とね日記

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アインシュタイン選集(1)

2008年01月13日 17時50分15秒 | 物理学、数学
正月から読み始めた「アインシュタイン選集1」を読み終えた。この第1巻には特殊相対性理論、光量子仮説、量子力学批判、ブラウン運動についての論文が収められている。それぞれその分野の一流物理学者によって日本語訳され、解説がつけられている。シリーズ全体の監修は湯川秀樹先生で、僕が古書店で買い求めた第1巻は2005年発行の初版第14刷だ。

アインシュタインは1901年から1949年までおよそ261の論文を発表している。ドイツ語か英語で書かれたもので、この「アインシュタイン選集」シリーズにはその中から重要と思われる40の論文が日本語に翻訳され、1971年に出版された。

理系の大学を卒業した程度の僕のような物理マニアに手におえるような本かといえば、YesでありNoでもあった。特殊相対論、光量子説、量子力学批判についての論文は大学の教科書より少し難易度が高いレベルなのでついていけたが、ブラウン運動についての3つの論文はちんぷんかんぷんだった。おそらくそれは僕自身が物性物理学を学んでいなかったのと、高校時代から化学嫌いだったためと思われる。ちんぷんかんぷんとはいえ全体的に文章が多いので何について説明しているのかは理解できた。けれども数式を理解できないまま読み進むのはちょっとつらいものである。

アインシュタインといえば一般に時空や重力の理論についてのイメージが強いが、光量子の発見や初期の頃の量子論擁護、分子運動論やブラウン運動についての論文を読むことで、彼の目は宇宙だけに向いていたわけでないことがよくわかった。彼は物性物理学の基礎を模索した物理学者でもあった。

第1巻に掲載されている論文タイトルと僕による簡単な説明を以下に紹介する。論文の掲載順と発表年は一致していない。


特殊相対性理論

[A1] 運動している物体の電気力学について(1905年)
光速度一定から導かれる特殊相対性理論、電磁気学のマクスウェル方程式に特殊相対性理論を適用させる電気力学についての論文。

[A2] 物体の慣性はその物体の含むエネルギーに依存するであろうか(1905年)
特殊相対性理論から導かれる慣性質量とエネルギーの関係の説明。

[A3] 質量とエネルギーの等価性の初等的証明(1946年)
E = m c^2の簡単な導出方法。

[A4] E = m c^2 --- 現代の重要問題(1946年)
文章のみで構成。質量に起因する核エネルギーが莫大であること、それが現代の世界に脅威を与えていることを解説した論文。この論文の中でアインシュタインはユーモアのセンスを披露している。核エネルギーが非常に大きいのに長い間発見されなかった理由として核エネルギーをお金にたとえて、それが大金持ちなのだがとてもケチなためほとんどお金を使わないから他の人から見ると金持ちに見えないようなこと、とわかりやすく説明している。


量子論と量子力学批判

[B1] 光の発生と変換に関する一つの発見的な見地について(1905年)
マクスウェル理論、輻射のエントロピーについてのウィーンの研究、プランクの量子仮説、ボルツマンの原理などから導かれる光量子仮説を発表した論文。プランクはエネルギーが離散的な値を取ることで輻射のブランク公式を導いたが、アインシュタインはそれを光にも当てはめ、それまで波と考えられてきた光に粒子性があることを予想した論文だ。

[B2] 光の発生と光の吸収の理論について(1906年)
プランクの輻射理論と光量子についての論文。光の発生と光の吸収の過程が説明される。光電効果の説明もこの論文で説明されている。この論文で光量子仮説はさらに確実なものとなった。

[B3] 輻射に関するプランクの理論と比熱の理論(1907年)
輻射に関するプランクの理論から物質の比熱が定量的に計算できることを示した論文。

[B4] 一原子分子からなる固体における弾性的性質と比熱の関係
固体としての金属の比熱と弾性率、光学的固有振動数の関係を説明した論文。

[B5] 一原子理想気体の量子論(1924年)
一原子理想気体への量子論の適用、古典力学(マクスウェル分布)への影響についての論文。

[B6] 一原子理想気体の量子論(第二論文)(1925年)
凝縮した気体つまり、飽和理想気体は力学的統計に従う気体と性質が異なる。この論文では量子論、ボルツマンの原理などから飽和理想気体の性質、気体粘性について説明している。

