手話通訳者のブログ

田舎の登録手話通訳者のブログです。

市会議員のT先生

2015-12-06 13:33:43 | 手話
初めてお目にかかったのは、5~6年前だろうか。
市の手話通訳者派遣制度は問題山積で、市の担当課と話しても、手話通訳者派遣事業を市から委託されて運用している外郭団体と話しても、ほとんど無視され、何の進展もないまま数十年が経過していた。
こうなったら、政治家に接触するしかない。
そう考えて、市会議員一人ひとりに接触を試みた。
ホームページやブログを持っている議員には、そこからメッセージを入れたり、メールを入れた。
全く、反応はなかった。

どうすれば、市会議員たちは反応してくれるのだろうか
手書きの手紙なら、少しは心を動かしてくれるのではないか。
そう考えて、市会議員一人ひとりに手紙を書きまくった。
全く、反応はなかった。

そんなある日、メールが来た。
「市の手話通訳者としての長年のご活躍、まことにありがとうございます。返信が遅くなり、申し訳ございません。たいしさんがおっしゃるような問題があることは存じませんでした。市会議員として、市の担当課との仲介を・・・」
感激した。
市の事業は多岐にわたる。
その中の身体障害者福祉関連事業の中の、手話通訳者派遣事業。
市会議員としては、
「いちいち、そんな各論に付き合っていられるか」
というのが本音だろう。

わしらの市は、手話世界では、「全国ワーストワン」と噂されている。
しかし、信頼できる政治家がいる。T先生だけが希望と言ってよい。




手話通訳者の恩師

2015-12-06 13:25:01 | 手話
手話の恩師ではない。
30年前の、学生時代のこと。
経営組織論という講義が非常に面白かった。T先生の講義である。
同じ学部だったK(ろう者)に勧めた。
経営組織論、必修科目じゃないけど、絶対にとるべきや。
「僕は聞こえないから、たくさん板書してくれる先生の講義がとりたいんだけど・・・」
板書か・・・T先生は少ない方やな・・・よっしゃ、俺が通訳するわ。
「たいしがそこまで言うなら、とるよ」

T先生は魅力のある人だった。
と言っても、美人講師に憧れたわけではない。男の先生や。
一言で言えば、男らしい人。
一ヶ月に1回ぐらい、ゼミ生たちに、
「おい、お前ら、飲みに行くぞ」
と声をかけ、居酒屋へ繰り出す。ヤクザの親分(T先生、ごめんなさい)が子分どもを引き連れていく、そんな雰囲気だった。
ある日、Tゼミの友人に聞いてみた。
Tゼミの飲み会、面白そうや。俺はゼミ生じゃないけど、参加させてもらってええかな?
「T先生は意外とオープンな人だから、参加しても構わないと思うよ」

それなら、と飲み会に潜り込んだ。
乾杯して口に含んだビールを危うく吐き出しそうになった。
T先生が睨んでいる。
うわ・・・しまった・・・予め、T先生に許可をとっておくべきやった。どないしよ・・・
視線を泳がせて考えていると、T先生の怒鳴り声が・・・
「たいし! こっち来い!」
げげ・・・まずい・・・飲み会の雰囲気、ぶち壊しやないか。

失礼します・・・
先生の右隣に座ると、先生は日本酒をクイ、と飲み干して、横目で睨んできた。
「たいし、てめえバカ野郎、ゼミ生でもねえのに勝手に潜りこみやがって」
すみません・・・

先生はいきなり右腕を伸ばして、俺の右肩をガッと掴んだ。
???
「たいし、お前はすげえよ」
は???
「最初にお前を見た時、ぶっとばしてやろうかと思ったよ。こいつ、俺の話を聞きもしねえで、横むいて手エ動かしてやがる。いつ、つまみ出してやろうかって考えながら講義やってたんだよ。でも何か変だな、と思った。やけに真剣な顔してやがるじゃねえか。それに、こいつ、去年も俺の講義に出てたな、と気づいたんだ。後でゼミ生に聞いて驚いたよ。お前の隣に座ってた奴、耳、聞こえねえんだってな。あれが手話ってやつか。初めて間近で見たよ。社会福祉なんて誰も教えてねえウチの大学で、1円のトクにもならねえのに、ダチのために手話通訳か。お前、本当に変な奴だよ。俺が教えた学生なんてン千人もいるが、お前の名前は一発で覚えたよ」
あ・・・ありがとうございます・・・
「ろう学生、Kだっけ、今度はあいつも連れてこい」

T先生には大変お世話になった。
今なら大学や専門学校に手話通訳者がいても誰も驚かないが、当時はろう学生の補助は「皆無」と言ってよかった。
実際、講義中に手話通訳してると、
「気が散るからやめてくれ」
と言われたものだ。

T先生は今でも現役の大学教授。
今も変わらない野太い声で講義されてるんやろな。