人類が初めて目にしたブラックホールの姿
日本時間4月10日22時、世界6か所から同時発表のライブ配信で史上初のブラックホール画像が公開された。世界各地の電波望遠鏡で撮影したデータを合わせ、解像度を視力300万まで高めることで得られた画像だ。専門のページで詳しい解説がされているので、記録として手短かにブログ記事として残しておこう。今回は日本語で発表が見れたのがよかった。
記者会見:イベント・ホライズン・テレスコープによる研究成果
本間先生の解説開始: 4分30秒後
ブラックホールの画像公開: 9分28秒後
質疑応答開始: 38分16秒後
無料公開されている論文:
https://iopscience.iop.org/journal/2041-8205
ブラックホールシャドウのメカニズム解説映像 / Photon paths around a black hole
黒い部分がブラックホールではない。ブラックホールの事象の地平面(ブラックホールの表面)は黒い部分の40%の直径ほど。(40%はだいたい1/2.6)、この動画を見ると意味がよくわかる。
How to Understand the Image of a Black Hole
世界6か所の電波望遠鏡から直接得られた5ペタバイトのデータを合わせるとこのような画像になるという。3つのチームがこのデータをそれぞれ別々の手法で解析して画像処理をした結果、3チームとも記事トップの画像のようなリング状の画像が得られた。3チームの画像を平均化したのが公表された画像である。日本チームが使ったのが「スパースモデリング」という手法だ。
画像解析のアルゴリズムを開発したKatie Boumanによる解説はこの動画でご覧いただける。2017年4月に公開された動画だ。
How to take a picture of a black hole | Katie Bouman
次はブラックホール画像の発表の後に行われた説明動画だ。(日本語字幕なし)
Katie Bouman “Imaging a Black Hole with the Event Horizon Telescope”
ツイッターでアンケートをとってみることにした。
https://twitter.com/ktonegaw/status/1117302900990959616
アンケートをさせてください。4月10日に公開されたブラックホールの画像は、画像解析の結果、生成されたものです。あなたはこの画像がブラックホールの存在を証明していると思いますか?
最終結果: 回答数221
- 証明していると思う。:36パーセント
- 証明していないと思う。:14パーセント
- わからない。:50パーセント
今回撮影されたのはブラックホールの影で、ブラックホール本体の質量は太陽の65億倍だという。2015年9月に重力波初検出をもたらしたブラックホール連星の質量は、それぞれ太陽質量の30倍程度であることから、いかに巨大なブラックホールであることがおわかりだろう。またこのブラックホールは5500万光年離れたM87銀河の中心部にあるので、宇宙全体からみるとかなり近い場所にある。(重力波初検出のときのブラックホールは13億光年離れている。)
会見が行われる前にしていたツイート: 連投ツイート
会見中にしていたツイート: 連投ツイート
会見を行なった本間先生の著書を見つけた。2017年4月19日刊行、272ページ。
「巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る (ブルーバックス)」(Kindle版)(紹介記事)
会見で映された主なスライドを載せておこう。
テレビ朝日の報道ステーションでも取り上げられた。(動画再生)
ブラックホールは1915年に発表された、アインシュタインの一般相対性理論によるアインシュタイン方程式(重力場の方程式)から理論的に導かれる。これは質量のある物体が存在すると、その周囲の空間の長さが縮み(結果として空間が曲がる)、時間が遅れることを示す数式だ。しかし、アインシュタイン自身はブラックホールのようなものは現実の宇宙には存在しないとし、否定的な論文も書いたそうだ。空間が曲がることの意味がわからない人は「宇宙の形、ガウスの曲面論と内在幾何(第1回)」から始まる連作記事をお読みいただきたい。
アインシュタイン方程式(重力場の方程式): 解説動画
意味はこのようなものである。
この式からカール・シュヴァルツシルトが1916年に導いたのがシュヴァルツシルト解というブラックホールをあらわす最初の解である。(球対称で回転していないブラックホール)
注意:この式で右側の特異点は物理的なものではない。詳しくはウィキペディアの「シュヴァルツシルト解「歴史」」の解説を参照。
学んでみたい方は「ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平」や「一般相対性理論に挑戦しよう!」をお読みになるとよい。
その後「ライスナー・ノルドシュトロム解(1916、1918)」、「カー解(1963)」、「カー・ニューマン解(1965)、ワイル解(1917)、冨松・佐藤解(1972)の順に発見されていった。
シュバルツシルト解(電荷を持たず、角運動量も持たない解)
ライスナー・ノルドシュトロム解(電荷を持ち、角運動量を持たない解)
カー解(電荷を持たず、角運動量を持つ解)
カー・ニューマン解(電荷を持ち、角運動量も持つ解)
ワイル解(球対称ではなく、軸対称の解。回転はしていない。)
冨松・佐藤解(ワイル解の回転バージョン。特異点が事象の地平面の外に剥き出しになるという特徴あり。T-S解、トミマツ・サトウ解とも表記される。)
参考:「ブラックホールの種類」
1965年までに発見されたのは「数式上」であることにご注意いただきたい。この分野のパイオニアのひとりホイーラー博士がブラックホールという名称を考え出したのは1967年のことであり、ブラックホールの存在が白鳥座X-1の観測により間接的に検証されたのが1971年のことだ。2015年になるまでブラックホールの存在は確定的ではなかった。だから1916年から1971年までブラックホールは理論上の存在だったのである。
イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)・プロジェクトによる今回の成果は、ブラックホール天文学の幕開けであり、ノーベル物理学賞級であることは間違いない。ただ、国際チームであること、協力者の人数が多いことから、受賞者を選考するのは相当困難だと想像している。
ともあれ、このようなライブ配信を見ると毎回感動させられる。この10年の間にヒッグス粒子の発見、重力波の直接初観測、重力波を中性子星で観測、ブラックホールの直接撮影という人類史に残る発見を目の当たりにできる僕たちは、本当に恵まれているとじみじみ思うのだ。
4月11日午後10時00分~ 午後11時00分にコズミック フロント☆NEXT「史上初!ブラックホール直接観測」が放送される。お見逃しなく!(再放送は4月17日(水)午後11時45分から。)
内容:強烈な重力を持つ魔の天体・ブラックホール。アインシュタインが予言した謎の天体だ。このブラックホールを直接観測しようという、史上初のプロジェクトが進められている。世界各地の望遠鏡をネットワークで結んで、仮想的に地球サイズの巨大望遠鏡を作ったのだ。しかし、10年に及ぶ準備期間をへて始まった観測では、次々とトラブルが発生。研究者たちに難題が襲いかかった。果たしてその結果は?最新の研究成果を密着報告!
