とね日記

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現代天文學事典 四訂新版(1971年): 荒木俊馬

2018年10月21日 02時14分29秒 | 天文、宇宙

現代天文學事典 四訂新版(1971年): 荒木俊馬

内容紹介:
 「本書は高等学校や中学校の地学教官諸君、ならびに大学理学部の天文学科の学生、および学芸大学において特に地学科を専攻せんと欲する学生諸君をして、現代天文学の全般にわたり一通りの基礎知識を習得せしめんがために編纂した天文学事典である。」とし、また、「・・天文学の学習に必要な数学および物理学の基礎知識をも、能うかぎり網羅するように務めた。したがって本書一冊あれば、天文学の基礎学習には十分であり、・・」と初版(昭和30年)の『序』が記載されています。本書は増訂を重ねて六版となったものでアポロ宇宙飛行士の写真、ソ連の月面探査車ルノホートなどの写真も収録されています。(1971年4月の探査まで増補)

著者について:
荒木 俊馬(あらき としま): ウィキペディア
1897年3月20日 - 1978年7月10日。日本の天文学者、物理学者。専門は天体物理学、理論物理学、宇宙論。学位は理学博士(京都大学・1929年)。京都大学名誉教授、京都産業大学初代総長。熊本県出身。

荒木俊馬先生の著書: Amazonで検索


僕が高校生活を送っていたのは1979年から1981年にかけてのこと。本書は高校時代に夢中になって読んでいた天文学書のうちの1冊と言いたいところだが、このように分厚い本を通読できたはずがない。調べもの用としてところどころ読んでいただけである。四訂新版の第1刷は1971年印刷で僕が9歳のときだが、僕が買ったのは第3刷、1979年に印刷された本だ。たしか高校3年のときだったと思う。当時の定価で9500円。

著者の荒木俊馬先生は戦前から宇宙物理学者・天文学者として活躍した日本の天文学創成期の草分け的な人物だ。25歳のときの1922年に来日したアインシュタイン博士を京都帝国大学で出迎え、歓迎の挨拶をされたことがある。その後、助教授時代にドイツへ2年半留学。アインシュタイン博士から直接教えを受けている。また、教え子からは湯川秀樹博士、朝永振一郎博士などノーベル賞受賞学者を輩出した。天文学の専門書、一般向けの本を多数執筆したことでも知られる。本書はその中で最も時間をかけ、生涯にわたる研究成果を1冊にまとめ上げた大著である。

日本の天文学者の師弟関係で言えば、すばる望遠鏡の生みの親として先日「現代天文学 第2版(1978年): A.ウンゼルト著、小平桂一訳」として訳書を紹介した小平桂一先生よりも2世代遡ることになる。



天文学を志す人なら当然知っている学者だと思うが、一般の人で荒木先生を知っている人はほとんどいない。日本の科学史に多大な貢献をした科学者をブログで紹介するのも僕の役目なのだと思った。



アンケートはここ


五島光学研究所に長年お勤めになった児玉光義さんは、本書が誕生した背景や荒木先生のことを13回に渡る連載記事で紹介されている。

『現代天文学事典』誕生秘話 1/13
https://www.domenavi.com/ippin/2014/08_1.html

また、荒木先生は京都産業大学の初代学長でもある。大学のHPでは先生のことが詳しく紹介されている。

学祖 荒木俊馬先生と建学の心を訪ねて(京都産業大学)
http://www.kyoto-su.ac.jp/about/enkaku/kenkokoro.html


先生が59歳だった1956年に643ページある初版が刊行されて以来、天文学の発展を反映して加筆・修正され、最終形の四訂新版(796ページ)が刊行されたのは1971年、先生が74歳のときである。そして1978年、81歳でお亡くなりになった。つまりアポロ11号の人類の月面到達やアポロ13号の奇跡の生還、最晩年にはバイキング1号2号から送られてきた赤茶けた火星の景色の写真も先生はご覧になっていたことになる。

分厚いぺスキンの場の量子論の教科書と並べるとこのような感じである。



クリックで拡大


数学が得意だったとはいえ、大学レベルの物理や数学を学んでいない高校生が理解できるはずがない。この本の凄さを実感したのは大学生になってからだ。そして先生はお一人でこのような大著を手書きで執筆されたこと、さらにこの本は活版印刷で図版や写真がふんだんに載っている。どれほどの手間と精力をつぎ込んだことだろう。パソコンで本が簡単に修正できる現代では想像を絶している。