[B7] 量子論による輻射の放出と吸収(1916年)
プランクの量子論をベースに、輻射場にあるプランク共鳴子と輻射の放出と吸収について説明した論文。つまり量子論的に光の放出と吸収が説明されている。

[B8] 輻射の量子論について(1917年)
量子論によってプランクの輻射の法則が導かれること、輻射場の中で分子運動が計算できることを示すことにより、量子論の正当性を主張した論文。

[B9] シュテルンとゲルラッハの実験についての量子論的注意(1922年)
磁場に影響されて運動する原子についての量子力学的実験の結果の解釈についての論文。文章だけで記述されている。実験結果についての解釈が不完全なのは量子力学が完全でないからだと主張した論文。もちろん現在ではこの主張が誤りであることがわかっている。

[B10] 量子力学における過去と未来についての知識(1931年)
量子力学批判の論文。量子力学は未来を正確に決定しないならば、過去も不確定になってしまうと主張。文章だけで記述されている。

[B11] 物理的実在についての量子力学的記述は完全であると考えることができるであろうか(1935年)
一般に「EPR論文」として知られる有名な論文。文章と数式で記述され、量子力学の波動関数を例にとって不確定性原理や観測が量子力学的運動に与える影響についての反論を展開している。

[B12] 量子力学と実在(1948年)
文章だけで記述された強烈な量子力学批判。量子力学は物理的な実在という概念を否定するので科学とは認められない。量子力学は不完全な理論なので、今後の物理学の発展のためには完全な理論になるよう研究すべきだとする論文である。


ブラウン運動

[C1] 熱の分子論から要求される静止液体中の懸濁粒子の運動について(1905年)
分子運動論から液体中の粒子の拡散の様子を運動方程式で説明した論文。

[C2] ブラウン運動の理論(1906年)
熱力学(ボルツマンの原理)、プランクの輻射公式からブラウン運動を説明する論文。

[C3] 臨界状態の近傍における均質液体および混合液体の蛍光の理論(1910年)
液体の蛍光(チンダル現象)についての論文。難易度が高くてまったく理解できなかった。

関連リンク:

アインシュタイン選集(1)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/26d6fc929bf7b9f0fc1e2a210882f559

アインシュタイン選集(2):読みはじめた
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e

時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e

少年の頃の夢(の続き)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a6e4b9271cd56b2e85c3bdaa0b8b7cae

趣味で相対論
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/90aa60383b600ff4e4fd7bea6589deaa

とね書店:

アインシュタイン選集(1)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030192/503-5691539-3879144

アインシュタイン選集(2)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030206/503-5691539-3879144

アインシュタイン選集(3)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030214/503-5691539-3879144

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2 コメント

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難しかったです。 (会津若松)
2013-06-15 22:01:56
独学で一般相対性理論を勉強して左辺を理解するだけで10年かかりました。数学課をでた友達はいたのですが、リーマン幾何学など勉強していなかったようですし質問も出来ませんでした。添え字がたくさん出てきて現在の式から次の式を導き出すのについていくのがやっとでした。それも何度も読見返して。よって全体で何をいいたいかなど全く分かりませんでした。例えば、曲率テンソルを縮約してリッチテンソルを作るといってなんとか数式についていったとしてもどうしてそんな事するんだろう?等など
返信する
Re: 難しかったです。 (とね)
2013-06-15 22:24:45
会津若松さんへ

はじめまして。コメントをいただきありがとうございました。
一般相対性理論、特にリーマン幾何学は確かに難しいです。アインシュタイン選集の論文は「教える」ために書かれていないこと、そして共変微分の表記が現在使われているものと違うので読みにくいです。

僕が読んだ中では「EMANの相対性理論」がいちばん理解しやすく、その次は「時空の幾何学」でした。

EMANの相対性理論
http://homepage2.nifty.com/eman/relativity/contents.html

時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e

一般相対性理論のように膨大な理論は、ざっと全体の流れをつかんでから個々のモジュールを詳細に理解するという2つのアプローチが必要になると思います。また一気に読める程度のページ数の教科書を選ぶのもコツだと思いました。


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