戸田はここまでたった1人で投げ抜いてるようだが、こっちにはクローザーの唐沢がいる。どう考えても、実力はこっちの方が数段上だ。
ちなみに、戸田の身長は160センチほどしかないようだが、ものすごいフォークボールを投げるらしい。このフォークボールをいかに撃つかが、我がチームの勝利のカギとなりそうだ。
※
ギラギラと輝く真夏の太陽の下、いよいよ決勝戦が始まった。
先攻は我がチーム。1番バッターの渡辺がバッターボックスに立った。プレイボール。
戸田の1球目。なんとそれは、とてつもない棒ダマだった。初球から積極的に撃っていくタイプの渡辺が、これを見逃すはずがなかった。
カキーン!! 打球は左中間の一番深いとろこへ飛んで行った。完全にホームラン性の当たり… しかし、フェンスぎわで打球の勢いがなくなり、ぽとりと落ちた。渡辺は立ったまま3塁ベースに到達したが、やつもホームランだと思ったんだろう、3塁ベース上で首をかしげてた。しかし、3塁打は3塁打。いきなりの大チャンスとなった。
※
続く大空は、初っぱなからスクイズの構え。1球目。ファーストとピッチャーがスクイズ阻止へ思いっきりダッシュしてきた。しかし、うちの監督のサインは、バントと見せかけてヒッティングするバスターだった。
カキーン!! するどい打球がライト前に転がった。3塁ランナーの渡辺は、手を叩きながらホームイン。なんと、ここまで自責点0だった戸田から、たった2球で先取点を挙げてしまった。流れは完全にこっちだ。今ならもっと点が獲れるはずだ!!
続くバッターの唐沢も、初球を狙い撃った。大飛球がレフトの頭上を襲った。今度こそホームラン… しかし、若干飛距離が足りず、フェンス直撃となった。これでノーアウトランナー2塁3塁。ここで打順はオレとなった。
※
しかし、渡辺と唐沢の大飛球が気になる… 両方とも完全にホームラン性の当たりだったのに、なぜかフェンス手前で失速していた。もしかしたら、両方とも打球が回転してなかったのかも? 打球は回転してないと揚力が発生しないので、思ったよりより打球が伸びない。ちなみに、打球が回転してなかったってことは、戸田が投げたタマも回転してなかった、てことでもある。フォークボールはほとんど回転がかかってないタマだから、もしかしたら、戸田はフォークボールを投げてるのかもしれない…
※
オレへの1球目。またもや棒ダマ。オレは思いっきり振り抜いた。カキーン!! 打球は大きな放物線を描き、大空に舞い上がった。しかし、やはりフェンス手前で失速、あらかじめ後ろに守っていたセンターのグローブに収まってしまった。
やはり戸田は、フォークボールを投げてるようだ。が、ぜんぜん落ちてない。こうなるとフォークボールは、ただの撃ちごろのタマになってしまう。ただ、あまりボールが回転してないので、ホームランだけにはならないようだ。
タッチアップで3塁から大空が帰ってきた。これで2点目。戸田は完全に不調だが、ピッチャーはちょっとしたきっかけで好調になることもある。とも子のためにも、ここはもっと点を獲っておかないと…
※
続くバッターは中井。中井も初球からヒッティング。センター前ヒット。2塁ランナーの唐沢は3塁に止まり、1アウトランナー1塁3塁。次のバッターの鈴木も初球流し撃って、ライト前ヒット。唐沢が帰り、3点目。なおも1アウトランナー1塁3塁。戸田は完全にあっぷあっぷだ。こりゃあ、きっともっと点が獲れるぞ!!