アメリカで行なわれた記者会見は、こちらの動画でご覧いただける。
Scientists From The NSF Hold Conference On Results From The Event Horizon Telescope | TIME
--------------------------
2022年5月12日に追記:
いて座A*のブラックホールの画像が撮影され、記者会見が行われた。直接撮影されたブラックホールは2つになった。
天の川銀河のブラックホール撮影に成功 国立天文台らが研究成果を発表(2022年5月12日)
関連記事:
巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る: 本間希樹
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c847e0b9662e20720b9e6acf5cd4f370
ゼロからわかるブラックホール: 大須賀健
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3f08c2ddb0f6168b502dac4a70f3a7e
ホーキング、ブラックホールを語る:BBCリース講義
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6fb5c3578db1c26382c831983fd44e04
ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e3dbc9b3d10d4a9b6518b6b32429e22
ホーキングとペンローズが語る 時空の本質―ブラックホールから量子宇宙論へ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/619ab76ac18fd5c0416ff82e4cad85f4
ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/76795b03e7dc89cd08dac67dc25b73ab
ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8ad22de70df7be8e51a066ca8354106
ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f4401f2ce79451070b7b9c089f304315
一般相対性理論入門 ブラックホール探査: テイラー、ホイーラー
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c928268aab686a527be93385b45402c2
一般相対論の世界を探る―重力波と数値相対論:柴田大
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/50d12fda1c0e59132d6f5f2e73d9e302
ホーキング博士の訃報に接し (Stephen Hawking passed away)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/63860b8ac08b47f1fc9c5cbac3f9ca8f
神は老獪にして…: アブラハム・パイス:アインシュタインの人と学問
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d9258ed7a2d52173116ccd6e61ba0881
映画『インターステラー(2014)』
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/58711fc5335ca00f51a5d22df3f6cc58
応援クリックをお願いします。
ありがとうございます。ワイル解(1917)、冨松・佐藤解(1972)を追記しておきました!
こういうノーベル賞もんは、とね日記に来れば、情報集めてくれてるから便利です。
ブラックホールあるM87、元々はウルトラマンの故郷?
https://www.asahi.com/articles/ASM474CF0M47ULBJ004.html
ありがとうございます。M78がM87の誤植だとしても、ウルトラの星になぜM87を選ぼうとしていたかが気になりますね。調べてみるとM87よりM78のほうが地味ですし、M87は1918年の段階でジェットが発見されています。
誤植のことを知らずにウルトラマンシリーズを見ていたころ、なぜ地味なM78を故郷にしたのだろう?と思っていました。
今回の件は、スパースモデリングを進化させたという点では評価できますが、ブラックホールの証拠が得られたというのは納得しかねます。
コズミック・フロントにも有るように、理論的に得られた画像を手本にして、それに近いものを得るためにデータの加工方法を試行錯誤した結果の画像を見せて、「ほら、理論を裏付ける証拠です」と言われても・・・。
今回の画像がブラックホールだったのは、世間の目を引くための価値しか無いというのは言い過ぎでしょうか?
はじめまして。コメントありがとうございます。
SpaceLikeさんのおっしゃるとおりだと思います。会見では3つのチームが異なる画像解析手法を用いて得た画像がほぼ一致したからその平均をとったと本間先生はおっしゃっていましたが、コズミック・フロントで放送されていたように「試行錯誤」があったようですね。
「証拠」とするためには3つの手法の妥当性を検証する必要があると思います。
アルゴリズムを開発したKatie Boumanさんによる解説動画も記事に追加しておきました。
ブラックホールであることは別のデータから得られていて、これはブラックホールを前提とした画像生成でしょう。
手厳しいですね。しかし、おっしゃるとおり、ブラックホールであることは別のデータから得られているし、「正解」を知ったうえでの画像生成だと思います。
この形ではない画像も(試行錯誤の段階で)得られていたでしょうから、発表された画像の正当性がどのような理由で決定されたかを、正確に知りたいですね。「3つの異なる手法で同じ画像が得られたから」という理由では弱い気がします。
ツイッターでアンケートをとってみることにしました。
https://twitter.com/ktonegaw/status/1117302900990959616
アンケートをさせてください。4月10日に公開されたブラックホールの画像は、画像解析の結果、生成されたものです。あなたはこの画像がブラックホールの存在を証明していると思いますか?
- 証明していると思う。
- 証明していないと思う。
- わからない。