このような大著は近年ほとんど刊行されなくなった。「岩波 理化学辞典」が最後に刊行されたのは1998年だし、「岩波 数学辞典」も最後のものは2007年刊行だ。

今では専門知識をインターネットで簡単に、そしてリアルタイムで共有できる。このような大著が必要とされる時代は終わったのかもしれない。とはいえ「プリンストン 数学大全(朝倉書店)」のような本は依然刊行されているのも事実。

もう少し見てみよう。これは巻頭の写真集の一部。(写真クリックで拡大)

 

そして、一般相対性理論、アインシュタインの重力理論、ド・ジッターの宇宙。
(写真クリックで拡大)

  

構成はこのとおり。

第一部「天文学の基礎と実地天文学」
第二部「天体力学」
第三部「太陽系」
第四部「恒星界」
第五部「銀河系外星雲と現代の宇宙論」
第六部「増補」

目次だけで15ページもある。番号をクリックするとページが開く。(目次全体:PDFファイル

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15


そして、先生がどれだけご苦労されたかは6ページに渡って書かれた序文を読むとおわかりになる。(序文全体: PDFファイル

  

  


漫画家の松本零士さんも、荒木先生の著書に影響を受けたおひとりである。1938年生まれの松本さんは12歳のとき、荒木先生がお書きになった「大宇宙の旅 (1950年) 」を読んでいた。この読書経験と宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」のイメージが、後に「銀河鉄道999」や「宇宙戦艦ヤマト」の誕生へとつながったのである。



松本零士さんと「銀河鉄道の夜」、「大宇宙の旅」とのつながりは、次の記事で読むことができる。

「星野鉄郎」の生みの親・松本零士の半生を10冊の本でふりかえる
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67685

2011年には、このような講演会も行われていた。

松本零士が天文学者・荒木俊馬を語る講演会
https://natalie.mu/comic/news/54865


松本零士さんに影響を与えた荒木先生の本は2006年に復刻され、今でも買うことができる。帯には「この本に巡り合えなかったら、確実に自分の歩む道は違ったものになっていただろう。松本零士」と書かれているだけでなく、巻末には「ぼくの大宇宙の旅」というタイトルで松本零士さんが荒木先生への感謝文をお書きになっている。

復刻版 大宇宙の旅: 荒木俊馬


内容紹介:

ホーキング博士に挫折した方へ

アインシュタインの弟子・宇宙物理学者の名著 56年ぶりに復刻

どうして天文学は難しいのか?この本を読めば専門用語がわからなくても宇宙の専門知識が理解できる!自分の知識の再確認にも最適。

天文大好き少年が、光の精に誘われ宇宙への旅へ。ほうき星につかまり太陽系の惑星を見て回り、次は光の女神と一緒に太陽系を飛び出しシリウスなどを見に旅し、銀河系を離れて銀河を見てまわり、宇宙の果てへ...。

子供向け天文専門書にも関わらず、現代の天文学者も舌を巻くような本格的内容。天文ファンなら知りたかった難しい内容を、わかりやすく解説。特に、ケプラーの法則など物理的部分の解説のわかりやすさは、涙ものです。本文で説明している基礎的内容は現代でも十分に通じ、最新天文学の解説は大阪教育大学・福江純先生により追加されています。 少年が光の精や彗星と大宇宙を旅する物語を読みながら、易しく天文や星雲について学べる構成は現代の『知的好奇心』をも呼び覚まします。漫画家・松本零士にとっては運命の本であり『銀河鉄道999』『宇宙戦艦ヤマト』の原点。当時手にいれた本は半世紀たった今でも『僕だけの宝物』。

専門書を手にする楽しみを味わって下さい。


関連記事:

第60回 神田古本まつり、第29回 神保町ブックフェスティバル
(荒木俊馬先生の大著「天体力学」を購入した。)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1dcbb1a4e024501981edb21cda3c88fc

現代天文学 第2版(1978年): A.ウンゼルト著、小平桂一訳
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/58bbaf2651e6a230b411f7686bf22dc7

ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e3dbc9b3d10d4a9b6518b6b32429e22

ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8ad22de70df7be8e51a066ca8354106

宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6f36e8eedba5ee63a4f919d30a2cb20


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現代天文學事典 四訂新版(1971年): 荒木俊馬


目次全体:PDFファイル

第一部「天文学の基礎と実地天文学」
第二部「天体力学」
第三部「太陽系」
第四部「恒星界」
第五部「銀河系外星雲と現代の宇宙論」
第六部「増補」
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