次のバッターは北村。北村は押せ押せムードの中バットを構えた。しかし、敵キャッチャーは座ってくれなかった。敬遠である。
敵さんはよくデータを収集してるらしい。次のバッターの箕島は、あの桐ケ台高校の岡崎から2点タイムリーヒットを撃ってるのだが、実はそれ以降、1本もヒットを撃ってないのである。
※
1アウトランナー満塁。箕島がバッターボックスに立った。城島高校戦の土壇場でヒットを撃った森に代える手もあるが、まだ試合は始まったばかりだ。それに、すでに3点を先制してる。ここは箕島に任せることとしよう。
初球、またもや高めの棒ダマ。箕島がバットを振ると、打球は鈍い音を残しふらふらっと舞い上がった。サード後方へのフライ。こりゃあ、岡崎から奪ったヒットとほぼ同じ飛球… いや、今度の方がよりファールラインに近く、ぽとりと落ちそうな雰囲気。敵ショートがいちかばちかのダイビングキャッチ。なんと、そいつのグローブに飛球が収まってしまった。こいつはアンラッキーだ。3塁ランナーの中井はヒットになると思ってたのか、離塁が大きく、慌てて3塁ベースに戻った。もしはなっからタッチアップする気があったなら、十分できるタイミングだった。これもアンラッキーだった。
次のバッターはとも子。とも子は城島高校戦でヒットを撃ってるが、ここはピッチングに専念してもらいたく、いつものようにバッターボックスの一番外側に立つよう、指示を出した。で、素っ気なく三振。長かった聖カトリーヌ紫苑学園の1回表の攻撃が、これでようやく終了した。
ちなみに、サラダ商業打線は今大会ここまで最大2点しか獲ってない。それに対し、我が聖カトリーヌ商業学園は、もう3点も獲ってしまった。完全な楽勝ペースである。
ともかく、このまま無言はまずいと思う。何かしゃべらないと…
「あ、あの…」
い、いかん、話のネタが浮かんでこない…
ふととも子がマイクみたいな機械を取り出し、その先端を喉に押し当てた。次の瞬間、強いエコーがかかったとてもかわいい声が車内に響いた。
「どうしたんですか、キャプテン? そう硬くならないでください」
「しゃ、しゃべれるんですか?」
「敬語はやめてください。私はキャプテンと同じ18歳です。それにあなたは、チームのキャプテンですよ。
このデジタル補声器を使えば、私は話すことができます。今は立ち入った話をしないといけないのでこれを使いますが… 私、このロボットみたいな声がいやなんです」
「そ、そんなことないですよ、とってもかわいいですよ!!」
「ふふ、ありがと。でも、キャプテン、敬語はやめてくださいね」
「あは、す、すみません…」
同じ年だと言われても、おじいちゃんと同年代じゃ、どうしても敬語になっちゃいます。
その後、彼女といろんな話をした。正体を明かしたことで、制約がなくったのだろう。おじいちゃんのこと、甲子園のこと、積もる話を全部吐き出してくれた。と、なぜか突然、とも子がいつものように筆談で話しかけてきた。今は口がきけるとゆーのに?
「あの、約束、忘れてませんよね?」
約束?… おじいちゃんととも子がかわした約束、つまり、甲子園で優勝することと、結婚すること? 甲子園の話は今してたから、結婚の方かな?
「いいですよ、結婚しましょう」
と、とも子は首を横に振った。どうやら、見当違いだったらしい。とも子はほおを赤く染めながら、筆談用のノートに書いた。
「抱いて」
ふふ、そういや、そんな約束してたんだっけ。しかし、またえらく大胆なことを書いたなあ…
とも子が引き続きノートに書いた。
「私、結婚はできまないと思います」
「えっ、どうして? 戸籍がないから? なら、戸籍が回復するまでいっしょに暮らせばいいじゃないですか」
ふととも子が唇に人差し指を当て「しー」のポーズをとった。いっけねぇ、前に2人乗ってるんだっけ。
とも子は再びノートに書いた。
「私、もう人間じゃないんです」
オレは唖然としてしまった。「どうして?」と訊きたかったが、とも子が悲しい目を見せてるので、何も訊けなかった。
考えてみたら、とも子にはまだ大きな疑問が残ってた。こんな小さな身体なのに、なんであんなにすごい豪速球を投げられるか、とゆー部分。とも子は15歳のときに難病が発症し、18歳のときに眠らされた。長い眠りから醒めたのは、半年前。今のとも子にそんなにすごい筋力があるはずがないと思う… とも子は眠ってる間に超人になってしまったのだろうか?
訊いてはみたいが、今は訊くタイミングじゃないと思う。
※
リムジンが球場に着いた。オレと「生田智子」がロッカー室に入ると、昨日と同じように聖カトリーヌ紫苑学園野球部ナインはすでに着替え終わっており、いつでもグランドに立てる体勢になっていた。ただ、昨日のような重苦しい雰囲気はぜんぜんなかった。みな笑顔で出迎えてくれた。約1名を除いて。
「おや、キャプテン、今日も重役出勤ですか?」
その声はもちろん唐沢だった。そーいや、こいつ、昨日試合中に退場になったのに、今日の出場はOKなのか? ま、あれは常識的に不問だろうな。
今オレたちが入ってきたドアの向こうから声が響いてきた。園長の声だ。
「ちょっと入っていいかしら?」
「どうぞ」
ドアが開き、園長と清涼飲料水の段ボール箱を抱えた運転手さんが入ってきた。園長の陣中見舞いをみな笑顔で出迎えた。ふと、とも子がセカンドバッグを園長に手渡した。どうやらあのマイクみたいな機械は封印するらしい。あれ、とってもかわいい声なんだけどな…
※
いよいよ決勝戦の時間となった。グランドに出ると、病院を出たときに感じた以上の強い日差しを感じた。野球はお天道様の下でやるものだが、ここまで晴れてしまうとグランドの温度が高くなるので歓迎できない。とも子にはそれと言って欠点はないが、唯一スタミナに不安がある。ここまで我がチームは、8回までとも子が投げ、最終回は唐沢が押さえてたが、今日は監督の発案で、7回までとも子が投げ、残り2イニングを唐沢が押さえることになった。とも子のケガを考りょしてのことだが、この天候だと賢明かもしれない。
※
敵のサラダ商業は、我が聖カトリーヌ紫苑学園と共通点が多かった。うちは野球部創設3年目だが、敵は高校創設4年目。うちのエースのとも子はここまで自責点0だが、敵のエース戸田も自責点0。
しかし、サラダ商業はここまで相手に恵まれてたようだ。もっとも点を獲った試合で2点。それに対し、こっちは桐ケ台高校に6対0と大勝してるうえ、コールド勝ちもあった。戸田はここまでたった1人で投げ抜いてるようだが、こっちにはクローザーの唐沢がいる。どう考えても、実力はこっちの方が数段上だ。
ちなみに、戸田の身長は160センチほどしかないようだが、ものすごいフォークボールを投げるらしい。このフォークボールをいかに撃つかが、我がチームの勝利のカギとなりそうだ。
※
ギラギラと輝く真夏の太陽の下、いよいよ決勝戦が始まった。
先攻は我がチーム。1番バッターの渡辺がバッターボックスに立った。プレイボール。
戸田の1球目。なんとそれは、とてつもない棒ダマだった。初球から積極的に撃っていくタイプの渡辺が、これを見逃すはずがなかった。
カキーン!! 打球は左中間の一番深いとろこへ飛んで行った。完全にホームラン性の当たり… しかし、フェンスぎわで打球の勢いがなくなり、ぽとりと落ちた。渡辺は立ったまま3塁ベースに到達したが、やつもホームランだと思ったんだろう、3塁ベース上で首をかしげてた。しかし、3塁打は3塁打。いきなりの大チャンスとなった。
※
続く大空は、初っぱなからスクイズの構え。1球目。ファーストとピッチャーがスクイズ阻止へ思いっきりダッシュしてきた。しかし、うちの監督のサインは、バントと見せかけてヒッティングするバスターだった。
カキーン!! するどい打球がライト前に転がった。3塁ランナーの渡辺は、手を叩きながらホームイン。なんと、ここまで自責点0だった戸田から、たった2球で先取点を挙げてしまった。流れは完全にこっちだ。今ならもっと点が獲れるはずだ!!
続くバッターの唐沢も、初球を狙い撃った。大飛球がレフトの頭上を襲った。今度こそホームラン… しかし、若干飛距離が足りず、フェンス直撃となった。これでノーアウトランナー2塁3塁。ここで打順はオレとなった。
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しかし、渡辺と唐沢の大飛球が気になる… 両方とも完全にホームラン性の当たりだったのに、なぜかフェンス手前で失速していた。もしかしたら、両方とも打球が回転してなかったのかも? 打球は回転してないと揚力が発生しないので、思ったよりより打球が伸びない。ちなみに、打球が回転してなかったってことは、戸田が投げたタマも回転してなかった、てことでもある。フォークボールはほとんど回転がかかってないタマだから、もしかしたら、戸田はフォークボールを投げてるのかもしれない…
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オレへの1球目。またもや棒ダマ。オレは思いっきり振り抜いた。カキーン!! 打球は大きな放物線を描き、大空に舞い上がった。しかし、やはりフェンス手前で失速、あらかじめ後ろに守っていたセンターのグローブに収まってしまった。
やはり戸田は、フォークボールを投げてるようだ。が、ぜんぜん落ちてない。こうなるとフォークボールは、ただの撃ちごろのタマになってしまう。ただ、あまりボールが回転してないので、ホームランだけにはならないようだ。
タッチアップで3塁から大空が帰ってきた。これで2点目。戸田は完全に不調だが、ピッチャーはちょっとしたきっかけで好調になることもある。とも子のためにも、ここはもっと点を獲っておかないと…
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続くバッターは中井。中井も初球からヒッティング。センター前ヒット。2塁ランナーの唐沢は3塁に止まり、1アウトランナー1塁3塁。次のバッターの鈴木も初球流し撃って、ライト前ヒット。唐沢が帰り、3点目。なおも1アウトランナー1塁3塁。戸田は完全にあっぷあっぷだ。こりゃあ、きっともっと点が獲れるぞ!!
次のバッターは北村。北村は押せ押せムードの中バットを構えた。しかし、敵キャッチャーは座ってくれなかった。敬遠である。
敵さんはよくデータを収集してるらしい。次のバッターの箕島は、あの桐ケ台高校の岡崎から2点タイムリーヒットを撃ってるのだが、実はそれ以降、1本もヒットを撃ってないのである。
※
1アウトランナー満塁。箕島がバッターボックスに立った。城島高校戦の土壇場でヒットを撃った森に代える手もあるが、まだ試合は始まったばかりだ。それに、すでに3点を先制してる。ここは箕島に任せることとしよう。
初球、またもや高めの棒ダマ。箕島がバットを振ると、打球は鈍い音を残しふらふらっと舞い上がった。サード後方へのフライ。こりゃあ、岡崎から奪ったヒットとほぼ同じ飛球… いや、今度の方がよりファールラインに近く、ぽとりと落ちそうな雰囲気。敵ショートがいちかばちかのダイビングキャッチ。なんと、そいつのグローブに飛球が収まってしまった。こいつはアンラッキーだ。3塁ランナーの中井はヒットになると思ってたのか、離塁が大きく、慌てて3塁ベースに戻った。もしはなっからタッチアップする気があったなら、十分できるタイミングだった。これもアンラッキーだった。
次のバッターはとも子。とも子は城島高校戦でヒットを撃ってるが、ここはピッチングに専念してもらいたく、いつものようにバッターボックスの一番外側に立つよう、指示を出した。で、素っ気なく三振。長かった聖カトリーヌ紫苑学園の1回表の攻撃が、これでようやく終了した。
ちなみに、サラダ商業打線は今大会ここまで最大2点しか獲ってない。それに対し、我が聖カトリーヌ商業学園は、もう3点も獲ってしまった。完全な楽勝ペースである。